第369話 敵を縛るための施策
完全に東スルデン神国の兵は引いたようだが、まだ国境沿いの警戒は続けていた。打って変わって沈黙している状況に、不気味さを感じてしまう。
ルクセンが俺に聞いて来る。
「アルカナ共和国はどうなっているでしょうなあ?」
だよね。
「やはりそこが気になりますね」
「下手をすればですが……」
「はい。東スルデン神国が裏切ったアルカナ共和国へ、矛先を変えた可能性がありますね」
「ですな」
内政が不安定な状態で、東スルデン神国が攻め込んで来たら問題だ。
「フォルティス団長にも話してみましょう」
俺とアンナとルクセンが、駐屯地の屯所へと急ぐ。騎士達の危機感も多少薄まっており、どうやら外で火を焚いて肉料理などをしているようだ。その脇を通り過ぎようとすると、騎士達が一斉に俺に敬礼をしてくる。
うっざ。肉食ってろ。男は嫌い。
そんな事を思いつつ屯所に行くと、フォルティスとレルベンゲルが話をしていた。
「失礼するのじゃ」
ルクセンと俺達が入っていくと、二人が席を立って礼を取る。だが俺はすぐに言った。
「おかけください」
テーブルを囲んで、俺とルクセンが席に座る。
「どうされましたかな? 聖女様」
「この沈黙は非常に気になります。状況から考えても、東スルデン神国はアルカナに向かったのではないでしょうか? 現在、アルカナ共和国は不安定な情勢なのです。そこに東スルデン神国から進軍されれば、かなり苦しい状況になります」
「しかし、それは隣国の話でありましてな。軍事介入する理由にはならんのです」
「分かっております。ですが、共闘した相手でもありますので、このまま知らん顔は出来ないかと」
「むろんそれは分かりますがな。アルカナに行くには、東スルデン神国かズーラント帝国を通らねばなりません。このような状況ですから、すぐさま戦争に突入してしまいます。正式に救援要請などをもらえれば話は変わりますがね」
このヒストリア王国に向けられていた矛先を変えて、東スルデン神国とズーラント帝国が組んで、アルカナ共和国に行く可能性がある。そうなってしまえば終わりだ。
「密偵からはなんと?」
「まだ連絡はありません」
「そうですか」
「かといって、聖女様は行ってはなりませんぞ。それは流石に国王が許しません」
「そうですか」
だとプーリャが死んじゃうかもしれない。
どうしよう……知らなかったらそれで済んだ事なのに、今は可愛いプーリャを知ってしまった。放っておくなんて出来ない。
うーん。
「ちょっと話し合いをしてきます」
「動かれる前に、必ず言ってくださいよ!」
フォルティスが釘を刺してくる。
「まずは動きません。ご安心を」
そして俺とアンナは屯所を出て、ルクセンとも別れる。
「ちょっと賢者と話してきます」
「わかったのじゃ」
困った時のシーファーレン頼み。他国の事情を良く知っているので、何かアイデアがあるかもしれない。ヴィレスタン城に行くと、仲間達が集まって来た。ソフィアが心配そうに俺に言う。
「動かれるのですか?」
「動かないように、釘を刺された」
「あまり危険な真似は、おやめいただけますようお願いします」
「わかってるよソフィア。シーファーレンと皆を集めて」
ああ…大好き。俺と結婚してほしい。
「はい」
仲間達を会議室に集めて、早速アイデア出しをして見る事にする。俺が現状の問題点を列挙すると、早速シーファーレンが言って来た。
「情報操作をしましょう。そして圧力をかけるように王に話を」
「どういう事?」
「既に密偵がズーラント帝国にも東スルデン神国にも潜入しています。それらを使って、不正確な情報を流布する事を進言します。今回の事で腹に据えた我が国が、軍事進攻をすることを決定したような情報です。そうすれば、不用意に軍事力をアルカナに向ける事が出来ません」
「なるほどね」
流石はシーファーレン。賢者の異名は伊達じゃない。そしてもう一つ圧力について聞いた。
「圧力はどうやって?」
「ヒストリアとアルカナの軍事同盟が、トリアングルム連合国に支持されているという情報です。ズーラント帝国や東スルデン神国が攻撃を行えば、多国間戦争に発展する可能性をちらつかせるのです」
「騙せるかな?」
「そこで聖女様の出番です。トリアングルム連合国に足を運び、小さな軍事行動をとるように依頼してください。ズーラント帝国との国境付近に僅かでもいいので、兵団を進軍させるのです」
「なるほど!」
凄い。やっぱり最高の軍師だった。仲間達も自分達が全く思いつか居ない事を言うシーファーレンに、うんうんと頷くだけだった。それから俺達は話をまとめて、再びフォルティスの元に報告に行く。
一通り話をして、フォルティスが感心している。そして一つ質問して来た。
「トリアングルム連合国は動いてくれますか?」
「トリアングルムを救った私の言う事はある程度。それにそれほど大した事はしてもらいません」
「なるほど。あとは、密偵を使って情報を撒けばいい訳ですね」
「直ぐに陛下の了承を取り付けて、トリアングルム連合国へ飛びます」
「いい考えです」
「ここからアルカナ共和国まで、東スルデン神国が兵を差し向けるとしたら何日かかるでしょう?」
「一週間ほどでしょうか?」
「では三日で全ての段取りをつけます」
「は! まさに神速ですな」
ヒッポがいるからできる事だけどね。
「では」
俺はまた、ヴィレスタン城に戻り、まずは仲間を聖女邸に連れていくことを告げる。
「ようやく我が家に帰れるよ! 一旦そこで体制を整えて、動く事にする」
「「「「「はい!」」」」」」
するとウェステートが寂しそうに俺に聞いて来る。
「聖女様! 私も連れて行ってくださいまし!」
「えっと、それはお父さんの……」
すると父親の、シベリオルのおっさんが出てきて言う。
「聖女様。私からもお願いいたします! 母親の弔いが出来た事の感謝もあり、この子もお役に立ちたいと申しております!」
それを聞いたソフィアが苦笑いして言う。
「私のお父様とは大違いです。貴族としてとても素晴らしいお心がけ」
「は!」
「じゃあ、ウェステートも行こう」
「はい」
俺は仲間達に加え、ウェステートも連れて王都へ戻る事を決めたのだった。




