第412話 伝説の杖だけもらって秒で旅立つ
聖水で弱体化した魔獣を討伐したうえで、領主が収束宣言をした。そのことで、市民達がまた都市内に戻って来る。瓦礫に埋まった人を助けたり、怪我人を治療したりとあちこちで大変そうだ。捉まった捕虜はことごとく牢獄に投獄され、この都市はこれで落ち着くだろう。
領主が俺達とヒッポを見て、どうか説明をしてほしいと言って来た。
「お願いします!」
「ですが、時間が……」
「何卒」
とりあえず、俺達十五人は領主邸に招かれて軽食を出された。ひとまず腹も減っていたので、皆がその料理を食べながら、説明をする事になったのだ。説明をしていると、領主がやたらとかしこまり始める。
「あなたがあの……伝説の聖女様でしたか……。そのお噂は、かねがね聞き及んでおりました。なんでも、たったお一人でズーラントの軍隊を壊滅させたとか、アルカナ共和国の反乱を押さえたとも聞き及んでおります。あの戦いは、反対する貴族が多かったのですよ」
どちらも嘘ではないが、なんが大袈裟になっている気がする。
「まあ、いろいろと事情があって、丸く収まった感じです」
「そのような謙虚な物言いは、やはり聖女様ならでは、なのでございましょう」
「そうでもないです」
「して、あの黒いバケモノを知っておるようでしたが」
最後に現れた、ネメシスの事を言っている。
「あれは、邪神です。あちこちで人間をたぶらかし、戦争をそそのかしたり、内乱を引き起こしたりと、厄災をふりまいているのです」
「まさか……」
「ええ。そのまさかです。貴国の聖都にも入り込んでいる様子でした」
「どおりで……友好国である、ヒストリアやアルカナといきなり戦争をはじめたのはその為ですかな」
「そのとおりです。とにかく、人間の心を巧みに操り争わせて、自分の思うような世界を作り変えようとしているのです」
「なんと……」
とりあえず、大まかな説明も終わったし、まあまあ美味い食事も食ったので俺は立ち上がる。
「では! 急ぎますので!」
「おまちくださいいいい!」
「な、なんですか?」
領主が慌てたように、足止めをしてくる。
「ぜひとも! お近づきになりたいのです。聞けば、あの女神フォルトゥーナの加護を、その身に受けたとも聞いております! 私共の信仰する神も、同じなのです!」
「そうなんですか?」
「はい! ですので! 何卒、感謝を受けとって頂きたい!」
「感謝?」
「まずは、よろしければ、今宵、宴などを催したいと思うのです」
うぜ。男と酒飲んでも、全く面白くない。
「いや……」
「隣国の中間地点であるここは、いろいろな食材が集まるのです。贅の限りを尽くした食事でもいかがかと思いまして」
だが俺は、食には興味がない。女と食うおつまみのほうが、ずっと美味しく感じる。
「恐れ入りますが、領主様。私はネメシスが飛んだ方角が気になるのです」
「……方角」
「あれは、南に飛びました。そちらには、東スルデン神国の聖都があります」
「……確かに」
「何か悪さをするかもしれませんので、悠長にはしていられません」
すると領主は、腕組みをしてうんうんと頷いた。周りの騎士達や使用人も、領主がどう判断するのか、じっと立って見ている。逃げの口上ではあるが、本当にネメシスの飛んだ方角が気になった。あいつが、また何かをしでかさないという保証はない。
「では!」
「な、なんですか?」
「我が屋敷に古くから伝わる、家宝を持って行ってはくださいませんか!」
「家宝?」
「はい。それと、路銀にも不自由せぬように、金貨をお持ちください!」
まあ……それくらいならいいか。トリアングルムでも、ズーラント帝国からももらったしな。
「わかりました」
「それに……」
「それに?」
「見ていただきたいものがあります」
「はあ……」
何故か焦り気味の領主に連れられて、俺達は長い廊下を歩いて行く。するとその城の一番端あたりに、礼拝堂があった。
「礼拝堂?」
「鍵を持て!!」
使用人が、鍵を持って来て領主に渡す。祭壇の後ろの壁に、小さな扉みたいなものがある。
ガッシャン!
