第398話 男らの魔の手に堕ちたスティーリア
俺達が急いでスティーリアを追うが、何処に行ってしまったのか分からなかった。診療所で少しだけ、時間を取られてしまい、その間にどこかに消えた。
「どうかなあ……」
「教会に潜入したようだからな、狙われる可能性はあるだろう」
「まさか、さらわれたりとか?」
「それは分からんが……」
「じゃあ、アデルナが隠れそうな所……」
「「ギルド」」
二人の声が揃った。もしかするとアデルナは依頼人に扮して、ギルドに潜り込んでいるかもしれない。そう思った俺達は、急いで冒険者ギルドに向かう。ギルドは、相変わらず混みあっていた。もちろん俺達は冒険者に扮しているので、ギルドに居ても自然だ。
「あ、いた」
変装しているアデルナと、ルイプイとジェーバが居た。丁度、冒険者となにかの話をしている。アデルナの視界に入る場所に立つと、俺を見つけたアデルナが席を立ち、すーっと俺のそばにたって掲示板を見るふりをした。俺がアデルナだけに聞こえるように、顔を向けないで言う。
「スティーリアが来てないようだ」
「教会に行くと言っておりました」
「そうか……戻ってないか」
「なんと……。麻薬を、教会に入れている裏組織の場所です」
すっとアデルナが差し出して来た手紙を、俺が見えないようにとる。アデルナの手が震えていた。
「大丈夫。私達に任せて」
「……無事であることを……」
「あとは、気にしないで。三人も気を付けて、ここなら安全だけど人の多いうちに、宿に帰りなさい」
「はい……」
アデルナの下を離れ、手紙をアンナにも見せた。ギルドを出て走りながら、身体強化をかける。
「無茶させすぎちゃった」
「だが、手がかりを見つけた。お手柄だ」
「もう来ててもおかしくないもんね」
「聖女には言いたくないが……良い女だからな。目を付けられたかもしれん」
俺の足が早まる。
「冷静にな」
「はは……どうかな……」
無言で麻薬の売買が行われているという、商人の屋敷へと急ぐ。
「あそこだ」
「閉まってる」
「昼間なのにね」
「人通りが多い。裏に回ろう」
アンナの指示で裏に回ると、裏口に馬車が止まっていた。三人の男が、裏口の前で立ち話をしており、俺達は離れた所から様子を見る。扉側に立っている男が、馬車の男に袋を渡した。受け取った男二人が、馬車に乗り込んで去っていくと、裏木戸を開けて男が入っていった。
「いこう」
「ここだろうか?」
「わかんない。でも、アデルナの手がかりはここ」
「よし」
俺とアンナが、急いで裏戸のところに行く。
スン……。俺は鼻で深く息を吸った。
「スティーリア……」
「匂いでわかるのか?」
「えっ? ソフィアも、仲間の十三人も嗅ぎ分けられるけど?」
アンナがびっくりしている。
「わたしもか?」
「そっ!」
「す、凄い。スキルか? 魔法か?」
「いや。ただ、記憶してるだけ」
「そうか……それで?」
「馬車の方だ。急ごう」
「なら任せておけ。魔獣の追跡と同じだ」
「うん」
アンナが迷わずに走り、俺が後を追う。路地に入り広い道を横切り、また路地に入っていく。
「走ってったのは、こっちじゃないよ」
「先回りだ」
アンナの後ろをついて行って少しすると、俺にもすぐに答えが分かった。
「教会じゃん……」
「そのようだ」
馬車は教会の中に入って行ったようで、俺達は教会を迂回して裏木戸に回る。
「扉の先に人は?」
「気配はない」
アンナが剣を出して、裏木戸の隙間に振り下ろした。
キン!
裏木戸を押すと、スッと奥に開く。そして俺達は茂みに隠れ、中の様子を探る。
「どこだ……」
「まだ、無事なはず」
すると二階の廊下を、男に囲まれて歩いて行くスティーリアが見えた。
「まだ変装は解かれてない。魔道具を取られたらまずい」
「いこう」
一気に走り、教会の壁際にへばりつく。アンナが俺を抱きかかえて、二階の窓まで飛び枠に捉まった。俺がそのままよじ登り、小さな窓枠に体を滑り込ませる。
良かった……尻が通った。
アンナが、猫のようにするりと飛び込んで来た。その時だった。
「きゃああああああ!」
スティーリアの叫び声。俺はいてもたってもいれずに、一気に奥の部屋まで走り込んでドアを開ける。
ガン!
