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竜の王国は終了しました  作者: まさかミケ猫
第二章 時代遅れの錬金術師
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07 どうせ明日には

 アプリコット王国の国土は、西を大海に、東を山脈に面している。国の南側はデーツ王国を中心とする南側諸国と接しており、北側にはダムソン帝国を中心とする北側諸国があるため、古くから南北の交易を支える要所として栄えてきた土地であった。

 周辺各国と比較しても、アプリコット王国は治安も安定しており暮らしやすい国と言われている。しかし今、世界中で巻き起こる革命運動の波は、この国にも例外なく押し寄せてきていた。


「アプリコット王国の人民よ!」


 新聞社の前に設置された演台では、精悍な顔つきの男が市民に向かって声を張り上げる。


「傲慢な王侯貴族どもは、一般庶民の命に価値などないと語る。しかし本来、人の命に貴賤などあるわけがない。踏みにじられて良いはずがない。人の生命は、人の自由は、人の幸福は、誰しもが等しく享受するべきものだ。誰しもが等しく追求してよいものだ」


 男が力強く叫ぶ様子に、忙しなく素通りする者もいれば、立ち止まって演説を聞く者もいる。


 かつて魔物の猛威から人々を守ることで尊敬を集めていた王侯貴族は、いつしか自分勝手な戦争に民衆を駆り出すようになった。特別視されていた竜の因子――魔法についても、今は一般庶民の中にも魔力持ちが増えてきている。

 食糧事情が改善されて人々は飢え死ぬことも減り、生産力が上がることで豊かになり、強力な武器を手にすることで自衛ができるようになった。もう貴族たちに頭を垂れる必要などない。それが、彼ら革命派の言い分である。


「時代は変わった。これまで貴族どもから不当に奪われてきた政治権力を取り返し、真に市民のための政治を行う国にしよう。これは夢物語ではない。現実に実現することが可能な将来像なのだ」


 熱っぽく語る男のそばを、フリードたちは変装した姿で通り過ぎる。


『私たち王族は、それほど国民に恨まれているのか』

『いや。これは気休めや慰めではなく、単純な事実として言うのだが……他国の騒ぎと比較すると、この国の人々はあまり革命に積極的ではないな。目立っているのは、一部の声が大きい者だけだ』

『そうか……まぁ、楽観視はできないが』


 シャルロッテは念話越しにも分かるほど憂鬱そうにしている。

 しかし、実際に他国はもっと酷い状況であった。積もり積もった鬱憤を晴らすように、暴動を起こす若者が後を絶たない。貴族を取り囲んで魔弾を乱射するような、凄惨な事件も発生している。アプリコット王国での民衆の動きは、それらと比較すればずいぶん平和である。


 老人に扮したフリードの横で、騎士型ゴーレムを操縦するララがシャルロッテの背をぽんと叩く。


『知ってる? シャロちゃんって、実はこの国でけっこう人気があるんだよ。工房にくる患者さんでもね、孫みたいな感じでシャロちゃんに親しみを持ってるお爺ちゃんお婆ちゃんとか、いっぱいいるんだよ。若い世代でも、初恋がシャロちゃんだって人とか』

『なんだそれは。私は知らんぞ』

『ほら、年に何度か公務で人前に出たりしてるじゃん。その時にシャロちゃんに惚れる人が続出するらしいんだよね。うちの姫は凛々しい。下々の者にも親切。可愛い顔して魔力がめちゃんこ強い。どこに出しても恥ずかしくない自慢の姫――まったくもう、罪な女だねぇ』


 ララの言葉に、シャルロッテは居心地悪そうに小さく身を捩りながら、先程よりも少しだけ表情を明るくする。


『親しみを持ってもらえるのはありがたいが……王族としては、革命派の者からの厳しい意見もしっかり聞くべきなんだろうな。万人から不満の出ない統治など不可能だと分かっているが、それはそれとして、正当性のある主張からは学べることもあるはずだ』

『真面目だねぇ』

『王女だからな』


 そうして念話で色々と話しながら、三人が乗り合いバスの停留所までたどり着いた時だった。


「そこの老人。あんた……フリード・ネクタリンだろう」


 三人の進路を遮るように現れたのは、一人の男だった。

 燃えるような赤髪と、頬についた大きな傷。その身から溢れ出る獰猛な魔力は、一般的な貴族のものを遥かに凌駕しており……ひと目見ただけで、王族の血を引く者だと理解できた。その堂々とした立ち姿は、獅子を連想させられる。


――よりによって、こいつに捕捉されたか。


 フリードはすぐに逃げられるよう身構えながら、男に返答する。


「はて、誰かとお間違えでは?」

「ははは、異母弟の魔力の感触を間違えることはねえよ、フリード。一度会ってるしなァ。なかなか上手い魔力隠蔽だが……ククク。俺はこういうのを見破るのが大得意なんだ」


 気安く話しかけてくる男の様子に、フリードは変装用の指輪を引き抜いて元の姿に戻った。


「……ライアット・ベルガモット」

「おぉ、俺の名前を覚えていたか。もう変装はいいのか?」

「既に見破られているなら、魔力の無駄だからな」


 答えながら、ララに目配せをする。念のため、この状況になった場合の動き方については、事前に打ち合わせ済みであった。できることなら、奴らに見つかることなく旅を終えたかったが。


「フリード。悪いことは言わねえ。隣の王女さんをこっちに寄越して、お前も革命に協力しろ」

「ふん。俺が頷くと思うのか?」

「だよなァ……やっぱりスラグの件か」


 ライアットは後頭部を掻きながら、白い息を蒸気のように漏らして体内魔力を練り上げている。

 対するフリードは、腕輪型の魔道具――魔力障壁を生成する魔道具を構えながら、半身になって静かに腰を落とした。


「お前がそういう反応をすると思ったから、スラグの奴は生かしておけって命令しておいたんだがな……ったくウチの組織は、血の気の多い馬鹿ばっかりで嫌になるぜ」


 ライアットの右の袖口から、ジャラリと音を立てて鉄の鎖が垂れ下がる。それが何かの魔道具であることは、わざわざ片眼鏡モノクルで解析しなくても明らかだった。


「大人しく俺と一緒に」

「ララッ!」


 フリードが叫ぶと同時に、ララの操る騎士ゴーレムは懐から筒状の物体を取り出し、ライアットに投げつける。

 ライアットは舌打ちをしながら鎖を叩きつけて、それを弾き飛ばそうとし――刹那、その筒は爆音と閃光を放って破裂した。


 音響閃光弾。それは魔力量に関係なく敵を無力化する、フリードの切り札の一つである。


「クハハハハ……やっぱり錬金術師は良いなぁ。これだから俺は、何としてでもお前を仲間に引き入れてえのよ」


 攻撃のために練り上げていた魔力を、防御と回復に割く。五感を取り戻すまで数秒。

 ライアットがようやく周囲を確認できた時には、フリードたちは既にその場を去っていた。まんまと逃げられた……というのに、彼の顔には愉悦すら浮かんでいる。


「まァ、今は良いだろう。どうせ」


 ライアットは体内魔力を沈静化させながら、首にマフラーを巻いて口元を隠す。


「どうせ明日には、この国も終わるんだ」


 彼の小さな呟きは、冷え切った冬の空気にすうっと溶けて、誰の耳にも入ることはなかった。


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