第362話 戻って来た騎士団と犯罪人の受け渡し
出兵していたアルカナ兵士の第一陣が戻り、王城前の広場に集められていた。ここに集まっているのは、王に取って代わった公爵に命ぜられて出兵している人達。暫定の王である公爵に命ぜられたのだから従うよりほかはなく、渋々出て行った人達という事になる。
そしてバルコニーには縛られた公爵がおり、近衛が囲みヴァイネンとプーリャが立っている。
王子のヴァイネンが、あらかじめ決められたことを話す。
「兵よ! よくぞ戻ってきてくれた! 既に逆賊は捕らえられ、首謀者である公爵は罪を認めて投降した。父と母を殺した逆賊は許せないが、命ぜられて出兵した君らには罪がない。だが改めて聞いておきたい! ここに反逆の意思があるものはいるか!」
おお、若いけどそこそこ威厳があるじゃないか。生意気だけど、こう言う所では役に立つ。
誰も手を挙げなかった。
「父は偉大な人格者であった! 私は父の遺志を継いで、王位を継承するつもりだ! その事に異論がある者はいるか!」
すると兵士の一番前にいる、筋肉隆々の男が言う。
「ヴァイネン殿下! 我々は不本意であったとはいえ、逆賊である公爵の命を聞いて出兵いたしました。その我々を許し、また王の剣として使ってくださるのでございますか?」
「第一騎士団長デイルよ! むしろ私が聞きたい! 騎士団はこれからも国の為に戦ってくれるか!」
「もちろんでございます! 新たな王よ!」
「「「「「わぁぁぁぁぁ!」」」」」」
歓声が上がり騎士達が剣をあげる。
近衛騎士のヴェールユが、王子に言う。
「では殿下。話はここまでで」
「ああ」
ヴァイネンがこれ以上台本を覚えられなかったため、とりあえずは騎士達が納得したところで下がらせる。そしてプーリャが前に出て話をする。
「忠実なる騎士よ。逆賊につけ入るすきを与えてしまった王宮を許してください。そのおかげで不要な戦争を仕掛けてしまいました。ですが、ここに友好の証としてヒストリア王国より、公爵令嬢のソフィア様達がおいでになっております。ヒストリア王国に対して刃を向けようとした事を、国へ帰り誤解だと伝えてくださるようです」
シーンとする。いきなり戦争を仕掛けようとしていた国の公爵令嬢が出て来て、あっけに取られてしまったようだ。
「ソフィア様! 是非騎士達にお話を!」
俺が前に出て言う。
「皆様! 初めまして! ヒストリア王国より友好の証として参りました。公爵令嬢のソフィアと申します! 皆様はヒストリアについて、あらぬ誤解を植え付けられているようです。それは聖女という存在が、隣国に牙をむくと言った噂です。それこそ誤解でございます! 聖女はそういう存在ではございません! 人々を愛し、博愛主義者なのです」
女に対して、だけだけど。
そして続ける。
「あのズーラント帝国も、聖女との争いで兵を引きました! ですがヒストリア王国は、ズーラントに攻め入ろうとはしておりません! かの国も、本意ではない事が分かったからです。ですので皆様! 剣を納めていただき、以前のように友好を結ぼうではありませんか!」
すると、デイル騎士団長が言う。
「なぜ公爵本人ではなく、令嬢がいらっしゃってるのですか?」
だが俺はそこで、チラリとルクセンを見た。ルクセンが前に出てきて言う。
「我は、ヒストリア王国国境に居を構える、ルクセン・バール・ヴィレスタンである!」
「「「「「「おおおおおお!」」」」」」
「知っておいでの御方もいらっしゃるようじゃのう」
「ヒストリアのルクセン様と言えば、武の将軍として名高い。僭越ながら、以前お見受けしたことが御座います!」
