表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の王国は終了しました  作者: まさかミケ猫
第三章 出来損ないのホムンクルス
10/17

10 偽りの生命

 王都にいる王族が全て殺され、第一王女シャルロッテに王権が譲渡された。

 今や街中がその話題で盛り上がっており、どうにも動きづらくなってしまった三人は早々に退散して宿に戻ってくることにした。昨晩のうちに議論していた移動手段も、そもそも「国王に書簡を届ける」という目的そのものが失われたため、すべてを白紙にして今後の動き方を考える必要があるのだ。


 変装を解いてようやく一息つける、という状況になって初めて、ずっと黙り込んでいたシャルロッテがぽつりと呟いた。


「皆が殺されてしまったのは、本当らしいな」

「シャロちゃん」


 ララが名を呼んでも、彼女は振り向くことなく言葉を絞り出す。


「父も母も。王太子だった兄も、嫁に来た義姉も。あぁ、そうだ。彼女は妊娠中だったから、おそらくはお腹の子も殺されたんだろう。優しかった弟も、ませていた妹も。本当に殺してしまう必要があったのか。そんなに……そんなに王族が憎いか! 自由とはそれほど尊いものなのか! 幼いあの子らが一体、何をしたと言うのだ!」


 魔道具での防音がされていなかったら、ちょっとした騒ぎになっていただろう。それほどの叫び声。シャルロッテは言葉にならない声で、獣のような慟哭を上げる。


 フリードが魔力障壁を張ると同時に、シャルロッテは狂ったように紫炎の魔法を叩きつける。何度も何度も。それは怒りなのか、憎しみなのか、悲しみなのか。明確に判別できないような濁りきった何かが、繰り返し繰り返し、障壁に叩きつけられていく。


「マスター!」

「ララ。防犯の魔道具を見てくれ。これほど強い魔力だ。魔道具で打ち消すのにも限界がある」


 額に汗を浮かべるフリードを見ながら、ララは無力感に苛まれる。


――まただ。またあたしは、何の役にも立てない。


 ララは指示された通り、部屋の四隅に置かれた防犯の魔道具を確認する。これは室内に特殊な結界を張ってくれるもので、音声や魔力が外部に漏れ出ないよう空間自体を隔離してくれるものなのだが。


「魔道具の魔力がめちゃくちゃ減ってるー!」

「だろうな。ララ、魔力補充を頼む」


 言われるがまま、魔道具に魔力を注ぐ。

 しかしこれは主人と使い魔の間に結ばれるパスを通して、フリードから貰い受けた魔力を横流ししているだけである。


――あたし自身が役に立っているわけではない。


 ララは少しだけ泣きそうな気持ちになりながら、荒れ狂うシャルロッテを見て、何か自分にできることはないかと考え始めた。


  ◆   ◆   ◆


 その昔は家族のように扱われていたホムンクルスも、製造方法が洗練されてある程度の量産ができるようになってからは、道具のように扱われることが多くなってきていた。

 ララが持っている最も古い記憶は、彼女がフリードの使い魔になる前のもの。小さな闘技場でホムンクルス同士に殺し合いをさせ、違法な賭博で人間たちが盛り上がる……そんな悪趣味な施設にいた時のことである。細かいことはもう記憶に残っていないが、その時はたしか、名前ではなく番号で呼称されていたはずだ。


「さぁ、歴戦のホムンクルス■■番。空腹の猫すら倒してみせた彼女が戦う相手はなんと、彼女の親友だぁぁぁぁ!」


 親友を自分の手で刺殺した時の感触は、今でも生々しく思い出せる。


 ホムンクルスは擬似的な生命だから、本当に命を奪ったわけではない。感情だって作られたものなのだから、相手が傷ついた顔をしたからって何も気にすることはない。そもそも、落ち込んでいる自分自身の感情すら被造物なのだ。所詮はまがい物に過ぎない。

