第388話 王宮に走る激震
俺達はすぐに、ヒストリア王国の城に戻ってきた。直接、王城に乗りつける事を許可されているので、そのまま玄関口にヒッポを降ろす。
「これは! 聖女様! よくぞお戻りになられました!」
「ええ、バレンティア卿。戦況が変わりましたので、まずは陛下にご報告を」
「は!」
無駄に、美形すぎる男。俺の敵だ。俺に好意を寄せているようだが、俺は絶対に近寄りたくない奴の一人だ。氷の騎士とかなんとか言われて、キャーキャー言われている奴が、俺の友達になりえる訳もない。
「ソフィア嬢も久しいですね」
あ?
「ええ、バレンティア様」
な、ななな、ななな! 俺のソフィアに馴れ馴れしく語りかけやがった! くそが!
「あ、二人は知り合いですか?」
するとバレンティアが言う。
「まあ、そうですね」
「えっと、それはどういう?」
「いや、それは貴族同士ですので、それに、ソフィア嬢が幼き頃に少し話を」
よし。殺そう。コイツは、生きる意味など無い豚だ。
だが、そこでソフィアが言う。貴族の作り笑いを浮かべながら。
「まあ、バレンティア様は、王都中の女性の憧れの的でございます」
だからいやなんだけどね。
するとバレンティアは、俺をちらちら見ながら動揺する。
「そ、そんな事はありませんぞ。ソフィア嬢、そして聖女様! 私は決してそのような!」
「そんな事はどうでもいいです。では、陛下の元へ」
「は、は!」
周りの騎士達も不思議そうな顔で、バレンティアを見ている。そして王城を歩きだすと、騎士達がぼそぼそと囁くのが聞こえる。
「団長が……初めてみた」
「たしかに……」
どうやら、狼狽えるバレンティアを見たことが無いらしい。コイツは、俺の前ではデレデレしがちなのである。まあ、ソフィアとは何でもないようなので、今のところは生かしといてやる。
直ぐに謁見の間に通されて待っていると、王がやってきた。突然の訪問だったが、きちんとした正装で出てきやがった。まあ前線から人をむかえるのならば、それぐらいは当然か。
「おお! 聖女よ! 待っておった!」
「陛下。戻りました」
「息災であるか?」
「問題はありません。ですが、火急の要件です」
「う、うむ! 聞こう」
「はい」
そして俺は前線の状況、東スルデン神国の状況、アルカナ共和国の状況、不穏な敵の動き、その打開策までを話した。
「東スルデン神国と和解をしてください」
「……しかし……正面切ってかかってきた敵国、既に、聖都も陥落間近なのであろう?」
「陛下。真の敵は……」
「分っておる。邪神ネメシスじゃな」
「そうです。それこそ、いま兵を東スルデン神国の聖都陥落の為に割けば、手薄になったどこかをついて来るでしょう」
「だが、スルデンは全面降伏すらあり得るのではないか?」
「無血ではありえません。弱体化は、両国にとって大きな損失です」
「……わかった。だが、貴族や大臣達がどれだけ納得するか」
俺がそれに対して言おうとした時、バレンティアが言う。
「陛下。我がアインホルン家は、全面的に聖女様を指示しております」
「それは、王家とて同じ。だが、これは金が絡むことでだな」
「重々承知しておりますが、それこそネメシスの思うつぼ」
「だが、今回兵を動かした金を、敵国の賠償という形で……」
「すみません。差し出がましいまねを、しかし……」
もっと頑張ってもらっても良かったけど、俺が言う。
「陛下」
「うむ」
「この要望を受け取れない場合は、私は亡命も辞さない構えだと、貴族や大臣達にお伝えください」
俺の言葉に、王はおろか、そこにいた家臣たちや、バレンティアも度肝を抜かれている。
「ななななな! なにを」
「聖女様! それは、いくらなんでも!」
