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ヒモ聖女の半百合冒険譚 ~美女に転生した前世ヒモ男は、令嬢たちを囲って百合ハーレムを作りたい、ついでに世界を救う~  作者: 緑豆空
第五章 半百合冒険

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第397話 捜査の先に見えた闇

 アンナはいつも通り、皮の鎧を着たまま剣を抱いて座って眠っている。俺は安っぽい木製のベッドに、アラクネの漆黒のローブを着たまま眠っていた。深夜、二人同時に起きる。寝付いて二時間ほどが経ち、明け方までは少し時間があるという時間。


「なーんか、動いたよね」


「そのようだ」


 ここは敵地であり、二人は常に警戒態勢を解かないでいる。そこで、何かの気配を感じたのだ。


「一階だね」


「ああ」


 チャリッとアンナが剣を持ち、俺がそっとローブの下に魔法の杖を構える。


 すると廊下側に、人の気配がした。二人はスッと、部屋の暗がりに身を隠す。


 カチャ、ギィィィィ。


 微かに軋むドア。どうやら、鍵を開けて入って来たらしい。


 ギシ、ギシ。


 足音がベッドに近づき、するすると毛布をめくっている。


「いない……」


 チャリッ。


 そいつの背後から、アンナが首元に剣を突き付けた。


「死にたく無ければ、叫ぶな」


「ひっ」

 

 ボゥッと俺が火を灯すと、そこに立っていたのはこの宿の店主だった。


「何か用?」


「ま、待て」


「女二人の部屋に、忍び込むとはどういう了見でしょう」


「それは……」


 アンナがボソリと言う。


「十秒で答えろ。首と体が離れたく無ければ」


「わかった! まってくれ!」


「大きい声を出すな」


 男は静まり返る。


「何しに来た?」


「本当に冒険者なのかを確かめに来たんだ」


「本当だが? 何か問題が?」


「い、いや。言われてるんだ」


「誰に何を?」


「宿に風変わりな奴が来たら、調べとけって、ごろつきから言われてる。宿を潰されたくないなら」


「脅されてるのか?」


「……そうだ」


 俺とアンナが目を合わせる。間違いなく奴らがネットワークを張り巡らせ、網をかけているという事だ。特に、俺とアンナはちょっと異質だからと、目を付けられたのだろう。


「これがギルド証だ」


 アンナがふわりと見せる。だが、いつも持っている物と違った。


「わ、わかった。そうか、Cランクか。なら人違いだ」


「なら、行け」


「ああ」


 アンナが開放すると、ぺこぺこと頭を下げる。だがアンナが念を押す。


「次は無い。入った瞬間に殺す」


「わかった。女だと思って舐めた俺が悪かった」


「宿代はどうする?」


「ただで良い。いたいだけ居てくれ」


「よし」


 そして宿の男が出て行き、扉を締めて俺達はひそひそ話をする。


「やはり、あちこちに網がかけられてるね」


「そのようだ」


「でもさ。なんでCランクのギルド証を持ってるの?」


「ヴィレスタンのギルドマスターを脅して取った」


「ははは。さすが」


 更に小さな声で話す。


「みんな……大丈夫かな?」


「怪しまれるとすれば、シーファーレン。もしくは、ソフィアの護衛につけているリンクシル」


「心配になって来た」


 偽装はしているが、彼女らに何かあったら俺は死にたくなる。皆が承知の上で、危険な任務についてるとはいえ、こんな事があると心配だった。


「ここは最下層の安宿だ。中級以上の宿が、どれだけごろつきどもの買収に応じるか。もしくは、脅しに屈服するかだろうな」


「皆、上手く誤魔化しているだろうか?」


「安心しろ。皆、聖女が思うほどヤワじゃない。死線を潜り抜けて来たんだからな」


「うん」


 とはいえ、長い時間、潜り続けるのは危険すぎると分った。


 そこでアンナが言う。


「聖女は落ち着いて眠ってくれ。体力の回復が最優先だ」


「わかった」


 そして二人はまた、静かに目をつぶり体を休ませた。次第に外が明るくなり、俺は静かに目を開ける。ほとんど眠れてはおらず、皆の事ばかりを心配していた。


「日の出だね」


「そろそろ動くか」


 そのまま支度をし、一階の食堂に降りていく。冒険に出かけようというには、少しばかり早い時間で、俺達が一番乗りだった。アンナがフロントで、コンコン! と机をたたく。


「は、はい……」


 主人が疲れたような顔で出て来た。


「飯を用意しろ」


「わ、わかりました。さっきはすみませんでした」


 奥さんを叩き起こして、料理を始めた。少しして、スープと硬いパンが出て来る。


「お待たせしました」


「代金は?」


「も、もちろんいりません」


 そして二人でスープとパンを、腹に流し込む。特に毒や睡眠剤などは含まれておらず、マズいながらも腹を満たす事は出来た。そうしているうちに、他の冒険者が下りて来る。


「じゃあ行こうか」


「ああ」


 俺は、居ても立っても居られない状態だが、アンナが落ち着いているおかげで、落ち着いていられる。宿を出ると、買い出しに出る使用人などが街をうろついていた。それからすぐに、市場の屋台に到着し、屋台で準備を始める光景が見られる。朝日が上がり、うす暗い街に灯が灯る。


