「ですが……皆さん本当に無事で良かった」
「さて、では少し昔語りを致しましょうか」
そう言ってテアは自分の事、元の世界の事、そしてそれに連なる世界の事を語り始めた。
テアが言うには、このアースガルドと私達が居た世界。まあ、便宜上面倒だから地球と一括りにするが、以外にも沢山の世界が神の視点では存在するらしい。
そして、そんな数在る世界の中でも私達の居た地球は、他に類を見ないほど珍しい世界だったのだそうだ。
「珍しい世界?」
「ええ、地球は他の世界とは全く異なる世界です」
「何処が違うんだ?」
『貴女達の世界、地球は神々の意思や力が全くと言っていいほど介在しない世界なんですよ』
本来神と人との関係は、神が様々な形で恩恵や試練などを与える事で、その世界に住む者達を導くと言うのが正しい在り方なのだそうだ。それなのに神が滅んでいる訳でもなく、神々に見捨てられた訳でもない地球に、神の恩恵が無いのがとても珍しいらしい。
それはそんなに変なのか? ──そう思い周りを見ると元の世界を知る人間以外は信じられない──と言う顔をしていた。
何がそんなに信じられないのか、それは一番最初にシルフィンが語ったように、地球では様々なコンテンツで新造の神が産まれ、力を持つまでになっている。
にも拘わらず、地球人はいにしえの神々はおろか、自分達で崇め造り出した神ですら信仰せずにいた。それが信じられないそうだ。
「この世界にしても他の世界にしても、神とは崇め奉り信仰と祈りを以て接しますからね。地球のように創作物として産まれ信仰も祈りも無く、ただただ創作物と言う枠組みでありながら、力を得るまでに至る事は普通無いんですよ」
『そして、その歪ながらも神々が産まれる世界が地球なんです』
そりゃね。アニメに出る可愛いキャラの神様とかは確かに人気出て、実在の人間のように扱う人間も居るけど、いつか本物に出会えるなんて考えて好きになる奴はいないからね。
いや、中には居るには居るがとても稀有と言うか特殊な人間だろう。
『ですがそんな世界だからこそ、そこで力を得る神々は強力な力を有します。だから大手の企業などには、たまに本物の神々が人間として経営する事で信仰を集める事があるんですよ』
これは前にも聞いたな。つまりは選挙みたいな物だ。支持率がそのまま自分の力になる。
「更にそんな地球は、その他の世界の人間も多く居ます。妖怪、化物、神獣や悪魔などもね」
「えっ? 実在したの?」
「ええ、大半の人間は気が付く事無く一生を終えますがね。因みに警察の上層部や政府等では周知の事実ですよ」
「じゃあ、私の父も人外の存在を知っていたのか?」
「ええ、警察の内部には異世界の存在に対する組織も内密に作られていましたよ。澪さんの兄や白亜さんの姉もそこの所属でした」
「「なっ!?」」
『ティアマト様!?』
「大丈夫です。地球での急激な機械の進歩、武道における気の証明、医療の進歩、これら世界の進化とも言える事象のミッシングリンクは異世界の技術や能力、人間以外の生命の存在が大きく関連します。そうでもなければダイブ型のVRや、気功、不治の病などと呼ばれていたものは、未だに治せない難病だったでしょう。スポーツにおいても十数年前よりも飛躍的に記録が上がっているのは、人間に紛れた別の血が混ざっている混血も居るからですよ」
確かに授業ではそんなような事言ってたな? ここ数十年の技術の進歩は異常な程に早いとか。特にここ数十年は色々と革新的な発見、技術の進歩、記録が目覚ましいとか。
「ぜ、全然知りませんでした……」
「そんな混血も居るのか……」
『大半が自分の中の血に気が付きませんけどね』
「まっ、妖怪だなんだと言われても信じる事は出来なかっただろうしね。……いや、だからこそ……か?」
『ええ、メディアではこぞってその手の物を創作に落とし込みました。だからこそ、人は超常の事態に直面しても、人々の感覚は良くも悪くも麻痺していたんですよ。例えば自分に危険が無ければ、爆発が起こっても大半の人間は撮影か何かだと思うでしょ? それと同じです』
やべ、帰る気も無いけど帰ったら存在消されるくらいの事聞いてないか?
