第375話 開戦
聖女邸から仲間達を呼び、俺達は東スルデン神国との国境沿いに集結していた。そして既に、東スルデン神国側には、宣戦布告の書状を突き付けたとフォルティスが告げて来る。
「東スルデンも、大慌てでしょうなあ」
フォルティスが嬉しそうで何よりだ。元より、能力のある強い騎士である。戦争となれば、腕がなるのは当然の事だろう。
「それで? どうすれば?」
「既に兵は、集まっております。あとは、聖女様が鼓舞をしてくだされば、喜び勇んで攻め入りますよ」
「兵を、鼓舞するのですか?」
「はい。軍の士気をあげてください」
面倒なんだけど。それに大勢の前で話すのなんか緊張するんですけど。男なんだから、勝手に適当に戦ってくれよ……。
「わかりました」
あ……言っちゃった。でも、宣戦布告するって言ったの俺だしな。
そして俺は、屯所から出て広場へと連れていかれる。そしてそこで初めてあっけにとられた。
めっちゃ大軍勢じゃん……。
物凄く広い敷地の向こう側まで、兵士で埋め尽くされていた。俺は大軍勢を前にあっけにとられる。
するとフォルティスが言う。
「第一騎士団、第二騎士団、旧第四騎士団、第五騎士団、第六騎士団。総勢三万です!」
そしてフォルティスが、俺に壇上に上がるように誘導した。
「ささ! 聖女様! 兵にご加護を!」
えー、なに言ったらいいのさ! マジで困る。
だけど次の瞬間……突然、俺の意識がもうろうとする。
ヤバ。なんかちゃんと歩いてはいるけど、遠くから自分を見てるような気分。何だこれ?
俺が壇上に立つと、騎士達がザッ! と姿勢を正す。そこにシーファーレンが来て言う。
「聖女様の声を皆に届かせます」
いや、別にいいのに。
ボーっとしながらなんとか頷いた。なんか変。
頭は真っ白だけど……。次の瞬間。
フォルティスが言う。
「傾注!」
ザッ! と剣を前に置いて、静かになった。
だが、不思議な事に、俺の口から勝手に言葉が出てきた。
「皆さん。とうとうこの日が来ました。ですが、私は知って居ました。
愛するこの国に、再び邪神の陰が忍び寄る事になると。
しかし私は、一切の恐れを持ってはいません。
なぜなら、私は一人ではないからです! そう! 皆さんがいる!
わたしには守りたい顔がある。守りたい思いがある。
剣を取る者よ! 魔法を紡ぐ者達よ! そして、神を信じる全ての者達よ!
私の声を聴いてください! あなたの戦いは、一人の戦いではない!
皆が、女神フォルトゥーナの加護につつまれているのです。
私はこの身がくだけても、皆を見捨てません!
さあ! 共に戦おう! 我が命は全ての兵と共にある!」
次の瞬間シーンとした。だが、一拍置いて地面が割れんばかりの大歓声が起きる。
「「「ドワァァァァァァァッァア!」」」
すると、騎士達が剣で地面を突き始めた。
ザン! ザン! ザン! ザン! ザン!
「「「「わが身を捧ぐ!」」」」
そしてフォルティスやマイオール、レルベンゲルなどの隊長格が膝をついている。
だんだんと意識がはっきりしてきた。
あれ……。演説終わってる。
不思議だった。勝手に演説が終わってた。そして俺が壇上から下りると、なぜかソフィアや聖女邸の面々が涙を流していた。
ソフィアが言う。
「素晴らしきお言葉でした」
「あ、そ、そう」
そしてフォルティスや、騎士達が馬に乗り出陣の準備に入った。マイオールが俺のところに来て、もう一度確認をする。
「本当に聖女邸の皆さんも行くのですか?」
それには、俺ではなく、女の子たちが答える。
「「「「「「「はい!」」」」」」」
「では、後方に! 警護隊から離れぬように!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」」
なんだろ。うちの子ら、誰一人としてビビってないんだけど。騎士みたいな力があるとも思えないのに、何故かやる気満々になってる。
そして先頭から号令がかかった。
「関所の門を壊せ!」
すると数人の魔導士が詠唱を初め、火の玉がどんどん大きくなって空中に浮かんだ。
「てぇっ!!!」
シュー、ドッゴン!
敵国の関所門の扉が破られた。すると敵国側から、弓矢が飛んで来る。
「盾を前に!」
弓矢は盾に防がれ、兵士を傷つける事は無かった。
「弓隊!」
そしてこちら側の弓隊も応戦し始める。
うん、まどろっこしい。
俺は敵国の領地上にめがけて、次々にスプラッシュライトニングの応用で作った雲を飛ばしてやった。見る見るうちに、敵国側の空がどんよりとし始めて雨が降り始める。
そして、電撃を発動した。
「スプラッシュライトニング!」
ピィッシャァァァァァァ!
敵国側に、思いっきり派手に雷が降りそそぐ。敵の弓隊が一気に静まり返り、敵国側の音が途端に静まり返る。次第に敵国側から、騒然とした声が届いて来た。
それを合図に、フォルティスが言う。
「敵は神の裁きを受けた! 突撃!」
「「「「「「「ウオオオオオオオオオ!」」」」」」
敵国側にどんどん兵士達が雪崩れ込んでいき、散り散りになった敵兵に切りつけていく。俺達聖女組は、その最後尾あたりからゆっくりと国境に入り込んでいく。
するとそこにルクセンがいた。
「わしが、殿を務めます!」
「よろしく頼みます」
壊れた関所をこえれば、その先ではほとんど沈黙仕掛けている敵兵を、討伐しているところだった。
すでに敵は、戦闘力を削がれており、一部の兵は逃げ始めているところだった。
いや、そりゃ。一カ所に固まってりゃ、スプラッシュライトニング当てやすいしな。
俺はそう思いながら、皆の顔を見る。
するとルクセンが目を丸くして言う。
「単騎で、こうも戦局が決してしまうとは……。各国が、聖女様のお力を恐れるのも無理はないですな」
そこに居合わせたレルベンゲルが言った。
「だからこそ、我々は命がけで聖女様を守らねばなりません!」
「おうよ」
そうそう。いざという時は男連中で肉壁になってね。うふっ。
そして俺が、聖女邸の皆に言う。
「みんなは、絶対に私から離れないで」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
そしてアンナが言う。
「当たり前だ。我々は全力で、聖女を守らねばならない」
「いや、私が守りたいから。結界と身体強化の範疇から抜けないでね」
皆が頷いた。
そうして、東スルデン神国との最初の戦いは、こちらに被害が出る事無く圧勝で幕を閉じるのだった。




