第385話 使者としてアルカナ共和国へ再び
聖女邸の十三人を乗せた大型の馬車は、一気にアルカナ共和国まで飛んだ。俺達の馬車には、ヒストリア王国の旗が立てられており、所属する国を明示している。だがそれを抜きにしても、ヒッポは俺の仲間が使役している魔獣だと知っているアルカナの姫は、警戒することなく俺達を迎え入れてくれた。
「聖女様!」
城を飛び出してきた、プーリャと後ろをついて来るヴァイネン王子が馬車のそばに寄る。騎士団長のデイルと騎士のヴェールユも、一緒に跪いて出迎えてくれた。
「すみませんプーリャ殿下。突然の訪問をお許しください」
「いえ! 貴国と東スルデン神国が戦時下にあるのに、わざわざお越しいただいて歓迎いたします」
「早速ですが、会談のご用意をお願いできますか?」
「はい」
そしてヒッポを使役するマグノリアと護衛のリンクシル、マロエ、アグマリナ、ジェーバ、ルイプイを馬車に置いて場内へと入っていく。もちろん、それほどゆっくりしている時間はないので、直ぐに動けるようにしたのだ。
騎士達も今回の来訪が、戦争についての事だと知っているようで、主要のメンバーが揃っているようだった。俺達が部屋に入っていくと、一斉に跪いて出迎えてくれる。俺とソフィアとシーファーレンが座り、対面にプーリャとヴァイネンが座った。騎士達は後ろに立って、俺達の話を聞くようだ。
そしてプーリャが最初に言う。
「此度は、我が国の為に尽力いただいた事、再び国が安定しつつあることを感謝いたします」
「いえいえ。国交再開ができて良かったです」
「はい。それで、状況をお伺いしても?」
「ただいま、我がヒストリア王国では、東スルデン神国へ侵攻を続けています」
それから俺は、ヒストリアと東スルデンの現状を話す。情勢は有利に働いているものの、まだ不透明な部分がある為、アルカナ共和国においても充分注意が必要だと伝えた。今度はそれにプーリャが答える。
「なるほどでございます。実はわが国でも、東スルデン神国との国境でにらみ合いが続いておりました。ですが、その中隊規模の兵団が、突如として消えたのでございます」
「それが……問題なのですよ。あれは、この国を脅かしたドペルと似たような者が率いている部隊です。言わば、あれは邪神ネメシスの息のかかった悪しき者。私達がトリアングルム連合国で撃退した、邪神ネメシスの復活を目論んでいる者だと思われます」
「邪神……。あの、トリアングルムを滅ぼしかけたという」
「はい。どうやら、ズーラント帝国にもその一派が潜んでいるらしく、その動きが全く読めないのでございます。行って見れば神出鬼没、いつここに現れるかすら分かりません」
「そうなのですね」
「だから、今日、私はここに来たのです」
色白で可愛らしいプーリャが、そのクリクリの目と目の間にしわを寄せている。実際に、ドペルに蹂躙された経験があるので、その苦い経験を思い出しているのかもしれない。騎士達も黙ってはいるが、あの屈辱を忘れてはいないだろう。するとヴェールユが言う。
「発言をお許しいただけますか?」
プーリャが俺を見るので、俺は静かにうなずいた。
「恐れ入りますが聖女様。奴らは、どこから国に入って来るとお考えですか?」
「空です。私達は、このように他の国の上空を渡ってやってきました。ドペルは魔獣を使役する力がありましたが、それらに類する者にも同じ力があるやもしれないのです」
「なるほど……。あのドペルの、ワイバーンのようなという事ですかな?」
「そう言う事です。それによって、いくつか想定できる事があります」
「なんでしょうか?」
「一つはここに直接来るかもしれないという事。そして一つはその矛先を、ヒストリア王都へと向けるかもしれないという事。もう一つは、ズーラントに潜伏した曲者と合流して、進軍した長い兵站戦の横っ腹を着くかもしれないという事。いずれにせよ、あの遊撃部隊は厄介だという事です」
「なるほどでございます」
ようやく、あのデビド達の脅威を分かってくれたようだ。
すると今度は、騎士団長のデイルが言って来る。
「国境の軍を引けば、そこを突かれるかもしれない。王都を手薄にすれば、また二の舞になる可能性がある。という事で間違いないですかな?」
「その通りです。現在ヒストリアは東スルデン神国に兵団の半数近くがいます。王都にも兵団が集まり近衛もおりますので、守りは堅いのです。ですが、兵を立て直されたばかりの、貴国ではさらなる手段を講じねばならないと思います」
「おっしゃる通りですな」
そこでまたヴェールユが言った。
「しかし兵が……足りないのです。あの一件で、戦力がかなり落ち込んでしまった。市民や農民からも、兵を集めていますが、武器も鎧も足りていない状態なのでございます」
だがそれを、プーリャが制す。
「ヴェールユ。それを、他国のお方に言うのは筋近いですよ」
「は! 差し出がましい真似をいたしまして、申し訳ございませんでした」
たしかに、プーリャのいう通りではあるが、だったら俺達はここには来ていない。
「いいのです。殿下、私達はそのために来たのですから」
「しかし」
「あいにく、私達には空飛ぶ馬車という機動力があります。ですので、先ほど懸念した両国の王都、国境沿い、兵站線を私達が即応部隊として動き回る、という案を提案しに来たのです」
「即応部隊でございますか?」
「身体強化については、騎士の皆様も分かっていただけたと思います」
ドペルの足無し蜥蜴や、謀反をおこした騎士達と戦う時に、俺が最上級の身体強化を施した。そしてヴェールユもデイルも、それは体感で覚えている。
「あれはすさまじいものでした」
それを聞いて、俺がプーリャに言う。
「諜報はお持ちですか?」
「ドペルの一件により機能していません」
「では、ギルドに仕事として依頼しましょう。鳥を使った伝書が出来る、テイマーならいると思います」
「しかし、王宮からの依頼を受けてくださるでしょうか?」
そこで、俺はアンナにチラリと目線を送ってから、プーリャに言う。
「王宮からは難しくても、特級冒険者なら話は別です」
「特級冒険者など」
「あー、彼女がそうです」
それを聞いて、騎士団が一斉にざわついた。アンナは、全く表情を変えずに真っすぐ立って鋭い目を、こちらに向けたまま。
「アンナ様が」
「私達と一緒に、ヴァイネン殿下とギルドに行って依頼をしましょう」
「僕が?」
「次期国王の言葉と、特級冒険者の言葉なら聞かざるをえません」
「わかりました」
「詳しくは……」
そこでヴァイオレットがスッと礼をする。
「私が条件を網羅した書簡をしたためます。それをもって、ヒストリアのギルドとの連携を図りつつ、情報網を構築するように手配を」
そしてプーリャが答えた。
「なにからなにまで、本当に感謝します。自国の事だけでも大変であるというのに……」
「いえ、これは、結果として自国の利益にもなるのです。今は、共同戦線をはり、ネメシスの一派を殲滅する事が第一優先なのです」
「わかりました! それでは、ご協力させてください」
そう。いずれにせよ、もうそれしか手立ては残っていない。俺達が即応部隊となり、前線の兵達を強化し、魔法による支援とアンナの力を借りた突破口を開くしかないのだ。
それから、執務室を借りてヴァイオレットとアデルナが数個の書簡をしたため、各地域のギルドへとばら撒く準備をする。王宮の封蝋をして、それらを持ってヴァイネンとアンナを連れ、俺達はギルドを周る事にしたのだった。




