第396話 娼館から人を攫う聖女
食事を終えた俺達は、直ぐにその店を出る。外は薄暗くなってきており、俺達が活動する時間が近づいてきている。俺達が歩いてくと、シーファーレンのグループがベンチに座っていた。
俺達をチラリと見て、スッと立ち上がりそこを立ち去っていく。
「座ろう」
「ああ」
俺とアンナがベンチに座ると、ベンチの下に何かの瓶が置いてある。なにげにその瓶を持ち上げると、瓶の下に紙が挟んである。
なになに?
材料入手。眠り薬調合。自白します。とだけ書いてあった。
「材料を市場で買ったのかな?」
「そうだろうな」
着々と準備が進んでいる。俺達はすぐさま、色街に向かって歩き出した。角を曲がると、ソフィアたちが街角から歩いて来る。そしてすれ違いざまに、ソフィアが言う。
「領主は白」
俺ら二人は頷いて通り過ぎる。どうやら、ソフィアは領主邸に潜り込むことに成功したようだ。それによって、俺達の動きはだいぶ変わって来る。
「流石はソフィア」
「凄いものだ」
俺達は真っ暗な路地裏に入り、出てきた時には俺はアラクネのローブで真っ黒。アンナは皮の鎧に黒いマントを羽織った姿になっていた。夜に動くなら、俺達の戦闘服はこれ。色街は人でごった返しており、俺達がフードを目深に被って奥へと進む。人がくれば暗がりの路地に入り込み、また先へと進んでいく。
「ここだ」
「裏に回ろう」
俺達が見つけたのは、アデルナが調べ上げた。娼館、月の海月。裏手に回ると、すえた臭いが漂う。とても治安がいいとは言えない場所で、俺達は建物と建物の間に身を隠した。しばらく身を隠していると、ふっと月が雲に隠れた。
「行こう」
「ああ」
俺は、裏口の扉に手をかけて開ける。中を見ても、薄暗い廊下があるだけ。物置になっているようで、使わないテーブルなどが重ねてあった。
「女の子は傷つけたくないよね」
「だな……」
だが俺は、ふと懐に収めていた眠り薬の瓶を取る。
「これ……」
「使い方は分かるのか?」
「わかんない」
「……」
しばらく二人で見つめ合って、俺はふと思いついた。
「屋根! 煙突からこれ、流して見ようよ」
「そいつは名案だ」
俺達はスッと動いて、階段を探した。だがその時、奥から人が歩いて来る。
「御指名ありがとう。待ってたのよー!」
「うへへへ。そうかい! 俺も待ちくたびれたぜ」
「やだあ」
そう言って男と女が抱き合い、二階へ上がっていく。俺達はすぐに階段から、二階へ向かって上がり、廊下を奥へと走り抜けた。だが目の前の扉が突然開いたので、俺達はすぐ近くの部屋に入る。
だが、その中に女が一人いた。しかも、スケスケの衣装で。
うほ! こいつはたまらん!
と思っていたが、女はびっくりしていた。
「誰だい!」
やっば。騒がれれば、人が集まって来る。だが、女を傷つけたくはない。そこで俺は瓶の蓋を開けて、一瞬女の前に振って蓋をした。
「いきなり入ってきて! 人を……」
スッと倒れそうになったので、アンナがそっと支える。そのまますぐベッドに運び、そっと横たえた。スケスケの服から胸の先っぽと、薄い下着から、なんとも艶めかしいものが見えた。
俺がじっと見ていると、アンナが言う。
「聖女。窓から出てよじ登ろう」
「あ、ああ……そうだねそうしよう」
「心配するな。女達はこれを生業にしている。男に無理やりさせられてるわけじゃない」
うん知ってる。アンナが勘違いしつつも、俺にフォローを入れて来る。
「そうだね。仕事だもんね」
そして、アンナが窓を開け、外に顔を出して俺においでおいでする。
「ここから登れそうだ」
「わかった」
俺達は窓を出て、雨どいを伝い屋根に上っていく。うっかり俺が手を滑らせてしまい少しずり落ちた。俺の尻が、アンナの顔にどしりと乗ってしまう。
「ご、ごめん」
「かまうな。登れ」
「うん」
屋根によじ登る時に、俺は尻を押されて登り切る。後ろからアンナが上がってきて、指をさす。
「あれだ」
煙突があったので、俺達はそこに行って、シーファーレンのくれた眠り薬をふりまいてみる。
「ねるかな?」
「少し待ってみよう」
しばらく待って、煙突に耳を付けてみると物音がしなくなっていた。
「聞こえない」
「行って見よう」
俺とアンナは念のために、首の襟をグイっと上げて、顔を半分隠しマスクをした。来た時と同じようにするすると雨どいを降り、部屋に入ると女はまだ眠っていた。俺はおっぱいを触りたいのを我慢しつつ、するりと廊下に出てみる。
「静かだ……」
「流石は、賢者の薬」
「ヤバいくらいだよね」
「調べやすくなった」
「じゃ、いこっか」
そして部屋に片っ端から入って行く事にした。最初の部屋を開けると、男が女に覆いかぶさるようにして眠りこけている。女も眠っていて、どうやら事を行おうとした際中だったらしい。
だが……中身が男の俺は、それを見て……興奮してしまった。
うわあ……気持ちいい事しようとしてたんだ。いいなあ……。
「ここは何もなさそうだ」
ハッ!