 なるほど、それは確かに正しい理屈なのだろう。特に反論する点は見当たらない。だからこそ、彼女は正論というものがあまり好きではなくなった。


 フリードと出会ったのは、彼女が魔物と戦わされて死にかけ、闘技場裏に打ち捨てられていた時だった。


「大丈夫か? 酷い怪我だ。今、工房に連れて行ってやる」


 これまでに会ったどんな人間とも違う、澄んだ目をした錬金術師。もっと早くこんな人間と出会っていれば、自分の生き方も何か変わったのかもしれないが……しかし彼女の望みは、治療してもらうことではなかった。むしろこのまま殺してほしいと、そんな風に彼に懇願する。


「そうか……それなら、錬金素材になってもらおうか」


 フリードはそうして、表情を動かさないまま冷たく告げる。


「俺の師匠はあまり生命方面の錬金術が好きではなかったから、俺が知っているのは基礎的なホムンクルスの作り方だけなんだが……ホムンクルスを作成する材料には、魂の核となる素材が必要になる。その手っ取り早いやり方として、ホムンクルスを材料にしてホムンクルスを作る。つまり、君を生まれ変わらせるという手段があるんだ」


 ホムンクルスが生まれ変わる時には、記憶や感情のほとんどがリセットされる。しかし、絶対に忘れたくない事柄、生まれ変わっても覚えていたいと強く願った物事については、ちゃんと記憶を引き継ぐことができるらしい。

 フリードの説明に、彼女は少しだけホッとした。それならば、今の私自身を殺せるのと同時に、この罪を――親友を殺した時の記憶をちゃんと残すことができる。


 そうして生まれ変わったララは、以前の記憶をほとんど忘れて気楽に過ごせるようになった。しかし刃物を手に持つとどうしても身体が震えてしまうため、キッチンに立つことができないという欠陥を抱えている。通常、家事働きを期待されるホムンクルスとしては、致命的な不具合と言っても良い。


「別に構わない。料理というのは錬金術に近くてな。俺の得意分野なんだ」


 普通のホムンクルスらしく、マスターを手助けする存在でありたかった。何より、恩人であるフリードの役に立ちたいというのが、今のララの思いなのだが。

 実際は空回りをしてばかりで、気がつけばフリードの優しさに甘えながら日々を過ごしている。それが何よりもどかしく、悔しいのだ。


  ◆   ◆   ◆


 感情の制御を失っているシャルロッテを前に、ララは自分の頬をパチンと叩いて気合いを入れ直した。

 落ち込むのも分かる。混乱するのも分かる。それでも、シャルロッテがいつまでもフリードに八つ当たりをするのは違うだろう。どうにかして、自分がこれを止めるのだと……そう覚悟を決めて、ララはシャルロッテの魔法を浴びないよう気をつけつつ、彼女の方へ慎重に近づいていった。


「シャロちゃんの炎は、紫色なんだねぇ」

「……あぁ。並の防護障壁など貫くほど強力な炎だ」

「ふーん。シャロちゃん、その魔法好き?」


 ララの問いかけに、シャルロッテの目が動揺に揺れる。


「シャロちゃんって、魔法を使う時にちょっとだけ嫌そうな顔するよね。誰かを傷つけるのは、好きじゃないのかなって思うんだけど」

「私は……私は本当は、優しい魔法を使う者になりたかった。物語に出てくる聖女様みたいに、誰かを癒やす魔法に憧れていて……この紫炎のような、破壊しかできない魔法ではなくて」


 話しながら、シャルロッテはふぅと息を吐いて、魔力を沈静化させる。


「あぁ……フリード、ララ、すまなかった。お前たちに魔法を叩きつけてしまうだなんて……あまりの事態に、頭がどうかしていた。正気じゃなかったんだ。こんなの、許してくれだなんて、とても言えないが」

「誰も許さんとは言ってないだろう」

「そーそー。実害はなかったわけだし」


 苦悩に顔を歪めながら頭を垂れるシャルロッテに、フリードとララはいつも通りの調子で答えた。


「あ、そういえばさ。シャロちゃんって、もう正式に王様になったんだよね。前の王様から指名されて」

「あぁ、そうだな」

「もしかしてさぁ、今ならアレを開けられる?」


 ララの言葉に、シャルロッテはきょとんとした顔で動きを止める。


「ほら、アレだよアレ。スラグっちから預かった大事な手紙。国王の王鍵じゃない開封できないって言ってたヤツさぁ……今のシャロちゃんなら、中身を見られるんじゃない?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