「な。なんだ!」
男達がこちらを振り返った。
俺の視界は男達には無く、ベッドの前で押さえつけられて、服の前を破かれたスティーリアが見えた。スティーリアは震えながら、涙を溜めながらこちらを見ている。
「お、おまえら! 一体なんだ! 何処から入って来た!」
「うるせえよ。その汚ねえ手で、その子に触んじゃねえよ……」
つい素がでてしまう。すると男らが顔を見合わせて、大笑いする。
「なんだなんだ。その口の利き方は。場末のワルガキじゃあるめえし」
俺はすぐに、アンナに目配せをする。
「ライトニング」
パッ! パッ! パシィィィィ!
室内が光り輝き、押さえつけている男が叫ぶ。
「な、なんだ!」
次に周りに立っていた男達が、頭のてっぺんから煙を上げて一斉に倒れた。
ドサドサドサドサドサ!
「な!」
「あのお方が、離せと言っている」
ドスっ!
叫んでいる男の口から、アンナの剣が飛び出して来た。そのまま絶命した男を掴み、スティーリアから引きはがす。俺は一目散にスティーリアに駆け寄り、アラクネのローブを着せた。
「い、行けません聖女様。これは聖女様の御身を守るための」
「スティーリア! こんなときまで気を使わない!」
「で、ですが」
「それよりほら。涙を拭いて」
ハンカチで、スティーリアの目元を拭いてやった。
「すみません。あとを付けられておりました。不覚でした」
「いやいや、無事でよかった。なんか、された?」
「いえ。服の上から胸を触られたくらいです」
「サンダーボルト」
寝転がっている奴らを、全ての肉が沸騰するくらいに感電させた。
「行こうか」
「はい」
俺達は誰かが来る前に、来た道を辿って裏木戸から外に出た。路地に回り込み、すぐ姿をくらませて、見えて来た中級の宿屋に飛び込む。フロントまで、つかつかと歩いて行って女の子に聞く。
「空いてる?」
「あ、は、はい」
なぜか、フロントの女の子が怖がっている。すると、アンナが言う。
「顔……」
どうやら俺は、まだ怒った顔をしていたらしい。それは申し訳なかった。フロントの女の子に謝る。
「ごめんねー。別に、怒ったりしてないよー」
「ほっ。よかったです」
「前金で払うね」
「ありがとうございます」
俺は料金を払い、女の子にこっそり一枚の金貨を握らせる。
「こ、これは……」
俺は声を小さくして、こっそりと耳元で囁く。女の子の良い匂いに、キスしそうになるのを堪えて。
「怖い思いをさせたから、お詫び」
「こんなに、いただけません」
「いや。誰にも言わなきゃいいから。いい? 誰にも言っちゃダメだよ。じゃないと取り上げられるよ」
「……はい。ありがとうございます」
俺達は鍵をもらって、女の子に部屋まで案内された。俺達が宿泊している、最下層の宿屋とは違って、サービスが良いらしい。
「では。ごゆっくりお過ごしくださいませ」
「ふふ。お休みの日に、こっそり美味しいものでも食べてね!」
「はい!」
女の子がいなくなり、俺達はすぐさまその部屋に入った。
とたんに、スティーリアに抱き着く。
「スティーリア―! ゴメンねぇ! 怖い思いさせたねえ!」
「私のミスです」
「ううん。ちがうよぉ! 私が無理させたから! どこ、触られたの?」
「胸を、ちょっと」
「許せん! アイツらちゃんと焼いといたから」
「は……はい……」
とりあえずは、スティーリアを椅子に座らせて落ち着かせた。そこでアンナが言う。
「痕跡を残してしまったな」
「まあ、いずれはこうなる予定だから」
「たしかにな」
「だけど……ついカッとして、ライトニングを使ってしまった」
「S級パーティーの魔導士でもそういないからな、怪しまれるかもしれんな」
「だけど、ここで慌てて全員が動いたら、それも危ないよね?」
「そのとおりだ」
すると、スティーリアが言う。
「あ、あの! どうして私がここにいると?」
「匂いで……いや、商会の裏手から馬車を追って来た」
「あそこです! あそこに、トカゲの入れ墨の人間がいました!」
「そうなの?」
スティーリアが頷く。
「私は一度、あそこの商会の人間らに捕まったんです! その時に、確かに見ました」
「お手柄だ。スティーリア! 命がけで頑張ったね!」
「いえ。でも、聖女様に危険な橋を渡らせてしまいました」
「いやいや。それは私の仕事。スティーリア」
俺がスティーリアの頭を、グッと引き寄せて抱きしめ頭をポンポンしてやる。
「聖女様……」
スティーリアは頬を染めて、はにかんだ。破けた服から手を離して、ポロリと乳房を出してしまう。
わあお! ラッキースケベ! やりい!
そしてアンナが言う。
「スティーリアの服を仕入れて来る。二人は、ここに居てくれ」
「わ、わかった」
うそ! こんな状態のスティーリアと二人? そ、それはいささか……。
そうしてアンナが、颯爽と部屋の入り口から出て行ったのだった。




