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竜の王国は終了しました  作者: まさかミケ猫
第四章 竜の王国は終了しました
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12 ダムソン帝国

 アプリコット王国の北側に位置するダムソン帝国は、庶民出身の皇帝が即位して十年ほどになる。

 皇帝は強力な魔力をその身に宿し、先陣を切って周辺諸国を次々と支配下に置いていく。国を跨ぐように張り巡らされた鉄道網は物資の輸送を効率化し、属国から際限なく吸い上げた富が帝国民に豊かな生活を与えていた。


 そんな皇帝の前で跪いた将軍は、いかにも軍人らしい角張った声で報告を上げる。


「皇帝陛下に報告いたします。仮設橋の建設は予定通り進み、兵も続々と集結しております。予定通り、一週間後には軍事行動を開始できる見込みです」


 ダムソン帝国とアプリコット王国との国境となっている大河。そこには今、帝国軍人の手によって大きな橋がかけられていた。

 しかしこれは、国同士で合意した公共事業ではない。ダムソン帝国がその版図を広げるための足がかり……つまり、アプリコット王国へと攻め入るために用意された道である。


「シャルロッテの足取りは掴めたか」

「いえ。人員を増やして探させていますが、有用な目撃証言はありません」

「忌々しい。大人しく国を明け渡せば良いものを」


 ダムソン帝国の戦略はシンプルだ。世界各地で革命運動を煽り、国が混乱している隙に一気に攻め落とす。そうすることで、兵力の無駄な消耗を抑え、効率よく支配域を広げてきた。

 しかし、アプリコット王国で同じやり方は通用しそうになかった。事前調査の段階から分かっていたが、国民の王族への忠誠心が他国よりも高い。そのため、民衆に自由主義を説いてもいまいち良い反応が得られなかったのである。


「国王自らが竜玉放送にて王権を放棄する……その演出も、逆手に取られてしまったな」

「は。しかし、鉄道による戦力の迅速な移動は我が国の強みであります。現在アプリコット王国軍に目立った動きはありません。北の交易都市ヘキサアイズを橋頭堡とし、周辺の都市を順次飲み込んでいけば、帝国の勝利は確実と思われます」


 将軍の言葉に、皇帝は深く頷く。

 アプリコット王国は古くから南北の大国を繋ぐ交通の要所であり、西には海洋貿易で栄える巨大な湾岸都市がある。また、東の山脈には手つかずの鉱物資源が眠っていると、何人もの専門家が口を揃えていた。この地を手に入れることは、ダムソン帝国の覇道において重要な意味があるのだ。


「なんとしても、アプリコット王国を我が帝国の傘下に置く」

「御意。シャルロッテを捕まえた場合の対応は」

「そうだな……妃の一人にでも迎えてやるとしようか。軍全体に、かの女王を捕らえても貞操は奪うなと厳命しておけ。なんなら、属国となったアプリコットの統治を任せてやってもいいだろう。その方が市民の反発も抑えられるやもしれん」


 そう言って口元を歪めた皇帝に、将軍が愛想笑いを返す。今、アプリコット王国はまさに亡国の危機に瀕していた。


  ◆   ◆   ◆


 帝国軍の築いた仮説陣地を遠目に眺めながら、シャルロッテは一人、荒れ狂う感情を必死に抑えていた。


「スラグの書簡にあった通りだ。革命運動を裏で扇動しているのはダムソン帝国。奴らは近く、アプリコット王国を攻め落とすつもりで準備をしている。私は本当に……何も見えていなかったのだな」


 身に宿る竜の因子が、今すぐ暴れろとシャルロッテを急かす。それを理性で抑え込みながら、彼女は冷え切った頭脳で考え続ける。


「奴らの薄汚い野望のために、どれだけの命が奪われた。どれだけの心が踏みにじられた。デーツ王国でも、アプリコット王国でも……」


 手の内に、ギュッと王鍵を握る。

 革命派組織が叫ぶ通り、きっと王侯貴族はこれまで強権にあぐらをかいて、市民に不条理を強いてきたのだろう。だが時代が変わり、市民が力を持った今となっては、竜の王国はもう成立しない。仮に帝国が攻めてこなくとも、シャルロッテがこれまでの王と同じように国を率いることは不可能だったはずだ。


「憤怒、憎悪。おそらく私が帝国に向けているものと同じ感情を、人々は王族に対して抱いていたのだろう。個人の罪悪とは関係ない。私たちは王族という仕組みによって、民を苦しめてきた。遅かれ早かれ、そのツケを支払うことになっていたのだろうな。だが……」


 シャルロッテは目を閉じ、深く息を吐く。


「だがな、ダムソン帝国。お前らの野望のために利用されてやるつもりは、私には欠片もないんだよ」


 後先など考えない。どれだけの犠牲を出そうと、後世で罵倒されようと、自分が持ちうる全てをかけて侵略に抗おう。

 その身に秘めた竜の魔力。鍛え上げた紫炎の魔法。学んできた知識。彼女はそれらを全力で用いて計画を立てながら、燃えるような覚悟で帝国軍の陣地を睨みつけた。


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