「いや。それは昔の話じゃ。今は辺境伯として領地を任せれておるのじゃ。内情を知れば、戦争などする必要は無いと分かった。貴国とは元通りの国交を結ぶよう、ヒストリア王へ伝えようと思っておる」
そしてプーリャが前に出た。
「どうでしょう。こうして危険を顧みず遠路はるばる来ていただいたのです。私達はそれに応える必要があるのではないでしょうか?」
王女の言葉に、皆が深く頷いた。
そこで騎士団長のデイルが言う。
「ですが、既に東スルデン神国に入り込んでいる騎士団がおります。彼らを戻らせませんと、東スルデンの国内に孤立してしまいます」
「分かっています。それをこれから団長とお話をしようと思っています」
「わかりました」
「そして自ら逆賊に与した騎士の処分についても」
「は!」
「まずは市中の治安の為に働いてください」
「は!」
市中にいる裏切者たちの逮捕やら何やらで、数日はかかりそうだ。
そしてプーリャは非情な決断をする。
「手始めに…公爵の処刑の日取りを取り決めます。市民を集めての公開処刑となるでしょう」
「は! 速やかに手筈を整えます!」
こうして騎士団の受け入れが終わった。そしてプーリャがルクセンと俺にお礼を言う。
「ルクセン様! ソフィア様! 此度は本当にありがとうございました。騎士団も戻り、これで王宮の復活を遂げられそうです」
「では、こちらの話し合いをいたしましょう」
「はい」
皆が謁見の間に集まり、足無蜥蜴の話し合いになる。既にその話し合いはおおむね決まっていて、ルクセンは犯人としてドペルの受け渡しを要求した。
プーリャが答える。
「もちろん問題ございません。それにより、アルカナ共和国の疑いが晴れるのであれば、ぜひ連れて行っていただきたい」
「わかりました」
おおよその段取りが付いたので、俺達は国に戻る事になる。その足で地下牢へと行き、闇魔法で落ちているドペルを受け取りにきた。
プーリャが見張りの騎士に言う。
「開けてください」
扉の鍵を開けて、中に入ると縛られたまま転がされているドペルが居た。ずっと飲まず食わずで寝ていたので、かなり衰弱しているようだった。俺がシーファーレンに言う。
「起こして」
「はい」
闇魔法を解除すると、ドペルが薄っすらと目を開ける。
「な、牢屋?」
するとルクセンが、しゃがみ込んでドペルを睨む。
「久しいのう、ドペル」
「じ、ジジイ」
それを聞いてレルベンゲルが言う。
「辺境伯に対して不遜であるぞ!」
「お、なんだ。レルベンゲルじゃねえか、お前随分出世したんじゃねえのか?」
「貴様…誰に向かって……」
だが俺はそれを止める。
「どうも」
「ひっ!」
ソフィアの俺を見たドペルが、あからさまに怯えている。
「よくウェステートをさらってくれたね」
「ば、バケモン!」
ドペルがそう言うと、アンナが剣を尻に突き刺した。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
「あらら。そんな状態でも生意気な口を利くもんだから、うちの剣士が刺しちゃったみたい」
「いてえ! いてええ!」
「そんなに叫ぶと、次は腹を刺されるかもよ」
「き、貴様……。見た事あるぞ……公爵の娘だろ」
「あら? 覚えてた?」
「殺せなかったのか……」
「なんだって?」
「何処までもうまくいかねえようだ」
「ま、いいか。とりあえずお前はもう終わりだ」
「くっくっくっくっ! 俺なんか捕まえたって終わらねえよ」
「お前、ネメシスとどんな関係だ」
するとドペルの悪い顔色が、更に悪くなる。
「てめえ…あのお方の名を軽々しく呼ぶな」
「ネメシスの事か?」
「殺すぞ」
ズドッ!
