カミラ・シュトルムからノイマン夫妻にあてた手紙
フィリップ・ノイマン様
アンネ・ノイマン様
いろいろばたばたしてしまってすみません。
来るときも帰るときもきちんと挨拶ができなかったので、馬車の中で改めて手紙を書いています。
結局、テレーゼとは喧嘩になってしまってごめんなさい。でも、私はこうなると思っていたわ。あの子と会って穏便に終わったことなんて一度もないもの。
思い返しても腹が立つわ。最後までテレーゼから謝罪が出てくることはなかったし、叔父様や叔母様への態度もなんなの。あんなの、ただの子供だわ!
あのテレーゼを見ていると、昔のことを思い出したわ。小さいころ、同じようにテレーゼが引きこもったことがあったわよね。本当に小さいころだし、テレーゼは忘れているでしょうけど、叔父様と叔母様は覚えていらっしゃるかしら。
不満があるのになんも言わなくて、ただ不機嫌なだけで。ああいうところ、昔から全然変わらないわ。言いたいことがあれば言えばいいのに、言っていいって言っているのに、肝心なことを話さないの。黙ったままじゃ、なにがしたいのかなんてわかるわけないじゃない!
あのあと、やっぱり部屋に戻って行っちゃうし、それから一言も話さなくなるし、怒らせただけになってしまってごめんなさい。わかっていたけど、私にはなにもできなかったわ。
でもね、私、悪いとは思わないわ。
もう怒っているから言ってしまうけど、私にテレーゼを助ける義理なんてないもの。叔母様のお願いだって、本当にひどい話だと思うわ。しかも、本当に叔父様に黙っていたなんて。こんなことしたら、叔父様の立場だって悪くなるかもしれないのよ。
叔父様も叔父様よ。怒るどころか一緒に頼み込んでくるなんて。あの家を見て、お二人がどういう状況だかわかったわ。あんなに生活に困っているのに、それでもテレーゼを見捨てられないのね。
これは恨み言ではないけれど。いえ、やっぱり恨み言だけど、叔父様と叔母様にとって私は、しょせんただの姪で、他人なんだわ。いくら優しくしてもらっても、娘とは全然違うのね。だって、叔父様も叔母様も私に頭を下げるけど、怒ったり叱ったりはしないものね。
腹が立つわ、テレーゼ。私、本当に、あの子とは上手くいかないみたい。いくら頼まれても、もう二度とこんなことはしないわ。
ああ、それから帰り際におっしゃっていたお礼の話。あの場では要らないって言ったけど、やっぱり気が変わったわ。きっちり請求させていただきます。
もちろん、お金なんていらないわ。今の叔父様たちに払えるなんて思っていないもの。でも、このままなにも貰わないのも癪じゃない。
だから、せっかくならいろいろ要求しようと思います。私の方でも、ちょっと困っていたことがあるの。それを叔父様たちに押し付けるわ。まあ、アロイス様と相談してからになるのだけど。
モーントンに戻ったら、また改めて手紙を出させていただきます。
嫌だとは言わせないから、覚悟して待っていてください。
カミラ・シュトルム
追伸
……追伸するほど大事なことではないのだけど。
私ね、昔、叔父様と叔母様が、私のお父様とお母様だったらいいのにと思ったことがあるの。
だから、どうということではないわ。ただそれだけ。
それじゃあ、あまり無理はしないで。これからのこと、ちゃんと考えているみたいだからなにも言うつもりはないけど……。
私だって姪だもの。いざとなったら、頼ってくれていいから。




