第386話 特級冒険者の威を借る王子
俺達が冒険者ギルドに訪れると、エントランスが騒然とした雰囲気になる。最近まで崩壊しかけていた王宮の幼き王子が、聖職者と女剣士だけを連れてやってきたからだ。もちろん普通に考えたら無防備極まりないが、これにはもちろん狙いがある。
そして受付に行き、幼き王子が大声で挨拶をする。
「ヴァイネン・ウィアベル・アルカナである」
そう言うと、ギルドが一気にざわついた。
「これは……殿下。わざわざこのようなところまで」
ギルド嬢が困ったような表情を浮かべる。それに対して、ヴァイネンが畳みかけた。
「火急の要件なのだ。直ぐにギルドマスターを呼べ」
ギルド内の全てが、こちらに向いている。上からの態度に、ピリ着いているようだ。
「いかに、王子といえども、ギルドのルールに国は干渉できません」
「もちろん。分っているよ」
「では……今日のところはお引き取りを」
だが、そこでヴァイネンは引かなかった。
「いいのかい?」
「え? それは……どういう?」
「じゃあ、頼むよ」
そう言われて、アンナがギルド証を取り出して見せる。
「ギルマスを呼べ」
「とっ! 特級冒険者! まさか!」
「王子に要請を受けて来た」
「お、で、殿下が!」
ギルド内が一気に静まり返り、一斉にざっと壁際に下がっていく。王子の権限は効かないのに、特級冒険者の威光はハンパないようだ。
「早く! ギルドマスターを!」
そう言ってギルド嬢が走っていく。そこで、俺がギルドにいる人達に言った。
「お集まりの皆様、お忙しいところすみません。私達は国の存続のため、こちらにいらっしゃいますヴァイネン殿下の要請により駆けつけました。勇気ある王子は二人だけを連れて、ギルドへとやって来たのです。是非とも、ご協力を承りたく思います」
「こんな幼い王子が……」
ザワザワとなり、そこにギルドマスターがやってきた。
「ささ! どうぞ、こちらへ」
「すまないね」
ヴァイネンは堂々とついて行き、俺とアンナもその後ろをついて行った。応接室に入ると、すぐさまギルドマスターが聞いて来る。
「いったい、どうされたのです?」
「あ、話はこちらから」
王子が俺に振って来たので、王宮からギルドに仕事として依頼を出す事を伝える。戦闘に介入せずに自国に敵の軍勢が入ってきたら、ギルドで共有をかけて欲しいという事。そしてその情報は、王宮へ直ぐに伝えてほしいという事。
「それだけで良いのですか?」
「はい。敵国の軍隊と戦う事の無いようにしてください。無駄な血が流れます」
「お安い御用です。これをギルドに、一斉通達すればいいのですか?」
「そう言う事です。正確な情報をもたらしてくれた冒険者には、王宮の方から報酬が支払われます」
そこでヴァイネンが言う。
「皆さんを信頼する。ぜひ、協力してほしい」
「わかりました。しかし……殿下は、特級冒険者に伝手があるのですね」
「その通り。舐めないでくれ」
「肝に銘じます」
書簡を渡し、ギルドマスターに全てを伝えた。
すると帰り際にギルドマスターが言う。
「これで間違いなく、冒険者達は王家に対して一目置くでしょうね」
「そうですか?」
「まさか、特級冒険者を連れて来れるとは、誰も思いませんよ」
「それはよかった」
そして俺達はギルドのエントランスに出る。すると皆が一斉に距離をとった。アンナは猛獣じゃないんだから、いきなり襲ったりはしない。だけど、それでも下手に接触したくはないのだろう。
だが入り口から、今までの経緯を知らない、荒くれ冒険者が入って来る。エントランスが不思議な空気に包まれているのに、気が付かずにつかつかと入って来た。
そして、そいつは……バカだった。
「お、なんだなんだ! 新顔か! そっちのねーちゃんは、信じられねえほどべっぴんだなあ。どうだい? 今晩、俺と一発」
俺に向けての発言だが、次の瞬間。
ドゴン!
そいつが床にめり込んでいる。ピクピクしていて、下手をすれば死ぬんじゃないかと思う。
「聖女。コイツを殴るぞ」
「そ、そう言う事は、殴る前に言って」
「ああ」
それを見て、静まり返っていた冒険者達が、ぼそぼそ言い始めた。
「Aランクだぞ……」
「いとも簡単に……」
「てか、手を出したの見えたか?」
「みえねえ」
うーん。マズいな、凄いとは思うけど、印象が悪くなってしまう。そこで俺は、一人の冒険者に声をかける。女の魔導士らしき、ちょっと可愛い女に。
「あなた」
「私ですか?」
「こちら、究極の回復薬です。こちらの人の介抱をしてくださる?」
「わかりました」
穴から引き揚げられた、Aランク冒険者の真っ青な顔。開いた口に、ポトポトとシーファーレンの特性回復薬を垂らしこむ。するとAランク冒険者は、ガバッと起き上がった。
「プッはアアア。な、お、俺はいったいどうしたんだ?」
それを見て、アンナが女魔導士に言った。
「誰でもいい。そいつを躾とけ」
「は、はいぃぃぃ」
そこに、ギルドマスターが慌ててやってきた。
「ど、どうしました!」
それに対して、俺が答える。
「すみません。そこの床の修繕費は、そちらのAランク冒険者がお支払いするそうです」
「わ、わかりました」
「な、なんで俺が……」
そして俺達は入り口まで歩き、俺が振り向いて言う。
「では、ギルドマスター。そして冒険者の皆さん! ごきげんよう! 依頼をこなしていただけますようお願いします」
「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」
皆が直立不動で返事をした。流石は特級冒険者、アンナのおかげで仕事がスムーズに動きそう。俺達は、馬車に乗り込み王城に向かって出発する。
するとヴァイネンが不思議そうに聞いて来た。
「なんで、さっきの冒険者は床にめりこんだの?」
「わたしがやった」
「アンナさんが! そうなんだ! 見えなかった」
「そうか」
「凄い! 凄い! カッコイイね!」
「……」
アンナは無視している。だけど、ヴァイネンはアンナの手を握った。
「いいな。強い女性は好きだ」
やたらとキラキラした目で、アンナを見つめている。だが俺は、ヴァイネンの前に顔を挟んで言った。
「アンナは私の剣です。常に私と一緒に居て、私の為に何でもしてくれるんです」
「う、そ、そうなんだ」
「ええ。ですので、王子の為に働いたのではなく、私の為に働いたという事をお忘れなく」
「わ、分ってる」
……我ながら大人げなかった。だけど、コイツも幼いとはいえ男。という事は俺の敵である。将来、万が一、俺のアンナに粉をかけて、たぶらかそうとするようなら……ライトニングだ。
本気でそう思うのだった。




