一番の反省
とにかく帰ってきてからの私は忙しかった。
居なくなっている間の報告に、邪神の力のコントロール、尋ねてきた人間と要件の把握などなど多岐わたり、ベルディアが力を吸収して得た能力の検証などなど。
その合間合間に差し込まれる説教という時間を過ごし、翌日、ようやく解放された私は外回りに出ていた。
まあ、簡単に言えば帰ってきた報告を各所にしながら、尋ねて来た人達のところに行くだけなのだが。
そんな私が最初に来た場所は孤児院からだ。
私が居ない間もちゃんと支援も教育も進んでいたようで、孤児達は元気に走り回っていた。
「お、ハクアだ!」
「本当だ!」
「わーい!」
「やばい見つかっ───ギャー!!」
油断して見付かった私は、早速人のみぞおちを狙いすますお子様ロケットの洗礼を浴びる。
くっ、こうなれば早い段階で切り札を切るしかない!
「受け取れガキンチョ共!」
亜空間から用意していたお菓子を取り出しばら撒くと、ガキンチョ共の興味は一気にそちらへ移り私はなんとか脱出できた。
ふいー、熱殺蜂球を受けた気分だぜ。
「フフフ、お久しぶりですですねハクア様」
「やはー。変わりわないかい?」
「はい。ハクア様が居ない間も皆様に大変良くして頂いてました。教育もさることながら、毎月の援助も、おかげで子供達も飢える事も凍えることもなく過ごしています」
「良き良き」
どうやらこの辺は問題ないみたいだね。
「おお、嬢ちゃん帰って来たのか?」
「おっ、真面目に働いてる?」
「見りゃわかんだろ。俺を含めほかの奴も真面目にやってるよ。こんな割の良い仕事ねぇからな」
このおっちゃん、フグリットは引退した元冒険者で、今現在は孤児達に身体の使い方や、将来的に冒険者を目指そうとしている子には軽い訓練もしてくれている教師役だ。
他にも孤児院を手伝いながら料理や裁縫を教える人材、物の作り方や計算や文字の勉強を教える人材も居る。
フグリットにはその辺のまとめ役もこなしてもらっている。
アイギスに言わせれば、下手な教育機関よりも余程贅沢な環境が出来上がっているらしい。
まあ、ほかの基準なんて知らないし、私の求めるレベルとしてはこの位は当たり前だ。
最近は孤児だけではなく、街の子供も無料で授業を受け、昼食を食べられるようにしている。
最初こそ孤児、しかも獣人まで混ざっている事で警戒されていたが、シスターの報告を聞く限りでは最近はようやく受け入れられてきたようだ。
「と、こんな所です」
「だいぶ順調みたいだね」
「はい。これもハクア様のおかげです。前まで清潔に保つのも難しかったので」
元々ここはほかの貴族が建てたもので、アイギスが寄付するにはその貴族を通す必要があった。
結果、結構な額が動いていたが、孤児院にはその大部分の金が行き渡らず、かなりの額中抜きされていた。
そこで私は綺麗に貴族を掃除すると共に、一時的にアイギス預かりとなったこの孤児院を教会ごと買収。
運営母体を私にする事で好き勝手やっているのだ。
「ふふ、そうですね。ハクア様が好き勝手出来る場所ですものね」
「そのわかってます。みたいな顔やめようよ」
「すみません。そういえば最近、良くない噂を聞く事が増えたのですが?」
「噂?」
「はい。詳しくは知らないのですがなんでも子供が拐われているらしいです」
ふむ。私が居ない間にそんなのが出てるのか。
フグリットに目を向けるとあまりピンと来ていないようだ。
「いや、俺は知らねぇな。シスター、それはどこで聞いた話だい?」
「フグリットさんが知らないのはしょうがありません。これはスラムの子の事らしいので、しかも実際の被害が本当に出てるのかも分からないんです」
「なるほど」
この国は他に比べればスラム化してる場所は少ないがそれでもゼロではない。
孤児院に入る事を嫌がる子供や、その子供を使っている奴も居るからこの辺はかなりグレーな部分だ。