「その他にも異世界と呼ばれる世界の楔として、地球の人間を使う為に、一部の神々は自分達が産まれた経緯でもある創作物を使いました。小説、アニメ、ゲーム等……ね。近年ではライトノベルのブームを利用して、自分達の世界に招いた際に齟齬が出ないように、異世界転生や召還等の題材を数多く世に拡げました」
「「それもお前らの仕込みかよ!?」」
『私は関係無いですよ。他の神が勝手にやっているんです。まあ、上手く活用してますけど、例えば貴女とか、貴女とか?』
ぐっ、悔しいがその通りだ。最初の自分を殴りたくなってきた。
「更に言えば地球の人間は悪魔や妖怪、他の種族の一部には魅力的な食料でもあります。人の力の及ばない不可解な事件は殆どがこれに当たりますね。その為、異世界の存在が地球に行く事もありますよ」
「警察はそんな者まで相手にしていたのか……」
「ええ、一部の神が協力する事で取り締まっています」
「なるほど歪み……原因の一部もそれか」
「ええ、無理矢理世界を繋げる代償の一部ですね。但しそれは双方向ですが……」
「来る事だけでなく、行く事も……だろ?」
「はい、最近はむやみに召還する者も多いですから」
迷惑な。
向こうでの悪魔の召還なんかの儀式、それにこっちに人が引っ張られる時の歪みを利用した移動か。
『とは言え、神も介入出来る場合は、全く適性が無い人間を無理矢理連れてくる訳ではありませんよ』
「基本的に神が異世界に呼ぶのは死んでしまった人間のみです。その他は歪みによる裂け目に迷い込んで異世界に行く場合、異世界の人間に呼び出される場合、呼び出される時に神の力が介在する場合の四種類ですね」
「召還には種類があるのか?」
『召還の場合は術者の力のみで行う場合と神の力を借りるものがあります。前者の場合は呼び出した人間の望む者が引き寄せられ、後者の場合は神が選定します。儀式や力量等により色々と違ってきますがね』
「そしてほとんどの世界で異世界に呼ばれるのは地球の人間です」
「なんで?」
『神が居るからですよハクアさん』
「う~ん。つまりは異世界で幅を利かせてる神にとって、そこの人間は神の所有物、そこから掠めとる行為は侵略行為と取られる可能性があるって事?」
「流石ですね。その通りですよ白亜さん。だからこそ神の意志が働かない地球はなにかと魅力的なんですよ。そして何よりも神の力が及ばない土地に暮らす地球の人間は、魔力的に充実していながらそれを発散する機会がない。言わば魔力負荷が常にかかっている状態なんですよ」
「なるほど。地球人は魔力負荷が常に掛かっていて異世界人には無い程の魔力を有してる。それが異世界を存続させる楔としての力で、それがありながらも誰の物でもない。だから異世界に呼ばれるのは地球人が多い……と」
「はい。傲慢にも程があると思いませんか? 先程の話、私はそれが我慢できずに別れたんですよ」
「話さないんじゃなかったのか?」
「一方的にですが友人と思っているので……」
珍しく顔を背けながら言うテアに「私も思ってる」と一言言っておく。
「と、とにかく大半の神は人間を自分の駒だと思っています。この世界の神は違いますがね。まあ、神と言えどそこは人……いえ、神それぞれですね。まあ、他にも理由はありますが一番の理由はそれですね」
なるほどね。
ドヤっと上手い事言ったみたいな顔をしたテアは、そこからテアと瑠璃との出会いを語ったのだった。
神の行いに疑問を持ち反発したテアは、創造神としての力と立場をシルフィンに渡し、他の神々を説得しようとしたのだが、テアの想像よりも神々は傲慢であった。
そんなテアを自分達の所有する道具と、遊び場を脅かす危険分子と判断した神々は、テアを神の座から降ろし同時に処分しようと画策した。いくら力のあるテアでも、多勢に無勢ではなす術無く神々に追われる事になってしまった。
そしてテアは処分される前に、本来他の世界の神が強く干渉出来ない地球に無理矢理逃げて来たのだ。
だがその代償は大きく、神の干渉を退ける地球の防壁を、正規の手段を使わずに無理矢理突破したテアは怪我をしてしまい。それでもなんとか地球に顕現する事には成功した。
だが、大半の神の力をアースガルドの神々に与えた事で、傷を治す事すら出来ずさ迷う事になる。
流石に死を覚悟した時にまだ幼かった瑠璃に発見され、色々ありメイドとして働く事になったのだそうだ。
「そう言えばそうでしたね」
「ええ、ですから私はお嬢様に全てを捧げたのです。そして、月日は流れ白亜さん、貴女の事故が起こりました」
瑠璃からの願いで、珍しく瑠璃の父親の仕事の為海外へと赴き別行動していたテアと瑠璃。
最初違和感を感じたがそれが何かまでは分からなかった。
そして、瑠璃の父親の仕事が終わり帰ろうとした矢先、電話が鳴り響き私の死を知らされた。それと同時に皆の記憶から瑠璃が消えている事を知った。
テアは急いで日本に戻ったがその時には私は死に、瑠璃は記憶から消え、澪も居なくなっていたそうだ。
その時テアが感じたものは正に絶望だった。
だが、そこで諦めるつもりも無かった。
記憶から消えている。
その事から異世界へと行った可能性に掛け、様々な場所をしらみ潰しに調べた。そして澪の部屋へ侵入した際、微かにだが神の力の残滓を見付け、それを頼りにこの世界へと来たらしい。
その際テアは、私の方を見て何か言おうとしていたが何も言わなかった。
言わないと言う事は、別に気にしなくても良い事なのだろうと判断して話を続ける。
「久しぶりだったのでかなりの時間を使いました。白亜さんなら既に気が付いているでしょうが、この世界と他の世界は時間の流れが違います。世界が特定出来ても同じ時間となると、途端に難易度が跳ね上がるんですよ」
「なるほど。そして、やって来れたのがさっきな訳だ?」
「いえ、正確に言えば二日程前ですね。これでも神の末席に名を連ねていましたから。皆さんと共に戦う事が制約で出来ないので、お嬢様達が合流しているのは分かっていましたから、その間に少しばかり情報を集めていました。それでも正直多少のズレはありましたがかなりホッとしています。しかも、お嬢様だけでなく、白亜さん澪さんのお二人も一緒でしたから、流石に少し泣きそうになりました」
その言葉に途端に申し訳無い気持ちになる。
う~む。死因も去る事ながら、その後の展開もな~。かなり皆の精神的負担に──。
「ですが……皆さんが本当に無事で良かった」
テアが滅多に崩さない表情を変えながら言ったその言葉を聞いた瞬間、私達三人は土下座して謝っていた。
本当にすいません!!!
は・み・る・な日常も同時更新