「そ、そうだね! 行こう」
それから次々に部屋に入るが、まだ服を着ている状態の者から、アフターの者まで様々だった。ただ、羨ましくて、俺は男がめちゃくちゃ憎たらしくなってきた。
だがその時、アンナが言う。
「その男を見ろ」
「ん?」
すると、裸の男の汚い尻に……。
「トカゲの入れ墨」
「足無し蜥蜴だ」
「どうやら、アデルナはここに出入りしてる事を掴んだんだな」
「そのようだ」
「ふう……、この汚いのを連れ出すの?」
「そのために入った」
「仕方ないか」
俺とアンナは、そいつの手足を縛り上げて、窓を開け外に連れ出す。するりと路地裏に出て、二人で担いで先に進んだ。
「この辺は治安も悪いし、人が近寄らないみたいだね」
「だから、運びやすい」
「だけど、表通りには出れないよ」
アンナがきょろきょろと見渡すと、そのさきに納屋が見えて来る。
「そこに行ってみよう」
「わかった」
そこに馬がいて、俺達が来たら騒ぎ始めた。そこで俺は、シーファーレンの眠り薬を馬にかけてみる。
「ヒヒ……」
ドサリ。
寝てしまった。
「馬にも効くの!!」
「凄いものだな」
そして、土の上に男を放り出す。そしてアンナが、パン!と頬をはたく。だけど、ピクリともしない。眠りは深くて、目覚めそうにも無かった。
「どうしよう……」
「わたしが背負っていく。フードをかけよう」
「わかった」
裸の男にマントをかけて、アンナが背負い俺達は何食わぬ顔で納屋を出る。そしてそのまま、街を離れ川の音がする方に向かった。そこに小川が流れており、俺達は川のほとりで男を降ろす。
「水をかけてみよう」
「ああ」
二人で水を汲んで、バシャバシャとかけていると、その冷たさにじわりと男が反応した。
「う、うう……」
「起きたようだ」
「あ、あれ……俺は……」
まだ朦朧としているが、俺を見て言った。
「あれ……こ……んな……キレイな……女だったか」
俺は娼婦のふりをした。
「あんた。酔っぱらって伸びちまったんだよ。だからこうして、川で解放してるのさ」
「な、なる……ほど。何か……体がだるくて動かねえ」
「まだ動かない方がいいねえ。きっと疲れてるんだよ」
「なるほど……」
「あんたら、良く来るけど、前はいなかったよね」
「おれ……たちゃ……ある……人についてきた」
「へー。この町で何してんだい?」
「あ? 知ら……ねえ。俺……たちは……言われたら……動くんだよ……」
「言われたら? だれに?」
「カシラ……だよ……えれえ人だ」
「そうなんだ。カシラどこい居るの?」
「あの……店……にも来る……あとは、いろいろ……動きまわって……」
「今日はどこに?」
「分から……ねえ……」
それからしばらく尋問したが、男からは情報はとれなかった。だが、奴らがこの地で動き回っている事は確実だと分った。俺はアンナと目配せをして、男に薬をかける。また深い眠りに入り、俺達は裸の男をそのままに、そっとその場を離れた。安宿に戻る前に変身の魔道具を付けて、カウンターに行った。
「おかえり! 冒険はどうだった?」
俺は、普通に答えた。
「小さな収穫があったよ」
「そいつはよかった!」
そして俺とアンナは二人、自分達が泊まる部屋へと上がっていくのだった。




