そこはスルーしてくれるかなぁ!?
ちょいといつもより長めです
「白ちゃん……」
「うん。久しぶりお姉ちゃん」
「そっか。気が付いていたんだね」
ヒビ割れ、崩壊していく世界の中で久しぶりに姉妹で話す。
「残念。もうちょっと続けられると思ったけど、お話すれば良かったかな?」
「そうだね。それだったらもうちょっとお話できたかな」
「それで? どこから気が付いてたの?」
「割と最初の方から……かな」
「そっか……と言う事は、精神年齢が逆行してないのに、黒ちゃんとか甘えて、やっふーとか言ってくれてたんだね」
「そこはスルーしてくれるかなぁ!?」
やめてよ恥ずかしい!
「でも、本当に美人さんになったね白ちゃん」
「そう……かな」
白と黒。
同い年になった私達は鏡で写したようにソックリだ。
「おっきくなったね」
「うん」
「頑張ったね」
「うん。頑張ったよ」
「うん。知ってる」
「そっか……やっぱり、今の黒ちゃんは私の記憶から作られた存在なんだね」
そうでなければ私の今を知っている訳がない。
そう言うと黒ちゃんは曖昧に笑う。
「さて、この世界が崩壊するまで時間も少ないし、さっさと大事な話をしようか」
「大事な話?」
「そう」
黒ちゃんが手を振ると、いつもの部屋で寝ている皆の姿が映し出される。
「これが今の外の状況。簡単に整理すると白ちゃん達は今敵の攻撃を受けてる最中」
「ほ、ほほう?」
「敵は邪神、怠惰のベルフェゴール。誰かが龍の里に封印されていたベルフェゴールを解き放ったみたいね。この攻撃は夢に干渉してその相手を意のままに操る攻撃みたい」
「へ、へぇ〜」
「状況は最悪。里の全員が敵の手に落ちてるうえに、邪神関連の事態だから、干渉不可で追い出された女神や龍神以外のほぼ全てが敵になったみたいね」
「ちょっと待って」
「どうしたの? あんまり時間ないけど?」
「いえ、あの……私の記憶から作られたのになんで私が知らない事を次々に言えるの?」
おかしくない!?
「それは白ちゃんの中のイメージが完全無欠な感じだからかな。今は攻撃を逆手に取ってパスを繋いで、そこから情報を探って抜き取っている所だよ」
「私の中のお姉ちゃん像が万能な件について!?」
えっ、凄すぎじゃない?
「続けるね。悪い事しか言ってないけど良い事もあるよ」
「本当に?」
「うん。と言ってもこの状況からするとささやかだけど。今、白ちゃんの近くで寝てる子達は完全に敵の手に落ちた訳じゃないから、今ならまだ起こせるはずだよ」
「なんで皆だけ?」
「それはもちろん白ちゃんのおかげだよ」
「私の?」
私、ただ寝てるだけなのだが?
「白ちゃんはなんで邪神関連の事態だと神が干渉不可で手出し出来なくなるんだと思う?」
そういえば考えた事なかったがなんでだ?
「答えは簡単。神同士が争えば地上への影響が大きすぎるからだよ」
「ああ、なるほど」
言われてみれば確かに納得の答えだ。
「でもそれがどうして私に関係があると? 私が戦ったところでそんなに影響が大きいとは思わないけど?」
「……白ちゃんって本当に自分の事だけはわからないね」
「意外と冷静に分析出来てると思いましてよ?」
だって弱いのは事実だし。
「白ちゃんは前に暴食とやり合ってるよね?」
「うん。ベルゼブブとは戦ったね。あれも面倒だった」
「そうだね。それで最後はどうしたか覚えてる?」
「……食った?」
「そう、食べたよね。そうする事で白ちゃんは暴食を取り込み、その力の一部を自分のものにした。ここまでは分かる?」
「うん。ワタシワカル」
「続けるね。そのせいで……この場合はお陰でかな? そのお陰で白ちゃんは属性的には邪神の属性も手に入れてる」
「なんと!?」
鬼、獣、龍に飽き足らず邪神まで属性に入ってたのか!? くそぅ、油断してた。
「それで、実はあまり知られていないけど邪神にもルールがあるの」
「ルール?」
「そう。それがお互いに不可侵である事」
「……つまり、私が限定的に邪神の力を持ってる事で、怠惰のベルフェゴールの力が私の周辺では効きづらいって事?」
「そう。見えないけど白ちゃんを中心に一種のフィールド、陣地のようなものが形成されているの。そのおかげだね」
「なるほど、皆だけって事は範囲は広くなさそうだね。それに完全に防げてない辺り、あまり過信はしない方がいい感じか」
「そうだね」
うーん。微妙なようなありがたいような。まあ、ないよりはマシか。
「まあ、今の状況はこんな感じかな。他に質問はある?」
「んーん、ありがと黒ちゃん。状況だいぶわかった」
