第370話 隣国への軍事演習依頼
王都に帰りルクスエリム王に説明をしたところ、おおむね俺達の作戦に乗って来た。王の許可を得たので、俺達はすぐにトリアングルム連合国へと飛ぶ事になる。
俺達がトリアングルム連合国王城の門前に降りると、門番が慌てて走り寄って来た。
「なんだお前たち……、こっ! これは! 聖女様!」
「どうも」
トリアングルムに一緒に来たのは、俺とアンナ、ソフィア、シーファーレン、リンクシル、マグノリアの六人だ。ヒッポの馬車で飛んで真っすぐに来たので、二時間くらいしかかかっていない。
「聞いておりませんでした!」
「火急の要件にございます。約束はございません」
「ささ! すぐにどうぞ!」
「いいのですか?」
「聖女様がいらっしゃる時は、いついかなる時でも、すぐに通せと言われております!」
「そうですか」
そりゃ助かる。よっぽど国を救ってもらったのがありがたかったらしい。騎士達は魔獣ヒポグリフのヒッポにおっかなびっくりだが、ヒッポは悠々と高貴な馬のように城内をあるいた。
そして兵士が玄関にいる騎士に話をすると、直ぐに城の中に飛び込んでいく。待つ事十分少々で、直ぐに伝令が走って戻って来る。
「それでは! どうぞ城内へお入りください!」
「はい。二人ほどを魔獣の世話で残しますがよろしい?」
「構いません!」
「じゃあ。マグノリアとリンクシル、ちょっとお話して来るから待っててね」
「「はい」」
そうして俺達四人は、謁見の間に連れていかれた。騎士がドアを開いて俺達が入って行く。
すると……。
なんと王様とメルキン王子とカイト王子が、跪いて待っていた。これでは立場が逆である。
「あ、なんと。どうか頭をお上げください」
「聖女様! ご機嫌麗しゅうございます!」
ちょっとやりにくい。
「とりあえず座ってお話をいたしませんか?」
「「「は!」」」
悪ガキ、カイトまで畏まってるし。
席に座ると一斉に飲み物やスイーツが飛び出て来た。それらが俺達の前に並び、使用人たちはさっさと部屋を出て行く。俺は王に対してお礼を言う。
「突然の来訪だというのに、手厚いおもてなしを頂き感謝いたします」
「いえ!」
「壊れたお城は直ったのですね」
「体裁を整えただけでございます。まだ全て元通りという訳にはまいりません」
「あれだけの損壊を出して、ここまで戻されたのですから素晴らしいです」
「ありがとうございます! して、今回はどのようなご用件でしたでしょうか?」
豪華なお菓子を前にしつつ、俺は東スルデン神国との一件を話して聞かせる。
「お話しいただきありがとうございます。話は若干耳に挟んでおりましたが、東スルデン神国はそんな卑劣な真似をしているのですか」
そこで俺は、ネメシスの脅威を知ってる彼らに単刀直入に言う。
「東スルデン神国全体なのか、一部がそんな事をしているのかは分からないんです。ただ一つ言える確かな事は……」
「はい」
「邪神ネメシスの関与が確認できました」
ガタン!
三人ともが席を立ち、驚いた顔をしている。
「なんですと!」
「あれが!」
「また出た……」
「はい。実際は、我々がその息のかかったものを殺し、その仲間がまだいたという事ですが」
「そうなのですか……」
「残念ながら、それは逃がしてしまいました」
「残念でございます」
「ですが、その名前を突き止めたのです」
「お聞かせ願えますか?」
「一人は東スルデン神国のデヒド。そいつは国家の騎士団の中枢に入り込んでいました」
「なんと。もう一人は?」
「ズーラント帝国のガジという者らしいです。こちらはまだ顔を見てはいません」
「厄介ですな」
「はい。そこでお願いがあって、こうしてまいったのでござます」
「共闘? 一緒に攻め入りますか?」
だが俺は首を振る。
「いいえ。その必要ありません。ただ一つ、貴国とズーラント帝国の国境付近で、大規模軍事演習を行ってほしいのです」
するとメルキンがにやりと笑って言う。
「敵のお株を奪う訳ですな? ズーラント帝国が良くやる手口だ」
「そう。威嚇の為に、国境沿いで軍事演習をやってほしいのです」
「それでいいのですか? 共同で攻め込むのも、辞さない構えではございますが?」
「いえ。それは、いまではありません」
「わかりました。陛下、どうしましょうか?」
「メルキンよ! 派手にやってやろうではないか! 国内軍事演習であれば、なんと言う事は無い!」
「は!」
良かった。一緒に攻め入る事よりもハードルは低いので、こなしてくれそうだ。俺達は具体的な日付と期間を伝えて、それの了承をもらう事が出来た。
「よかったです。快く受け入れて下さって」
「国を救った英雄の願いとあらば、いくらでも答えましょうぞ」
「非常にありがたいです。話は以上でございます。また有事の際には御相談をお願いできますか?」
「いつでも大歓迎でございますぞ!」
俺達は立って礼をする。
すると王は近くに立っている使用人に耳打ちをした。しばらくすると、戻ってきて俺の前に輝く透明なマントが置かれた。
「これは?」
「ドライアドの作りたもうたマントにございます」
するとシーファーレンが目を丸くする。
「な、なんと! ドライアド!」
えっ? なにそれ、凄いの?
