第371話 賢者の弟子から薬を買う
トリアングルム連合国への軍事演習の依頼を取り付けた俺達は、帰りの足で薬師クラティナのところに立ち寄った。シーファーレンに会えて凄く喜んでいるようで、元気そうだった。
目元が隠れる水色の前髪の合間から見える、瞳が愛らしい。何故クラティナのところに来たかというと、クラティナの傷薬をもらい受ける為。俺とシーファーレンで魔法を付与し、究極の傷薬として持ち帰るためだ。
「いっぱいできてます!」
クラティナの言葉に俺が答える。
「なら買えるだけ買いとるよ」
「いえ、お金なんていりません。なんか評判が評判をよんでよく売れてるんです!」
「だめ。お金は払う」
そう言って俺は勝手に、金貨の入った一袋をクラティナに渡す。
「こ、こんなにいっぱいいただけないです!」
「こっちはそれ以上の恩恵を受けるんだからいいんだよ」
「いりません」
だがそこでシーファーレンがクラティナに言う。
「クラティナ、人生何処でどうなるか分からないのよ。いただける時にもらっておきなさい」
「もらいます!」
シーファーレンの言う事はあっさり聞くんだ。念のため忠告はしておこう。
「金周りが良すぎると、目をつけられるといけないから、こそこそ使うようにした方が良いかも。薬の仕入れとかなら、こちらから大きな商人を向かわせるし」
「薬草なら自分で採りに行きます」
するとシーファーレンがいう。
「あなたは薬作りと、街の人の世話で大変でしょう。お言葉に甘えると良いわ」
「そうします!」
もう、シーファーレンに言ってもらった方が良さそうだ。それから俺達は、クラティナの倉庫から木箱を運び出し外へ運び出して積み上げていく。俺達もゆっくりはしていられないので、とりあえずクラティナにはまた来ると言った。
ひしっ! とシーファーレンに抱きつき、クラティナが言う。
「お元気で……」
シーファーレンが苦笑いしつつ言う。
「また近いうち薬を取りに来るわ。だがらまた会えるわよ」
それでもひしとしがみついている。しばらくそうして居ると、ソフィアがにこやかに言った。
「クラティナさん。そうやって真っすぐに、気持ちを伝えられるというのは良いものですね」
えっ。いま、ソフィアが俺をチラリと見た! じゃ、じゃあ言おう! 今言おう!
「私も、そう思う! 私は! ソフィ」
コンコン! ドアがノックされた。入り口から、腰の曲がった婆さんがゆっくりと入ってくる。
「クラちゃん。お薬を頂戴」
「ばあさま! 今日は機嫌がいいんだ。ただであげるよ!」
すると腰の曲がった婆さんが言う。
「だめだよお。あんたの暮らしもあるんだからねえ」
そう言ってしっかりと銅貨を三枚出す。するとクラティナは、それを受け取りつつ言う。
「じゃあ、これも持って行きな!」
そう言って床に置いてある、麻袋を拾って渡す。
「お、重いねえ」
「お茶の葉が入ってるからね!」
そこで俺がお婆さんに言った。
「丁度いい。どうぞそこにお座りください」
「ん? あんたはいったい?」
するとクラティナが言う。
「いいからいいから! 言う事聞いて!」
おばあさんは、木の箱で出来た椅子に座り杖を股の間に立ててこちらを見る。優しそうな笑い皺があるが、ちょっと緊張気味の表情を浮かべていた。俺はおばあさんの腰に手を当て、蘇生魔法を発動させる。
腰が、ぱあ! と輝いて光が収まる。
「お、おや!」
次に回復魔法をかける。
「メギスヒール」
「おおおおおおお!」
そして俺はおばあさんを覗き込んで、そっと言う。
「立ってみて」
「あ、ああ」
次の瞬間おばあさんが、しゃっきりと真っすぐに立った。杖を持たずに、自分ですくっと。
「お、おお! おおお!」
そこで俺が言う。
「おばあさん。私達はもう行かなきゃいけない。だから、ここで直してもらった事は誰にも秘密」
「わかったのじゃ! 神のお力じゃ! こりゃすごい!」
そしてクラティナから袋を渡されると、ばあさんは軽々と持ち上げた。
「ありがとうございます! 神の思し召しじゃ」
「あー、よかったです」
そしてクラティナも言う。
「よかったね!」
「ああ。ありがとうねえ」
そうしてシーファーレンがクラティナに言う。
「では、また来るわ。元気にしててね」
「はい!」
俺達はクラティナと、どこぞのおばあさんに見送られながら、建物を出てシーファーレンが笛を吹く。するとどこからともなく、ヒッポが飛んできて敷地に降りた。
「うわああああああ」
おばあちゃんが腰を抜かす。そこでクラティナがおばあさんに言う。
「大丈夫だよ。この人のお使い様だから!」
「お使い様。こ、このお方は神様かなにかかい?」
とんでもねえ、あたしゃ聖女だよ。
「そんな大したものではありません。では、クラティナまたね」
「はい」
俺達はヒッポの馬車に乗り込んで、クラティナと婆さんに手を振って飛び立った。足元にはクラティナの薬の箱が詰まれ、俺達はクラティナについて話し合う。
「彼女もいつか一緒に暮らせたらいいなあ」
シーファーレンがニッコリ笑って言う。
「聖女様がそう望めばそうなりますとも」
「そっか」
それから俺達は、飛ぶ馬車の中で傷薬にせっせと魔法を付与していく。ヒストリアの王城に辿り着く頃には、全ての薬が仕上がっていた。
バレンティアと近衛兵が俺達を出迎えたので、一箱の薬を騎士に渡す。
「いかがでしたか? トリアングルムは」
「いいお返事がもらえました。陛下にお目通りを」
「は!」
真っすぐにルクスエリムのところに行き、トリアングルムとの約束について伝える。それからあの傷薬を近衛に預けた事、これからヴィレスタンに持っていくことを告げる。
「分かったのじゃ。ヴィレスタンにいる密偵に接触してほしいのじゃ」
「かしこまりました」
あの、どことなく怖い人ね。てか、じゃあ戻ったらあっちからくるかな。
「では、急ぎますので」
「うむ。よろしく頼む」
そうして俺達は王城を後にし、最前線のヴィレスタンに向けて出発するのだった。




