月の雫
一日目。
ハクアの作った大砲により、自動迎撃システムを構築した二人。
その後ハクアは更にその数を増やし、防壁も作成、周囲には幅十メートル、深さ五十メートル程の堀、モンスターの進行ルートに殺意の高い罠付きの落とし穴を作る。
その甲斐あって、ハクア達は大して苦労する事もなくモンスターを簡単に迎撃する。
偶に散発的に強敵が現れるものの、元々は溢れるほどのモンスターと共に来る予定だったもの。
ハクアの凶悪な罠と迎撃システム、強固な防壁に弱いモンスターは阻まれ、それを抜け出してきた強敵が単騎で突撃してくる始末。
結局ハクア達には簡単に察知され、ミコトによってすべての強個体は撃退された。
そしてこの世界、どうやらモンスターを倒しても経験値が稼げない仕様になっているらしい事をハクアが突き止めた。
普通の世界とは違うようだと二人で話しながら、突撃してきたモンスターをバーベキューの材料に、夜の襲撃もしっかり安眠される結果となった。
あまりにもモンスターが憐れである。南無。
二日目。
ハクアが見通し悪いからあの亀片付けようと言うので、朝早くから大亀討伐に乗り出す二人。
当初の予定通りハクアが鬼海の力を使い、大亀が自身を守る為に張っている【結界】を殴り始める。
すると数百発殴ったところで【結界】にヒビが入り、その隙を狙いミコトがブレスを放ち、大亀は呆気なく倒された。
その後も前日よりも押し寄せるモンスターは強くなったものの、更に防壁と大砲が強化され、呆気なくモンスターは蹴散らされていく。
結果、前日よりも抜け出して来るモンスターは多かったが、時折ハクアとミコトが交代で辺りを範囲攻撃で巻き込み、またもハクア達を脅かすことなく二日目も終了した。
三日目。
朝早くから防壁が崩される破壊音で目覚める二人。
「次は強攻撃の遠距離個体かぁ。いや、近距離で強そうな個体も居るな。防御の試練かね?」
「そうだね。ぶっちゃけハクアのせ───じゃなく、お陰で簡単に進んでたから忘れてたよ」
「ねえ、今、私のせいとか言おうとしたよね?」
「ほらハクア来てるよ」
「わかってらい。ってか、なんかミコト狙われるの多くね!?」
ハクアの言う通り、遠距離から放たれるレーザーのような光線は、何故かミコトに集中砲火されている。
どうやらハクアよりもミコトを狙いたいらしい。
「これあれだね。おばあちゃんの手が入ってるね」
「ああ、そうかもね。ずっと見てる感じかな?」
「そうじゃね? 多分時間の流れも外と違うっぽい」
「そうなの!?」
「うん。なんか山に入った時と、あの不思議空間の感覚に似てる。多分こっちの時間ほど向こう進んでないんじゃん?」
「全然わかんなかった」
「まっ、とりあえず二手に分かれんべ。私は遠距離の砲台行くから、近距離タイプよろしく」
「了解。場所わかるの?」
「うん。角度から砲撃位置は割り出した。ミコトも砲撃気を付けて戦ってね」
「わかったー」
言葉少なに分かれた二人。
ミコトは新たに加わったサイクロプスやオーガの相手を、そしてハクアは砲撃を掻い潜りながら、射手の元へと一気に移動する。
砲撃箇所は全十箇所。
十キロほど離れた位置から、ハクアの作った砦を取り囲むように配置されているモンスターは、ハクアが自身のテリトリー内に入ったと同時に散弾へと切り替える。
しかしその全ての弾丸がハクアには当たらない。
全ての箇所のモンスターが援護射撃の長距離砲で支援するが、それすらも全て簡単に避けるハクアにより、ミコトと分かれてわずか一時間で全てのモンスターは排除されてしまった。
途中から砲撃が全てハクアに向かった事で、ミコトも戦闘に集中し、全ての強個体があっという間に排除される。
その後はいつものように、修復された砦を無傷で突破出来る程の個体は居らず、のんびりと過ごして三日目も終了した。
四日目。
「これはまた」
「凄いねぇ……」
二人の間絵に広がるのは、埋め尽くさんばかりのモンスターの群れ。
それはもう、いっそ面倒になって全部出しましたと言わんばかりの数だ。
しかもこれまで強個体として出てきたモンスターだけで構成されている。
「のんびりやりすぎて不興を買ったか?」
「えっ、じゃあまたハクアのせい?」
「そうとは限らないでしょ!? もっと視野を広く持とうよ!」
「ええ〜」
「まあ、ぶっちゃけ最終フェーズだし、ここで潰すつもりで来るのは読めてたけど」
「そうだね。ふざけてないでやろっか?」
