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竜の王国は終了しました  作者: まさかミケ猫
第三章 出来損ないのホムンクルス
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11 別々の道を

 人々の寝静まった深夜。そこは都市外壁から遠く離れ、街道が分岐する地点であった。頑強そうな魔馬に跨ったシャルロッテは、深々と頭を下げる。


「錬金術師フリード。その使い魔ララ。この度は本当に世話になった。ここからは別々の道を行くことになるが……どうか達者で」


 そんな風に語るシャルロッテに、ララは頬を膨らませて憤る。


「もう。それじゃあ今生の別れみたいじゃん。一時的に別行動するだけなんだから、変な風に言わないでよね」

「すまない。だが、いつでも会えると思っていた者たちには、もう会えなくなってしまったから。感謝の言葉は、伝えられる時に伝えておかないと後悔すると思ったんだ」


 そうして、シャルロッテは小さく微笑む。

 この国の王となった彼女の王鍵によって、スラグから託された書簡は開封された。やはりそこには重要な情報が記されており、三人は話し合って別行動を取ることに決めたのである。


「フリード、ララ。どうか無事で、また会おう」

「あぁ」

「うん! シャロちゃんも気をつけてね」


 そうして、去っていくシャルロッテの後ろ姿を見送る。

 彼女はこの国の北側へと向かい、フリードとララは王都へ向かうことになる。それぞれにやるべきことがあるが、どちらも危険であることに変わりはない。お互い無事な姿で再会する……その約束を現実のものにするためには、それぞれがよく考えて行動する必要があるだろう。


「……ララ、俺たちも行くぞ。ここからは時間との勝負だ」

「うん、マスター。こっちの用事はさっさと済ませて、シャロちゃんを助けに行かないとね」


 フリードの肩に乗ったララは、ひっそりと決意を固める。

 いざとなったら自分も戦おう。生まれ変わる前のように、誰かに強制されるわけじゃない。自分自身の意志で武器を持って敵と戦うのだ。大切な友達――シャルロッテのために。


  ◆   ◆   ◆


 フリードの強化魔法を受けて夜通し走った魔馬は、翌朝には彼らを王都まで運んでくれた。かなり無理をさせてしまったが、今の状況では多少の無理は押し通すしかない。貸し馬屋に魔馬を返却する際、フリードは追加の料金を支払って、美味しいものを食べさせて労ってやってほしいと告げた。


「マスター。最初から魔馬で旅してれば早かったんじゃないの?」

「いや、さすがにこの調子で長旅はできないだろうな。旅をしながらシャルロッテの体調も整える必要があったし、そもそも俺の魔力消費が激しすぎる。今回は短距離だったから無理もできたが、そうそう使える手段ではないだろう」


 早朝、人通りもまばらな王都の街を足早に進んでいく。その途中、通りがかった屋台広場では、朝早くから働く人向けに簡単に食べられる料理が販売されていた。


「マスター、お腹減ってるんじゃない?」

「あぁ。魔力の消耗が激しいからな」

「じゃあ今のうちにしっかり食べておかないと」


 消費した体内魔力は基本的に、食べたものを消化する過程でゆっくりと回復していく。たくさん消費したということは、たくさん食べる必要があるということだ。ララは半ば強制的にフリードをその場に座らせると、屋台を全制覇する勢いで料理を買い込んできて、彼の前にずらりと並べた。


「さぁ、どんどん食べてね。マスター」

「さすがに買いすぎだ、と思ったが、案外食べられそうだな。自覚している以上に空腹だったらしい……だが、これ以上は買ってこなくていいぞ。ララも一緒に食べておけ。今日は忙しくなる」

「はぁーい」


 正体不明の肉が挟まったサンドイッチや、大きさの不揃いな揚げ団子、残った食材を雑多に煮込んだようなスープ。見た目は微妙な料理ばかりが並んでいるが、実際に食べてみると味は悪くなかった。