まあ、絶望的だって事がだけど。それでも皆の事もわかったからすぐに対処出来る。
「どういたしまして。と、そろそろ時間かな?」
「ん。そうかも」
私自身の覚醒が近いのか、身体が徐々に透けてきた。
「さて、それじゃあ。最後にひとつ」
「へ?」
「もう、大丈夫だと思うからね」
「何言って───」
近付いて来た黒ちゃんが私の頭に手をかざした瞬間、私の中に濁流のように映像が流れ込む。
降りしきる雨の中。
横たわる誰か。
その前で必死に泣き叫ぶ私。
……ああ、命が零れる。
雨と共に流れる血が、雨と共に冷えていく身体が、刻一刻と命を垂れ流して死へと向かわせる。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん! やだよ! 行かないで、行かないで行かないで。やだ。やだ。行っちゃやだよ。お姉ちゃん!」
どれだけ叫んでも返事がない。
どれだけお願いしてもあの笑顔をもう向けてくれない。
暖かった手は氷のように冷たくて。
喉が裂け。
心が軋み。
私が壊れる。
「あ……ああ……アアアアアアアアアア!!」
しかしそれも長くは続かなかった。
後頭部に衝撃が走り私の意識が混濁したからだ。
「……本当にこれしか方法はなかったのか?」
降りしきる雨が私の意識を完全には奪わせない。
それを知らずに誰かが横たわるお姉ちゃんに話し掛ける。
「……だって、仕方ない……でしょ? こうしなければ……あれが何をするか……」
「だとしてもだ!」
途切れ途切れの声に───師匠が叫ぶ。
「こんな子供に背負わせてまで」
「これが……この子の幸せに繋がるの」
頭に誰かの手が触れる。
「だって……この子は私達の希望だもの。どうしようもない……偽物の私達とは違う。この子だけが本物なんだもの。だか……ら───」
手が……頭から離れ、声が消える。
「馬鹿な娘だ。この子の本当の幸せを願うなら、お前が居なくてどうする」
心も身体も冷えきった私を誰かの温もりが満たす。
「だが、それでもお前の願いは聞いてやろう。それが、歳の離れた友人の最後の頼みなのだから」
薄れゆく意識の中、その言葉だけが聞こえた。
「……今の何?」
知らない。こんな記憶、私は知らない。
だが、今見たものが事実だと、私の頭が、私の心が、私の魂が叫んでいる。
「お姉ちゃん今の! って、普通になんか消えてるし!? えっ、どこ行ったの? この状態で放置は勘弁なんだよぉぉ!?」
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「行ったか」
「なんだ居たのね」
ハクアが消えるのをこっそり見送った黒華の前にナニカが現れる。
「今はナニカと名乗っているのだったかしら?」
「ああ、お前の妹が付けた名だ」
「流石白ちゃん。いいセンスしてる」
「お前本当に変わらないな。それで、良かったのか?」
「何がかしら?」
「何がも何も無い。お前はハクアが予想した記憶を元に作られた存在じゃなく、あいつの中に居た力の残滓、本物の士道黒華だろう?」
「ええ、そうだけど?」
ナニカの言葉に事もなげに返す黒華。
それに呆れるナニカ。
「もう行くのか?」
「ええ、流石に力を使い過ぎたもの。残滓程度に出来るのはここまでね」
「そうか。お前はハクア以外で私の事を知っている唯一の存在だったからな。寂しいものだ」
「……アナタ、変わったわね」
「ああ、お前の中に居た時はまだこんな感情はなかったか」
「ふふ、流石私の妹ね。それじゃあそろそろ消えるわ」
「ああ、さらばだ。もう会う事はないだろうが、お前との対話も面白かったぞ」
「そう。私もまあ、退屈しのぎにはなっていたわ。それじゃあ……またね」
「ハ?」
ナニカの驚きにニコリと笑いながら消える黒華。
そしてナニカは黒華という人間の事を思い出す。
士道黒華にとって全ての人間、物に価値はない。
価値があるのは全てハクアに関わる者だけだ。
そしてそのハクアにだけは嘘を吐く。
完璧な姉である為に、自身の本質を悟らせない為に。
そしてハクア以外には決して嘘は吐かない。
それは無意味だからだ。
究極、ハクア以外にどう思われようと黒華にとってなんの問題もないのだ。
だからこそ嘘で取り繕う必要がない黒華がハクア以外に嘘を吐く事は絶対にない。
つまりは───。
「ハッハハハ。お前達姉妹は本当に楽しませてくれる」
嬉しそうに、驚きを隠しもせずにナニカの笑い声だけが響いた。
読んで頂きありがとうございます。
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