「だねー。見てても減らんもんな」
こうして、四日目の最終フェーズが幕を開けた。
迫り来る強敵達は、散発的に来る程度なら今のハクアなら苦戦はしない。
ミコト至っては余裕さえあるだろう。
しかしそれはあくまで散発的に来たらの話である。
ゴブリンの群れを彷彿とさせる無限湧き状態となっては、幾らハクアとミコトの二人とは言え、既に十二時間も休みなく戦い続ければ苦戦を強いられる。
「ああもう! 数多い。魔力がいくらあっても足らないよ」
「チッ! しゃーない。スコル、ハティこっち来て」
流石に辛くなってきたミコトの叫びに、ハクアは召喚していたスコルとハティを呼び戻す。
「ミコト。ブレスを一番厚いところに撃てる?」
「いけるけど、硬いの多いからそんなに巻き込めないよ」
「それでもいい。思っくそ頼む」
ミコトの言う通り、先程までのモンスターと違い、襲ってくるモンスターは段違いの力を持っていた。
防御も硬く、攻撃も強い。
正しく強個体というべきモンスターだ。
「それなら思いっきり!」
今までよりもブレスの攻撃力を上げるため、ミコトは魔法陣を展開してブレスの準備を始める。
「よし。スコル【覚醒】ハティ【輪唱】」
「「クォーン!」」
ハクアの言葉に反応して二匹が吠える。
二人の身体が光に包まれ、内側から力が膨れ上がる。
そして更に驚く事に、ミコトの展開した魔法陣がその数を五つに増し、五本の光線となって極光が放たれる。
「えぇ……何これ?」
あまりの威力に驚くミコト。
「スコルの力は太陽で活性なんよ。だからその力で私達を強化した。それでハティの月の力は構築、魔力で再現出来るモノを作れるから、ミコトのブレスを複製した」
「そんなの出来るならもっと早くやってくれれば良かったのに」
「まあ……ちょっと見せたくなかったってのがあって」
「そうなの?」
「押し切られても困るから余裕のある内に使ったけどね。それよりだいぶ減ったから後は私に任せて」
「大丈夫なの?」
「うん。スコルありがとう。ハティ【融合】」
ハティがハクアに向かって飛びかかると、光に変わりハクアの中へとはいる。
一瞬光に包まれたハクアは、白髪の中に金の髪が混ざったハティモードへと変化した。
「さて、終わらせるか」
ミコトと二人で空へと上がり【結界】で足元を作るとそう呟く。
そして───
「黒き月の帳よ 堕ちろ」
ハクアが握る拳から黒い液体が垂れ、地面へ落ちる。
するとその場を中心に液体が地面を満たし、地面に黒月がモンスターを囲むように現れた。
そして───地獄の蓋が開かれる。
「月を蝕め 月蝕餓鬼道」
ハクアの言葉と共に地面から黒い液体が這い上がり、モンスターに襲い掛かる。
しかし液体に力はないのか、モンスターが払うと液体は簡単に飛び散る。
だが……飛び散った液体が他のモンスターに触れた瞬間それは起きた。
モンスターに掛かった液体が黒い小さな泡のように変わる。
そして、それはモンスターの体を蝕むようにドンドンと広がり、モンスターを完全に包み込むと弾けた。
黒い泡が弾けた後には何も居ない。
泡は霧となり、霧がまた別のモンスターに掛かると泡を発生させる。
次々と、次々と、次々と、まるで感染するように広がる泡と霧が全てのモンスターを根絶やしにする。
「なに……これ……」
ミコトの口から声が漏れる。
しかしそれにハクアは答えない。
「黒き月よ」
ハクアが手を翳すと、モンスターだった霧を全て取り込み、地面に落ちた黒い月の帳が浮き上がり黒い球体に変化し、ハクアの翳した掌に現れた。
そして───
「何す───」
ミコトが止める前にハクアがその黒い液体を握り潰した。
ミコトの脳裏に思い出されるのは一瞬前の光景。
黒い霧がモンスターを蝕む姿。
「大丈夫だよ」
思わず身を守ろうとしたミコトにハクアの穏やかな声が掛かる。
その言葉に目を開けると、黒い球体から金の光が盛れ出している事に気が付いた。
「月の雫」
ハクアの言葉の通り、それは月から零れ落ちた光のように綺麗な光だった。
一緒前の光景など嘘だったかのようなそれが、二人を包み込み、体力、魔力、気力、怪我まで含めて全てを回復した。
「ねっ、平気でしょ?」
普段通りに笑うハクアにうん。と返事をしながらミコトは改めてデタラメな友人に溜息を吐いた。
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