ヤーメーテー
「う〜あ〜」
「ハァ〜、いい加減泣きやみなさいココット」
全力で落ち込み私に縋り付くココットに、盛大にため息を吐きながらエグゼリアが頭痛を堪えつつたしなめる。
「そうですけど〜」
それでもやはりココットの落ち込みは改善しない。
「まあまあエグゼリア。現物目の前にして連れ出されたんだからしゃーないよ」
あの後、宣言通りお菓子を出したら、全員に一気に毟り取られ放置された。
もうね。私の本体はお菓子だったらしい。
甘味を求める食欲の怪物となった淑女達は、餌に群がる動物のようにお菓子を貪っていつのだが、そこに私が来たことを知ったエグゼリアがやって来た。
そしてココットは私の担当という理由で無理矢理人間へと引き戻され、ここに至るのであった。
うん。全員凄くいい顔で見送ってたけど絶対残す気はなかった。
仕事頑張れとは言ってたけど、頭数が減る事を一番喜んでいたのは誰が見ても明らかであった。
「そうですよ〜。だって、だって絶対戻ったら全部なくなってますもん」
まあ、あの勢いだとココットに残しとくなんて理性が働く奴はいないだろう。
だって全員目が血走ってたし。正直、龍族や邪神よりもよっぽど怖かった。
「いつまでもこうしててもしょうがないしそろそろ動こうかココット」
「でも〜」
「ふぅ〜甘いな少女よ。いい加減泣き止むがいいさ。私がこの事態を想定していなかったとでも思っているのか?」
「えっ、まさか!?」
「私の専属様とエグゼリアには新作お菓子のマリトッツォなるお菓子があるのだが?」
「マリトッツォ……なんか分からないですけど、なんて甘美な響き。すぐにお茶と書類用意してきます!」
「行ってらー。さて、じゃあ話進めよっか」
見事に立ち直ったココットを見送ると、エグゼリアに向き直り話を再開する。
「全く、手馴れたものね。最初から出せば良かったんじゃない?」
「ココットの泣き顔が可愛かったのでつい。という冗談は置いといて、ぶっちゃけ仕事頑張れの話しながら食べるのもなぁ。って思ってたのが本音」
「ああ、なるほどね」
「でもまあ、あのままじゃ進まなかったからしゃーなしよ」
「お待たせしましたー!」
息を切らし走ってお茶の用意をしてきたココットに、エグゼリアと二人で苦笑しながら報告会という名のお茶会が始まった。
「───て、感じかな? そんで今日ようやく帰って来た」
連れ去られてから今この時までの事を一通り話す。
するとそれを聞いた二人はそれぞれ全く別のリアクションを取りながら、驚きを隠せずにいる。
エグゼリアは頭を押さえ頭痛をこらえるように俯き胃を押さえている。
ココットは食べていたマリトッツォを落としかけ、慌ててキャッチしている。
「あの、ハクアさん?」
「何、ココット」
「率直な意見を言わせていただいても良いですか?」
「どうぞ」
「なんで生きてるんですか?」
「それ私が一番疑問に思ってるわ〜」
いや、マジで、自分で話しといてなんだけど本当によく生きてるよね私。
「やっぱりそうですよね〜」
二人でアハハと笑っているとエグゼリアが先程よりも盛大にため息を吐いた。
「まあ、なんにせよ。ハクアが無事でよかったわ。それで、今の話だと今この街には五体のドラゴンが居るって事よね?」
「そうなんね。ちなみに私も属性的には最近ドラゴンになってたぜ」
「えっ、そうなんですか!?」
「うん。鬼で龍で獣です」
「属性過多ね」
「私もそう思う」
そのせいでめっちゃ苦労してますからね。まあそのおかげで助かってもいるからなんとも言い難いが。
「まあ、ハクアはどうでも良いわ」
「言い方よ」
「そのドラゴン達は大丈夫なのよね? ぶっちゃけ、ハクアの言うクラスの相手だと、この街の全勢力をかき集めても二体か三体が限度よ」
うん。まあ、そんなもんだろう。
「大丈夫だよ。その辺は私がキチンと責任持つ」
「それなら良いのだけど」
うーん。やっぱり納得はしきれてないようだ。そういえば、澪がギルドにこの話をして、納得しないようならこう言えば良いって言ってたっけ?
うん。ぶっちゃけなんの保証にもならないし、言っても意味ないと思うけど一応言っておくか。
「澪からの伝言なんだけど」
「ん?」
「その五人は私より常識あるから大丈夫だって、むしろ私を止める抑止力にもなるとよ」
「そう……それなら安心ね」
あからさまにホッとしたーー!?
「ちょっと待とうか? 言っといてなんだけどこれになんの安心材料もなかったよね!? むしろ私なんてその辺の冒険者でもなんとか出来るレベルぞ!?」
なんだったらこの国の中では一番強い、騎士団副団長のフーリィーの方が私よりも強いだろ!?
「でもその五体───いえ、五人はハクアより常識あるのよね?」
「いや待てそもそも私の方が人間世界の常識は当然あるぞ」
「ええ、ハクア程度あればまあ十分よ。むしろハクアが暴走した時に抑えられる方が重要だし」
「どんだけ私を危険視してるのかな!?」
「……地下カジノは順調?」
「あそこは順───何を言ってるのか分からないんだよ?」
「そこまで言ったらもう喋ってるようなものなんだけど」
くっ、上手く乗せられた。かくなる上はこちらもカードを切ろうじゃないか。
「エグゼリアこそ、この間大勝ちしたみたいで良かったね」
「あら、なんの事かしら?」
アハハハと、二人で笑いながらこの件は無かったことにする。
「あ、あの、お二人共、そう言う話は私が居ない所でして欲しいです」
「私はココット信頼してるよ」
「ココット。何も聞いてないわよね」
「ひーん。私は何も聞いてないです!」
「「なら安心」」
うん。無事この件はなかったことになった。
「そういえば、副ギルド長になったんだってね。おめでとう」
「あら、聞いたのね」
「うん。さっきココットにね」
「出世する気なんてなかったのに、ハクアのせいで出世しちゃったわ」
「そうかそうか。私のおかげで出世出来たんだね」
「あら、耳が遠くなったんじゃない?」
「やだなぁ。私はエグゼリアが上に行ってくれた方が嬉しいだけだよ」
その方がやり易いし。
「便宜は図らないわよ?」
「便宜なんてそんなこと、お互い持ちつ持たれつでやってこうよって事だよ」
私がニッコリ笑うとエグゼリアもニッコリと笑って応えてくれる。
「この二人怖いよぉ」
失敬だぞココット君。
「そういえば、ハクアの事だから邪神を倒したっていうのも本当なのよね?」
「一応ね」
「貴女も本当に大概ね。邪神退治なんて一生に一度関わるかどうかの大捕物に、二回も中心人物として関わるんだもの」
「私も出来れば関わりたくないんですけど」
いや、マジで。
「ここまで来ると運命ね」
「ヤーメーテー。それ言われると次がありそうで嫌なんでい」
いや、憤怒とか予定に入ってないですからね。
「ふふ、それで今回もハクアの名前は伏せれば良いのよね?」
「うん。その方向で、次に来る時は、うちのドラゴン組も連れて来るから、そいつらが討伐した事にしてくれい。もう話はついてるし」
「了解よ」
「あの……それって良いんですか?」
「「副ギルド長権限」」
「もちろんココットは黙っててくれるよね?」
「ええ、ココットはちゃんとわかってくれるもの」
「は、はい!」
こうしてお茶会を再開し、話はつつがなく終わったのだった。
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