「まず、ソフィアたち。どうかな」


「メイド服を着ていたからな。ここに居れば誰かが来る」


「なるほど」


 そして狙い通り、ソフィアとリンクシルがメイド服と買い物かごを持ってやってくる。


「誰にも見つからないように接触したいな」


「なら、わたしがリンクに合図を」


 二人は常に一緒に訓練をしていて、話さなくても行動を指示する事が出来る。


「じゃ、行くぞ」


 俺達が市場のテラスに出された椅子に座ると、店員がやってきた。


「うち、串焼きしかないけどいい?」


「じゃあ二本。そして、適当な飲み物」


「あいよ!」


 そしてその斜め後の席に、ソフィアとリンクシルが座る。


 そこで俺がアンナに話すようにみせて、大きな声で話す。


「みんな、どうなっているかなあ?」


「上手くいってるんじゃないか」


 そんな事を言っていると、ソフィアが注文を取りながら言う。


「あんまりサボっていると、領主様に叱られちゃうわ。サッと食べて戻りましょ」


「うん」


「住み込みで入れるなんて幸運よね」


「うん」


 なるほど……彼女らは、ここの領主邸に完全に入り込んだようだ。当初の作戦通りだ。


「でも、領主さんは悩んでいるみたい。良からぬものが入り込んでいるのを、憂慮しているみたいだし」


「うん」


 リンクシルに演技は無理か……。うん、しか言わない。


 そして俺が、アンナに言う。


「やっぱり、この町は間違いないなあ」


「そうだな。魔獣がすぐ見つかりそうだ」


「だよね。討伐しないと」


「まずは、探すか」


「そうだね。また探そ」


 するとソフィアが言う。


「領主様も、いつまでも好き勝手にはさせないって言ってたから、領兵が動く事もあるのかしらね」


「うん」


 そして串焼きをぱくついて、ソフィアが言う。


「そろそろ行かなくちゃね。買い物を済ませて、朝食の準備をしなくちゃ。油を売った事は内緒だよ」


「うん」


 そうして、さらりと立ち上がり、そこを立ち去って行った。


「ふふっ。どうやら、取り越し苦労のようだな」


「まったく……すっごく能力高い」


 そして俺達も立ち上がり、テラスを出て歩きだした。しばらく歩いていると、フワリと俺の前に紙切れが落ちて来てパシッと、それを取る。


 手紙だ。


「アンナ、シーファーレンだ」


「どこにいるか分からない」


「アンナが?」


「ああ」


 手紙を見てみると、そこには麻薬が出回っている事が書いてあった。どうやら麻薬が街にばら撒かれ、市民を腐敗させようかという動きがあるらしい。と記されている。


「奴らの常套手段ってところかね」


「そうだろう」


 出回っている経路なども記されていて、何処で売買されたり、街に入れている業者なども書いてある。だが、覚えて紙を消去するように書いてあった。


「覚えた。アンナは」


「覚えた」


 そして俺は、その紙を燃やした。


「危ない橋を渡ってないといいけど」


「ああ」


 そして俺達は、しばらく街中を歩きまわる。すると、スティーリアが異国の修道着を着て歩いて来た。すれ違いざまに、頭を下げて通り過ぎる。その瞬間、俺達の耳に聞こえるか聞こえないかの声で言った。


「教会が怪しい」


 そうしてすれ違っていった。俺とアンナが目を合わせ頷く。


「何かが繋がりそうだね」


「行先が決まったようだ」


「そうだね」


 俺達は、街の教会に足を運んだ。どこからどう見ても普通の教会だが、俺たちの国の教会とはまた違う建物だった。


「何かが行われているのかな……」


「怪しい何かがあるんだろう」


 周りを見渡せば、教会のそばには診療所や薬屋があった。


「アンナ。ナイフかして」


「ああ」


 俺はナイフでスッと、手を斬りつけた。ぽたぽたと血が出て来る。


「診療所行かなくちゃ」


「お、おいおい。無理をするな」


「聞き込みでしょ」


 そして俺は血を滴らせながら、アンナに付き添われて診療所に入っていく。一応、止血はしているが、わざと回復魔法は使っていない。


「失礼します。手を切ってしまって」


「あ、それは大変だ。すぐに中へ」


「じゃ、まってて」


「ああ」


 俺が椅子に座ると、年寄りの修道士のおばあさんが言う。


「あらあら。けっこうバッサリやっちゃったねえ」


「不注意で」


「止血しなくちゃねえ」


 治癒魔法がつかえるようで、ボワンと淡い光が出て血だけは止まった。


「凄いね。おばあさん」


「治癒魔法を使える人も、だいぶ減ってしまったからねえ」


「そうなの?」


「そうなのよ。それに、なにかおかしいのよね」


 おお。さっそく。


「何がおかしいの?」


「なんだか、幸せになる薬とやらがあってね。それを焚くと夢のような気分になるとか」


 ビンゴ。


「そんな薬があるんだ」


「どうだろうねえ……私は、そんな物があるとは思えないんだけどねえ」


「同感。幸せってそんな風になるもんじゃない」


「あら。お若いのに、そう言う考え方する人もいるのね」


「何をしてるんでしょうねえ」


「わかんないけどね、おかしなことに、突然信者が増えだしたのよ」


「そっか……」


 すると、おばあさんが言う。


「はい! これでしばらくすれば、傷は塞がるよ。大事なくてよかったねぇ」


「ありがとう。はい、お金」


「あら。じゃあ、お釣りを」


「あ。いらない。治療してくれてありがと」


 俺が診療所を出て、アンナを見てしっかりと頷く。二人で外に出て、チラリと教会を見て通り過ぎる。


「あそこでまちがいない。何かある」


「だと、スティーリアが危ない」


「すぐに探そう」


「ああ」


 俺達は急いで、スティーリアが歩き去って行った方向に走るのだった。

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