第374話 聖女の大きな決断
ヴィレスタン領に帰ってきたところに、ルクスエリムの密偵がやってきて知らされたのは、東スルデン神国の一部の兵団が、アルカナ共和国との国境までたどり着いたとの事だった。思いの外、動きが早く俺達は早急な対応が求められる。
俺に話を伝えた密偵に聞く。
「陛下はなんと?」
「女神フォルトゥーナの御心のままにと」
うわ。丸投げしやがった。きっと取り巻きの大臣達あたりが、そう決定しているのだろう。
「いいのでしょうか? 私が決めても?」
「それは。私には判断しかねます。ただ陛下はそのように言っておられただけです」
「他には?」
「何も」
やはり一国の王という者は食えない。だが自国さえ守れたら、それでいいと考えるような王様だし、きっとアルカナ共和国が危機に陥っても決定出来ないかもしれない。むしろ、最近までこのヒストリア王国に弓を引いていたアルカナ共和国を、守ってやらねばならない道理もない。
それが、足無蜥蜴……邪神ネメシスの取り巻きがやった事だとしても。
そして密偵が出て行く。
「どうしようかな……」
するとソフィアが俺に言った。
「聖女様が決めて良いと陛下が言うなら、そのようにしてよろしいかと。私は聖女様に何処までもついてまいります」
それを聞いたアンナもシーファーレンも頷いた。
「わたしも」
「同じく」
なるほどね。するとソフィアが追いかけるように、もう一言いう。
「ただ……よろしいでしょうか?」
「はい」
「もし、事を起こすのであれば……聖女邸の皆さんを連れてきた方が良いかと」
「えっ、彼女らは戦えないよ」
「あの、また夢を見たのです」
「どういう?」
「十三の使徒が、聖女様を更に強くするのだと」
「それって、この前の変装したルクセン卿とかレルベンゲル、朱の獅子の事じゃないの?」
「いえ。本当の彼女らです」
よくわからなかった。とりあえず彼女らに戦う能力など無い。俺は助けを求めるようにシーファーレンを見る。だがシーファーレンは、俺の意図する事と逆の事を言った。
「神託によるものかと」
「あ……聖女の力の?」
「はい」
だがそれを聞いてソフィアが首を振る。
「そんな……聖女様のお力などでは」
「でも、ソフィア様の夢のお導きで成功しています。恐らくは、今回もソフィア様のおっしゃることが正しいかと思われるのです」
「シーファーレン。それって、確信めいたもの?」
「はい。私もそう思うのですわ」
困ってアンナを見るが、アンナも首をかしげて言う。
「聖女。残念ながら、わたしもそう思える。説明は出来ないが、彼女らと離れている今……力が足りていないような気がするんだ」
「アンナまで……」
三人とも確信めいた目で俺を見ている。そしてソフィアはハッキリと言った。
「聖女様もお気づきではありませんか?」
正直わかんない。
「どうだろう?」
「実は私達三人がここまで動いている間に、同じ様な感覚に襲われていたのでございます。力が弱まるような、なにか足りていないような感覚です」
そしてアンナもシーファーレンも頷いた。
「これは、感覚的なものなので伝わらないかもしれません」
「聖女。恐らくは、仲間達を引き連れた方がいい。わたしもそう思う」
信頼する三人にそこまで言われてしまっては、俺も認めざるを得なかった。
「十三の使徒か……でも……」
俺が言いかけると、三人は息を呑んで俺の次の言葉を待つ。
「「「はい」」」
「私はとても危険な事を考えているよ?」
「なんなりと」
「「同じく」」
そこで俺は、重大な決心を告げる。
「東スルデン神国に侵攻しようと思ってる」
「「「……」」」
ほら、やっぱり引いた。だけど、このままじゃ、あのアルカナ共和国の可愛いプーリャが死んじゃう。あんな可愛い子が死ぬなんて、放っておけるはずがないじゃないか。なんとしても、東スルデン神国の足を止めて、守ってやらねばならない。
だって、可愛いから。
「良いと思います。それが聖女様のお決めになった事でしたら」
「そうですね。それがきっと最善の道なのでしょう」
「わたしが死んでも守る。だから好きなようにしろ」
「ソフィア……シーファーレン……アンナ……」
するとソフィアが俺の手を取った。それにシーファーレンとアンナも手を重ねる。
そしてソフィアが言った。
「これが、恐らく世界を救う事になるのだと思います」
「夢のこと?」
「はい」
何故かそう言う事になってるらしい。
そして俺達は話し合いを終え、ルクセンにその旨を伝えに行く。ルクセンも俺達の事を待っていて、どう動くかを知りたいらしかった。
「ルクセン卿」
「お決まりになられましたでしょうかな?」
「はい。我々は東スルデン神国に宣戦布告をします」
「……」
ほら、ドン引きした。
「不服ですか?」
「あーっ! はっ!はっ!はっ!はっ! やりましょうぞ! こんな混とんをもたらした奴バラに鉄槌をくだしてやりましょう!」
「えっ」
「なんですかな? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして?」
「反対ではないのですか?」
「なあに。アルカナの未来あるヴァイネン殿下と、プーリャ王女殿下の顔を思い出しますとな! 居ても立っても居られないのですわい! 孫のウェステートよりも幼い二人の姉弟を守らねば!」
「わかりました。一緒にフォルティス団長に伝えにいってもらっても?」
「もちろんですがな。恐らくは二つ返事かと思われまずぞ!」
そして俺達が第一騎士団長フォルティスの元に行くと、フォルティスも厳つい顔を変えてニコニコと笑って答えた。
「目にものを見せてやりましょう! 聖女様がトリアングルム連合国を説得してくれたおかげで、第五第六騎士団の兵力を使えます。彼らが間もなく到着します。東スルデン神国など敵ではありませんぞ!」
「わかりました。それでは私達は一度、聖女邸に戻り仲間を連れて参ります。それが神託であるとのお告げが出ておりますので」
「分かり申した! それでは、侵攻の準備は我々にお任せを!」
「おねがいします」
どうやらフォルティスもだいぶ、鬱憤が溜まっていたらしい。ここまで小馬鹿にされて、ただでは済まされなかったのだろう。直ぐにフォルティスはマイオールに指示を出し、全軍に通達を出すように伝えていた。俺達は仲間を連れて来るべく聖女邸に飛ぶのだった。