「了解。一応私も気にしとくよ。と、そうだ。一番の用事忘れとった」
みぞおちお子様ロケットで記憶が吹っ飛んでたが、危うく忘れる所だったぜい。
私は素早くとある召喚獣を呼び出す。
「ん、こいつは召喚獣か? にしても、ただの子犬にしか見えねえぞ?」
「まあ、見た目は流石に配慮してるんよ。と、言うわけで、こいつこれから番犬代わりにここに置いたって」
「おいおい。いくら嬢ちゃんの召喚獣たって、流石にこの犬に番犬は難しいだろ?」
「いやいや、本来の姿はこっちだから」
パチンと指を鳴らすと、私が呼び出した子犬ことケルベロスがその真の姿を現す。
「うわっ!?」
「キャッ!?」
「ほら、びっくりする」
やれやれと言いながらケルベロスを再び子犬状態に戻すと、フグリットは当たり前だと叫ぶ。
むう。配慮したのに理不尽。
「本当に大丈夫なのか? というか、ケルベロスなんて魔獣、孤児院の番犬にするなよ」
「まあまあ、シスターは何かあったらこいつに頼むと良いよ。お前もシスターやガキンチョ共を頼むな」
「ワフッ!」
「えっと、よろしくお願いします。ハクア様、この子の名前はあるのですか?」
「とりあえず私は付けてないから、皆で相談して付けてあげて、お前もそれでも良いだろ?」
私の言葉にケルベロスは頷いて、シスターの傍に駆け寄る。
どうやらケルベロスもシスターの事が気に入ったようだ。
「餌は基本的にはあげなくても大丈夫だけど、まあ、ガキンチョ共があげたがったらあげても良いよ」
「そうなのですか?」
「うん。基本的に私の魔力が餌だし、なんなら好きな時に食えるように亜空間に常備してあるから、なくなったら言ってくるし」
「わかりました」
こうして用事を終えた私は、孤児院を後にし冒険者ギルドへと向かった───のは良いのだが、入るのが怖い。
「えーと、失礼しま───」
「ハクアさん!」
「えっ!? ハクアさん!?」
「や、やっと来た!?」
冒険者ギルドに入るや否や、受付嬢の皆が業務を放り出して殺到する。
「ギャー、落ち着け!?」
「落ち着いてなんて居られないですよ」
「「「そーだ! そーだ!」」」
私の専属受付であるココットが代表して私に詰め寄るが、私の逃げ場は既に受付嬢の壁でなくなっている。
くっ、退路を塞がれた。
「おい、何やってんだ! さっさと査定しろよ!」
と、強面の男が私の周りに集まった受付嬢達に詰め寄り文句を言う。
確かこいつCランクの奴だっけ?
「「「あ゛ぁ゛?」」」
「ひっ!? すみません!?」
だが、そんな勇敢な男の当然の要求は、受付嬢全員の一睨みで強制的に黙らされた。
あっ、奥から男性の受付の人が出てきて慌てて対応しとる。
「ハクアさん! 私達をこんな体にして、二ヶ月近くも何処に行ってたんですか! もう、もう、私達はあれがないと生きていけないですよ!」
もしかしてもしかしなくても、私は彼女達を軽い気持ちでとんでもないモンスターにしてしまったのかもしれない。
「ハクアさんのお菓子が二ヶ月も食べられなくなった悲しみが分かりますか!? 私達は何を楽しみに日々を生きていけというんですかぁー!!」
そう。恐るべき甘味モンスターに! いやいや馬鹿やってる場合がありじゃねぇや。
「うん。正直私はちっとも悪くないけどすまん。お詫びに沢山お菓子を持ってきました」
その言葉を聞いた受付嬢達の黄色い歓声が冒険者ギルドを包み込む。
やっぱり、こんな世界で女子に甘味を与えるとか軽々しくやったらダメなんだな。
お菓子の山を前に歓喜する受付嬢を眺めながら、私はここ最近では一番の反省をするのだった。
邪神を倒したハクアさんだが、甘味モンスターと化した受付嬢には勝てる気がしないのであった。
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