ポカンとしているとシーファーレンが言う。
「会うだけでも一生に一度、ほとんど会える人などいないという種族。そのドライアドの作ったマントなれば、国宝級な代物ではないですか!」
そうなんだ。
「はい。それは貴重ではござます。ですが、これは聖女様にこそふさわしい」
ドライアドのマントが、不思議な光を放っているようにも見える。
「そんな貴重なものを……」
「着てみて下され!」
俺がシーファーレンを見る。
「よろしいのでは?」
俺はそれを手に取り着てみる。これはどんな効果があるんだろう?
「やはりお美しい! お似合いになります!」
「これは、どのような効果が?」
「まず火を防ぎます。ドライアドは火を嫌いますからな。火から身を守る事が出来るのです」
「なるほど」
「あと着ていれば、生命力の回復に努めます」
「温かいのはそのためですか?」
「そうです」
要するに、火耐性と自動回復のマントという訳か。これを着ていれば、自分にかける結界と回復魔法の回数が減らせるという訳だ。
「このような貴重なものを……」
「いえ。どうせ持っていても宝の持ち腐れ。実用なさってくださいませ!」
「わかりました。それでは、いざという時に使わせていただきます」
「は!」
そして話が一通り終わると、王がカイトを見ながら言った。
「聖女様! 恐れ入ります」
「なんでしょう?」
「実は、カイトが伴侶を娶ったのでございます!」
「それはおめでとうございます!」
「何卒、若い二人に祝福の加護を!」
まあ、聖魔法かけるだけだけど、それで良ければ。
「わかりました」
するとカイトが言う。
「妻を連れてきます」
「はい」
カイトが出て行き、俺達は目を見合わせた。パワハラセクハラの彼が、いきなり結婚とは驚いた。まだガキかと思っていたら、そんな堅実な一面を見せるようになったか……。
で、扉を開いて、俺達はもっと驚いた。
「メリールー!」
全員が立ち上がる。不遇の薬師の女性だった。
「聖女様。お久しゅうございます!」
「久しぶり! 元気そうだね!」
するとカイトが言う。
「僕の妻です」
うわあ! ぶったまげ。こんな結末になるとは。
王が言う。
「何卒! この二人に加護を!」
二人が俺の前に跪いたので、俺が二人に聖魔法をかけてやった。まあ一応、女神フォルトゥーナの影響は出るはずだ。
「「ありがとうございます!」」
「生涯お幸せにならんことを」
「「はい」」
トリアングルム連合国は、これで多分安泰だろう。どちらかというと脳筋のメルキンより、カイトの方が王様には相応しい。今のところはメルキンが、王位継承一位だとは思うけど。メリールーは賢いから、陰でカイトを支えると思う。そして俺が聞く。
「カイト王子。彼女を泣かせたりはしてませんか?」
「はい! 僕は心をいれかえました! もう昔の僕じゃありません」
そして俺はメリールーにも聞いた。
「王子には、大事にされてる?」
「はい。とても大事にしてくださってます」
「そっか! よかった。本当に幸せにね」
「「はい」」
いい知らせが聞けて良かった。俺はトリアングルムへの依頼を取り付けて、王城を後にするのだった。




