第373話 帝国国境の防衛ラインへ通達
城塞都市カルアデュールに到着すると、直ぐにミラシオン伯爵が出迎えてくれた。まだ帝国からの進軍などの情報は入って来てはいないようで、トリアングルム連合国に依頼した牽制が役に立っているようだ。
「西は、だいぶきな臭くなっていたのですね」
「そうです」
「情報は回ってきておりましたが、そこまでの詳細は分からなかったものですから」
確かにこの世界にはインターネットなどが無いから、情報が伝わるのは遅い。それに敵に情報を察知されても困るので、重要な情報はそうそう出回らないようになっている。ミラシオンが王宮から受けた指示は、ズーラント帝国からの侵略の気配が無いか探れというもの。
ミラシオンの城塞都市の民も、通常通りの暮らしを続けていて有事という感じはしなかった。この城に勤める使用人達も、通常通りという感じのようだ。俺達は提供された料理を囲んで、迎賓館の食堂で話をしている。一通りの食事が終わって、お茶をすすりながらの話である。
そして俺が言う。
「特効薬ともなる傷薬を持って参りました。魔法付与した傷薬で、かなりの致命傷でも治ると思います。有事の際はお役立ていただけますと何よりです」
「ありがとうございます! お噂は聞き及んでおります。厳重管理で取り扱わせていただきます」
「そうしてください」
俺達の視線の先にはあの傷薬が置いてあり、万が一の際にはかなり役立つはずだ。そして俺はミラシオンに言う。
「それで、墓標に祈りを捧げたいのですが」
「祈りでございますか?」
「内乱で命を落とした、スフォルのお墓に祈りを」
「……それは……ありがとうございます。死んだアイツも喜びますし、家族も聖女様の祈りを捧げられたとあらば誇りに思うでしょう」
「お墓はこの都市に?」
「はい。ウィレースに案内させましょう」
「お願いします」
そう、第三騎士団の謀反から、俺を守るために命を落とした騎士である。男が嫌いとはいえ、自分の為に命を落としたものへの敬意は払うべきだと思う。
そうして食事を終えると、ミラシオンがウィレースを呼んでくれた。ウィレースというのは死んだスフォルの相棒で、騎士団長シュバイスの右腕である。
「これは! 聖女様! よくぞおいでくださいました!」
「久しぶり」
そしてミラシオンが言う。
「スフォルの墓にお連れしてくれ」
「は! アイツも喜びます!!」
「おねがいします」
俺はウィレースに連れられて、ミラシオンの城を出て馬車に乗り込んだ。もちろんソフィアもアンナもシーファーレンも一緒に。あの時はこんなに仲間もおらず、自分の能力も低かったおかげで死ななくてもいい奴を死なせてしまった。
郊外の教会そばにある墓地へとやってきて、俺達は馬車を下りる。そしてウィレースが真っすぐに歩いて行くと、ある墓の前に立った。
「ここに眠っております」
「そう……」
そして俺が祈りをささげ始めると、皆が目の前に手を組んで目をつぶる。一通りの祈りの言葉を捧げ、魔法の杖をかざして聖魔法を降り注いだ。一帯が清められ、キラキラと空気中に光の粒子が舞った。
「ではあの時、命を落とした騎士達の墓を」
「は!」
次々に祈りを捧げ、聖魔法を降り注いだ。流石に俺の為に命を落としたようなもんなので、心からご冥福を祈るとしよう。
「ありがとうございました! これで報われます」
「なかなか、機会がありませんでしたからね」
軽くウィレースの目が潤んでいた。墓を後にして、俺は次の予定の地へと向かう。それは最前線の砦で、帝国との境にある駐屯地である。もしかすると帝国の侵攻があるかもしれないため、その心構えを伝えるようルクスエリムから申しつかっているのだ。
面倒だけど伝えにいかなきゃ。
マグノリアがヒッポと一緒にやって来たので、俺はウィレースに先に行く事を伝えた。
「は! 前線にはシュバイス騎士団長と、魔導士長のソキウス様がいらっしゃいます」
「ありがとう。有事の際はよろしく」
「は!」
そして俺達の馬車が大空高く舞い上がり、一気に帝国との国境に向かって飛んだ。直ぐに到着し、俺達が馬車から降りると、驚いた騎士達が槍を構えて待ち構えた。するとそこに、シュバイス騎士団長がやってきて部下に言う。
「槍を下ろせ! あれは聖女様の神獣である!」
いや、ちがうけど。アンナが捕まえて来た魔獣だけど。
「「「「は!」」」」
俺が直ぐにシュバイスに挨拶をした。
「お久しぶりです」
「お久しゅうございます。此度はお仲間といらっしゃったのですね」
「そうです」
顔の傷が厳つくて、短髪がその精悍さに拍車をかけている。すると後ろの方から慌てて、魔導士のソキウスが走って来た。黒髪の七三で眼鏡をかけているが、顔は日本人ではない。
「これは聖女様!」
「お元気そうで」
「は、何とかやっております」
そして俺はシュバイスに告げる。
「陛下より、兵士達に伝達を申し使っております」
「は! それでは砦に!」
「はい」
俺達がぞろぞろと、砦に入って行き、シュバイスが幹部連中を集めた。
「では」
皆が俺の前に座り、今起きている東スルデン神国とズーラント帝国の不穏な動きを伝えた。どちらにも邪神ネメシスの息がかかっている者がおり、そいつらが原因で周辺国家を脅かしている事を伝える。
そしてシュバイスが言った。
「では、われわれが気を付けるべきは、ズーラント帝国のガジとやらですな」
「そうですが。我々も顔を知りません」
「わかりました。帝国に忍ばせている密偵に調べさせてみましょう」
「お願いします。恐らくは中枢に近いところにいるかと思います」
「は!」
騎士団の面々の表情も引き締まって来る。これで北と西の国境については、準備は出来たというところだ。ヒストリア一国で、東スルデン神国とズーラント帝国を相手にする事は出来ない。俺達がやるべきは、東スルデン神国とズーラント帝国の分断である。
「アルカナ共和国が弱体化しているというのが辛い所ですな」
「安定までは時間がかかるでしょう。万が一ズーラント帝国が動いた場合は、トリアングルム連合国とこちらの騎士団の共闘もありえますので、その心づもりをお願いします」
「「「「は!」」」」
騎士団との話は終わった。これで万が一、ズーラント帝国が動いたとしても、トリアングルム連合国と挟み撃ちにする事が出来るだろう。根回しをしておけば、内乱の時のような後手に回る事はない。
そして俺達は、アルカナ共和国に向かっている敵の一団を追う事になる。まずはヴィレスタンに戻り、密偵の話を聞いて動きを決めねばならななかった。
「では。引き続き、我が国の防衛ラインをお任せいたします」
「は!」
そして俺達は話し合いを終え、城塞都市ミラシオンのところへ戻り通達したことを伝えた。
「いざという時はお任せください」
ミラシオンに俺が答える。
「伯爵。頼りにしています」
一日だけの滞在となったが、夜のうちにヴィレスタン領に戻る必要があった。俺達はさっさとヒッポの馬車の乗って、夕日の空へと飛び立つのだった。