 ある程度腹が満たされてくれば、張り詰めていた気持ちが少しだけほぐれ、会話も弾むようになる。


「シャロちゃん、ちゃんと食べられてるかなぁ」

「どうかな。表面上は落ち着いたが、彼女の内面にはまだ狂気が渦巻いている。無茶をしないよう釘は刺しておいたが、あまり冷静さは期待できないだろうな」

「うーん。大丈夫かなぁ」


 今やこの国の王になったシャルロッテを相手に、二人は若干失礼な感想を持っている。そして実際のところ、その予想はそう外れてはいなかった。

 三人で旅をしているうちに、シャルロッテの気性についてフリードとララは似たような認識を持つに至っていた。目的のためには自分の身を顧みず、向こう見ずに突っ走る。放っておくとろくなことにならなそうな、無鉄砲なお姫様。それこそが、シャルロッテの本質なのだと。


  ◆   ◆   ◆


 入れ替わりの激しい労働者に寝床を提供するため作られた、安っぽいアパートメント。その一室を前にして、フリードは一呼吸置いてから、戸をコンコンとノックする。

 ほどなくしてガチャリと玄関が開かれた。現れたのは、ボロ布を身に纏った無精髭の男である。


「お前……フリードじゃねえか。久しぶりだなぁ、おい」

「そうだな、アジャル。今日はお前にとっておきの特ダネを持ってきてやった。まだ記者は続けてるんだろう? ひとまず部屋に入れてくれ」


 そうして、フリードとララは彼の部屋に招き入れられる。


「そっちの嬢ちゃんは初めましてだな。フリードの使い魔か?」

「ホムンクルスのララだよ。よろしく!」

「あぁ、オレはアジャル・プラム。王都でフリーの記者をしている」


 アジャルは取材をして書き上げた記事を新聞に寄稿したり、不定期の刊行物を刷っては道端で売って生活している男である。ララが使い魔になる前に、フリードはちょっとした事件を通して彼と知り合ったらしいのだが……どうやら今回の作戦に協力してもらうには、うってつけの人材ということらしい。


「フリードはコーヒーでいいだろ。ララちゃんは」

「カフェオレで! ミルクと砂糖たっぷりでね」

「あいよ。狭苦しい部屋だが、好きに座ってくれ」


 そうして、物がごちゃごちゃと散乱したワンルームでララたちは腰を下ろした。

 アジャルの部屋に転がっているのは、何もゴミばかりではない。古い型の印刷魔道具や、取材メモらしい紙束、鈍器のような分厚い辞書。世話をする者がいればもう少し整理整頓が行われていたのだろうが、残念ながら彼にホムンクルスを購入するような生活の余裕はなさそうである。


 あたりをキョロキョロと見回しているララのもとに、飲み物を盆にのせたアジャルがやってくる。


「特ダネねぇ……今の民衆の関心事と言えば、シャルロッテ女王陛下の爆誕って話題だが。もしかして、その関連か?」

「そうだよ! 実はあたしたち、昨日までシャロちゃんと一緒にいたんだよね。革命派の追手から逃げて、王都まで来ようとしてたんだけどさぁ」

「マジかよ。そいつぁ楽しい状況じゃねえか」


 ララの言葉に、アジャルは興奮したように身を乗り出してメモ用紙を片手に取る。だが、そこに待ったをかけたのはフリードであった。


「アジャル。すまないが今は少々時間がないんだ。記事になる話なら後でいくらでもしてやるが、その前に頼みたいことがある。お前にとっても悪い話じゃない」

「お、そうなのか。そりゃ一体どんな話だ」

「俺を手伝ってくれるなら……お前はとあるビッグな特ダネを独占できる。それから、世界中にアジャル・プラムの名が知られるようになるだろう。この大勝負、お前ならきっと乗るだろうと俺は確信している」


 フリードはそう言って、この国の置かれた現状や、今後の作戦について順を追って説明を始めた。


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