「いいえ。もし、言う事を聞いていただけないなら、私はアルカナ共和国か、トリアングルム連合国にでも身売りしましょう。わかりますよね? 国を守りたいなら、これは絶対です」
シーンとする。ソフィアもシーファーレンもちょっと青くなっている。ニヤリと笑っているのは俺の側にいる、アンナだけかもしれない。
「わかった!! これは国をあげて、王という地位をかけて約束させよう」
おお、俺の立場って、そんなに大事なの? フォルティスのおっさん、こいつらが一番言ってほしくない事を、よーく心得てると言う訳だ。
「では、直ぐに招集。そして全ての貴族の認可を」
一気に騒がしくなった。家臣たちが大慌てで走り出し、俺達はそれを高みの見物する。そして一時間後に大臣や、王都に居た貴族がすべて集められて、ひと悶着あったが直ぐに可決した。
そして俺が立ち上がり言う。
「では、東スルデン神国との和平という事で満場一致ですね」
「う、うむ!」
「そういうことで、この一報をもち前線に戻ります。正式な書簡を」
「うむ!」
渋い顔をしているが、王が和平交渉の書類にハンコを押した。封蝋をして、俺に渡してくる。
「よ、よろしく頼むのじゃ」
「はい。これをフォルティス団長に。そして、責任をもって事に当たらせていただきます」
ざわつく謁見の間を歩いて行くと、大臣や貴族までが俺に頭を下げた。
おお、気持ちがいい! 男はみんな跪きやがれ。部屋を出ると、ついて来たバレンティアが言う。
「聖女様。随分とおもいきったことを、まさか本気ではありますまい」
「えっ。本気ですよ? これ以上、邪神ネメシスの思う通りにはさせません」
「わかりました。肝に銘じます。そして……」
「なんです?」
するとバレンティアが、すぐそこの扉に向かって俺の手を掴んで飛び込んだ。
おいおいおい! みんな見てる前で、おまえ何やってんだ。気持ち悪い。
だがバレンティアは、俺の目の前に跪いた。
「王に背くような発言をお許しください。もし、聖女様がこの国をお捨てになるというのであれば、地位も名誉も捨てて、私はついてまいりたいと思います」
おい! 氷の騎士! てめえ何言ってんだ!
全身に鳥肌を立てながら、俺は取り繕ったように苦笑いをする。
「お気持ちはありがたく頂戴いたします。ですが、あなたは未来のあるアインホルン家の、次期党首ではありませんか。これは、ここだけの話にしておきましょう」
「は! ですが本気です!」
その時、俺とバレンティアは初めて気が付いた。バレンティアの首に、アンナの鋭い剣がつけられ、ほんのちょっぴり血が出ている事を。
「うわ!」
「あ、アンナ! ストップ」
そしてアンナが、跪いたバレンティアに吐き捨てるように言う。
「二度とするな。つぎは、お前の首が体と離れる事になる」
「わ、わかった。すまなかった」
そして立ち上がり、バツが悪そうにしながら三人で部屋を出た。
「団長!」
騎士達も慌てて近づいて来る。
「うむ。それでは、前線に戻られる聖女様一行をお送りしよう」
「「「は!」」」
しかし……こいつは、アホか? 近衛騎士団長という地位がありながら、好きな女の為にはなんでもするのか?
おれは、この氷の騎士バレンティアに、マイオール以上の熱血を感じて身震いする。
男……マジでキモい。ずっと鳥肌が収まらない。
俺は慌てて、ソフィアの手をぎゅっと握る。すると一気に鳥肌がおさまり、幸せな気持ちで全てが満たされる。ソフィアも不思議そうな顔で俺を見ているが、その手にはぎゅっと力を入れてくれていた。
「聖女様……」
「ソフィア。うまくいきましたね」
「はい」
そして俺達は再びヒッポの馬車に乗り、東スルデン神国の前線に向かって飛び立つのだった。