カギを差し込んで開けた。
「一般には公開していないものです」
「なるほど」
「狭いので人数を」
「じゃあ、ソフィアとアンナとシーファーレン」
「「「はい」」」
「みんなは、ちょっと待ってて」
それから俺達は、領主について、狭い通路の中をかがみこんで入っていく。通路を抜けて奥に行くと、小さな扉があり、そこにも鍵を差し込んだ。そこを潜って抜けると、六畳くらいの部屋にたどりついた。しばらく誰も入っていなかったのか、ちょっと湿った匂いがする。
「先にこれを見てほしいのです」
「はい……」
その壁には、シルクのような物がかけられていた。領主が、そのシルクをばさりと外す。
「……えっ……」
それは女性の肖像画なのだが……。
ソフィアが言う。
「聖女様……にそっくりです」
確かにそうだ。俺の見た目にそっくりの女が書かれている。
「これは?」
領主は静かな声で言った。
「この地に女神フォルトゥーナが降臨された時に書かれたという、フォルトゥーナ様の絵にございます」
それを聞いて、シーファーレンが声を上げた。
「こ、このような場所に! 私が探していたものの一つでございます」
「そうなの?」
「はい」
問題は、この絵の人が俺にそっくりだと言う事だ。領主が、是非見てほしいと言った理由が分かった。
「瓜二つなのでございますよ。この絵と聖女様が」
「まあ……他人の空似のような物もありますから」
とはいえ、ドッペルゲンガーかってくらい似ている。
「そして……この絵と一緒に家宝として代々引き継いでいるものが、こちらでございます」
なんかその脇に、棺桶みたいに大きな木箱が立てかけられている。領主が鍵を挿しこんで、ガシャン!と派手な音と共に開けた。
えっ。まさか、女神のミイラとか……ないよね。
ギィィィ! と開けると、そこにはシルクに包まれた長い棒的なものがある。
「これです」
領主はそれを持ち上げて、俺に渡して来た。
「布をとっても?」
「どうぞ」
ふぁさぁ! と、シルクを剥がすと中から魔法の杖が出てきた。凄く立派な木でつくられており、頭の部分がコの字型になっていて、そこに真っ青で大きな石が……浮いている。
「石が……浮いてる?」
「そうなのでございます。ですが、それはびくともしません。そこから動かないのです」
俺は純粋な疑問をぶつける。
「これを魔導士は、使わないのですか?」
「使えないのですよ。これで、魔法を発動しようとすると、魔法が消えてしまうのです」
「魔法が……消えてしまう……」
「はい」
またしてもシーファーレンが、驚いたように言う。
「古の、マギアの杖……」
「マギアの杖?」
「……天空の物であると言われています」
俺は、領主に言う。
「そんな家宝を頂いてもいいのですか?」
「この絵、この地を救ってくださったということ、そしてあなた様の偉業。全て繋がっているような気がするのでございます」
「繋がってる?」
「導かれて、この地へ来たのではないかと」
スピ系の話ね……。とりあえず、とっとと出て行こう。長居は無用だ。
「では、これを頂いて行きます」
「はは!! あの巨悪を討ち取ったおりには、是非、また交流を望みます」
「ええ。念頭に置いておきましょう」
「はい」
俺達はその杖を布にくるみ直し、礼拝堂に戻った。俺達を皆が向かえ、領主が大きな声で言う。
「金貨を!」
「は!」
俺達の前に、大袋が三つ用意された。
「東スルデン神国金貨です」
シーファーレンが、俺の耳にぼそりと言う。
「とても金の純度が高いのです」
やりぃ! 儲けたぜ!
「では、頂いてまいります。みんな! ネメシスを追うよ!」
「「「「「「はい!」」」」」」
すぐ領主邸の外に出て、馬車に乗り込んでいく。俺は、最後に乗り込み挨拶をした。
「では、またお会いしましょう」
「はは!」
ヒッポが羽ばたき、俺達の馬車は空高く舞い上がる。
「マグノリア。南へ」
「はい」
そしてヒッポは、都市の上を一周してから南に向かい始めるのだった。




