第394話 十三使徒の出陣
ルクスエリムの諜報からの情報を受けて、東スルデン神国は和平交渉を蹴る可能性が高いと判断した。ネメシスの使徒が現れて、ズーラント帝国の進軍を手引きしているようなのだ。
そこで俺が、ある判断を下したが、フォルティスとルクセンが難色を示す。
「いけません。聖女様。それはかなり危険です」
ソフィアとシーファーレンも卓についての話し合い、フォルティスもルクセンも首を縦に振らない。
「そうですじゃ。それこそ、飛んで火にいる夏の虫ともなりかねません」
ルクスエリムの諜報が、ネメシスの使徒であるガジに殺されかけたという事は、既にこちらが敵を嗅ぎつけたことを知っている。だが俺の提案は、そこを逆手にとって奇襲をかけるという作戦だった。
「だからこそです。いま、デビドとガジが同じところにいる。ならば、ネメシスも現れる可能性が高いのではないかと思うんです。そこを我々が、叩くというシナリオです」
フォルティスが立ち上がって言う。
「ならば! 全軍を率いてそちらに行くべきでしょう! 邪神は強敵すぎます!」
それが、先ほどから揉めてるところだった。ネメシスと使徒たちがいる場所に、聖女部隊だけで襲撃をかけると言ったら、二人の重鎮に大反対を受けているのである。
「それはダメです。ここから騎士が引いたら、東スルデン神国の押し返しがあります」
「それでも、聖女様が危険すぎます!」
俺はちょっと強めに言った。
「いえ! ネメシスは、一度やって勝ってますから!」
「二度はあるか分かりませんぞ!」
困った。ならば国の許可もへったくれも無く、お忍びで叩きに行くしかない。もちろん危険すぎるが、それでもいまなら、敵に大きな打撃を与えられる可能性が高かった。
そしてルクセンが言う。
「調査をかけて、ズーラント帝国が兵をあげていないかどうかを調べるだけでも!」
「調査にどれくらいかかりますか?」
するとルクスエリムの諜報が言う。
「半月もあれば!」
半月……微妙なところだ。それだけあれば、敵は兵の準備も出来るし、東スルデン神国もこちらが動かなければ、足元を見て兵をあげて来るだろう。
それが分かっているのか、フォルティスもルクセンも眉間にしわを寄せる。
「わかりますか? 騎士団長、辺境伯殿。待ったなしなんですよ。様子見なんかしてる時間はないです。下手をすればアルカナ共和国が飲まれ、更に敵は強大になります」
「その通りです」
「そうですな」
そして俺が、きっぱりと言う。
「考えがあります。フォルティス団長と二人で話がしたいです」
「わかりました」
そして俺は俺の仲間も含めて全てを人払いして、俺の思っている真意をコイツだけに告げた。フォルティス団長は腕組みをして、目をつぶり俺の話を聞いている。
「分かりました……して、猶予は?」
「明日から三日」
「その時は、全てを明かし救出部隊を編成しますが?」
「構いません」
「明日から三日の後に何の知らせも無ければ、兵の命を捧げさせてでもやります」
「くれぐれも、陛下のお耳に入らぬよう」
「反対されますでしょうからな。私の胸にとめておきましょう」
「では」
俺の決心に、フォルティスはそれ以上の事を言わなかった。俺にはコイツにも話さない真意があるが、他の人間に言えば、ごちゃごちゃうるさいのでこうさせてもらった。
「聖女邸の皆には、出てから伝えます」
「本当に大丈夫なのでしょうか?」
「ソフィア嬢、賢者様、そして私の剣のアンナは納得しています」
「わかりました。奇跡にかけましょう。ですが失敗した時は、こちらの兵の損害も覚悟の上で参ります」
「おねがいします」
礼をすると、フォルティスが一人跪いて俺の手を取った。
「女神フォルトゥーナが、聖女様をお守りくださいますように」
「ええ。兵士にも、女神の加護がありますように」
そして二人が部屋を出て行くと、なにかの雰囲気を察したのか、誰も何も聞いてこなかった。そしてルクスエリムの諜報に向かって言った。
「では、よろしいですか」
「はい」
俺は、東スルデン神国との膠着状態の件と、ネメシスの使徒の暗躍、ズーラント帝国の関与について、王宮に伝えるように諜報の男に伝える。
よく考えたら、コイツの名前を知らない。
「名前は聞いても?」
「いえ。名は、捨てました」
「そうですか。では、陛下にお伝えください」
「直ぐに」
皆に礼をして、直ぐに諜報は消えた。俺は、仲間達の方を振り返る。
「じゃ、いこっか」
俺達はすぐに駐屯地を出る。すると騎士達がいて、暑苦しいマイオールが突進して来た。
「聖女様! 変わりないですか?」
「ええ。元気です」
「それはよかった」
「あとは、フォルティス団長の指示に従ってください」
「は!」
副団長のマイオールが敬礼すると、全騎士が俺に敬礼して来た。
「では。皆様に女神フォルトゥーナのご加護がありますように」
「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」
俺が失敗すれば、この騎士達に死人が出るだろう。まあ、別に男達が死んだって知った事じゃないが、俺が失敗するという事は敗北につながる。だから、こいつらの出番はないって事だ。
俺達はヒッポの馬車に乗り込み、準備のためにヴィレスタンの城へと飛んだ。
「アンナ。私達は死なないよ。そして失敗もしない、十三使徒は完璧に仕事をする」
「だな」
ヴィレスタンの城に俺達が颯爽と城に入っていくと、エントランスに最新装備が置いてある。
「ウェステート。凄いお金使っちゃったね」
「命がかかっているのです。お爺様も了承済みです」
「ありがとう。そして、やはりソフィアの予知夢が当たった」
「やはりそうですか」
それを聞いて、皆の気持ちが引き締まった。そして俺達は、装備と背負子に三日分の食料を詰め込み、馬車に乗せていく。
「ヒッポも。頑張ってね」
「ギャギャギャ!」
俺の頭を甘噛みしつつ、べろべろと舐められた。マグノリアが、ヒッポを怒る。
「こら! だめじゃない!」
「いいよ。マグノリア。ゼリスとの挨拶は済んだ?」
「行きたがっていましたが」
「予知夢どおりなら。十三人以外を連れてったら、歯車が狂って死ぬと思う」
「はい。そう伝えたら納得しました」
「では、みんな! 行くよ!」
そしていつのまにかだいぶ大きくなった、ヒッポの馬車に乗り込んだ。乗っているのは前世の記憶で、塗装職人に迷彩色に濡らせた馬車。森に降りれば、そうそう見つかる事もない。十五人を乗せた馬車は、一気に陽の落ちかけた大空に舞い上がるのだった。