「ぎゃあああああああ!」
あーあ。アンナが腹を刺しちゃった。
俺は慌ててドペルの腹に回復魔法をかける。シュウシュウと音を立てて傷口が埋まり、ドペルは汗だくになりながらも怯えた表情をした。
「エンド。殺しちゃダメかだからね」
「分かってるが、ムカついた」
「わかるけど」
そしてレルベンゲルとヴェールユとネル爺に言う。
「水を飲ませて」
ヴェールユががっしりとドペルを掴み、ネル爺がガッと口を開かせる。するとレルベンゲルが無造作に、開いた口めがけて水をどばどばと流しいれる。
「ごっ! ゴフッ! ごほごほごほ!」
「さあ。もっと飲め」
「や、やめろ」
また口を押さえられて、どばどばと水を飲まされる。
「ゴホゴホゴホ! てめえ! やめろ!」
「まだ足りないようだ」
無理やり口を開かされて水を飲まされ続けた。もう腹がたぽたぽになった頃だろう。
男らがドペルを押さえつけ、俺がドペルの胃袋を力いっぱい蹴りつける。
どぼぉ!
胃袋の中の水と血が口から噴き出て来た。
「さあ答えろ。ネメシスとはどういう関係だ」
口から血をぼたぼたと流しながら言う。
「し、知らねえよ」
「胃袋が破れて答えられない?」
「……」
俺はドペルの胃袋のあたりに手を当てて、回復魔法をかけた。口から流れ落ちてた血が止まる。
「水を飲ませて」
「や、やめろ……」
男らに体を押さえられ、また水をたらふく飲まされた。俺が押さえつけられているドペルの腹を、また思い切り蹴り飛ばす。
「ごぼぇお!」
血液交じりの水がまた大量に出て来た。
「ネメシスとはどういう関係?」
ぼたぼたと口から血を垂らしながら、ドペルが睨みつけて言う。
「殺せ。どうせ話す気はねえ」
俺は胃に手を当てて回復魔法をかけた。流石にヴェールユはちょっと青い顔をしているが、怒り心頭のルクセンとレルベンゲルは無表情だった。
「水を」
同じように水を飲ませて、三回目の蹴りを入れるもドペルは白状しなかった。
また回復魔法をかけて、水を飲ませるが俺はもう蹴りを入れなかった。
「ゼロ。眠らせて」
「はい」
ドペルは闇魔法に包まれて意識を落とす。
「筋金入りじゃな」
「言えないようにされているのかも」
「なるほど」
そして俺はヴェールユに言った。
「これ以上は御見苦しいので、続きはヒストリアに戻ってからにいたします」
「ははは…悪い奴ではあるのでしょうが、コイツの処置を想像すると身震いします」
「ヒストリアとアルカナをこんな風にした一人です。我々よりも、もっと怖い王宮の専門機関に引き渡す事になるでしょう」
「今ので、白状すると思ったのですか?」
「いいえ。憂さ晴らしです。王宮に渡す前に、もう少し痛めつける事にします」
振り向けば、ヴァイネンとプーリャが、また恐ろしいものを見る目で俺を見ていた。俺と行ってもソフィアなので、なんとなく申し訳ない気分になって来る。
だが俺は二人にいう。
「これは必要な事なのです」
「「はい!」」
「粛清するのであれば、こんな事が現場で行われると知っておく必要があります」
「分かっています! ヴァイネン、肝に命じましょう」
「はい」
そう。俺は、まだあまり覚悟の決まっていない二人に、今の事を見せつけたのだ。もちろんウェステートをさらった本人だから、恨みが八割がたあるけど。
縛られたドペルをレルベンゲルが担ぎ上げ俺達は牢を出る。その時ヴェールユが俺達に聞いて来た。
「他の足無蜥蜴はどうしましょう?」
「お好きになさってください。雑魚には用はありません」
「わかりました」
王城を抜け出して庭に行くと、ヒッポに大型の馬車が取り付けられていた。プーリャに頼んで大型の馬車を用意してもらっていたのである。それに仲間達と朱の獅子が乗り込んだ。縛られて気を失っているドペルも放り込み、俺が振り向く。
ヴァイネンとプーリャ、そしてヴェールユと護衛の騎士がいる。
「私達は国に帰ります。我が国と連携をとりつつ、終息させるようにしましょう」
「はい! ソフィア様もお元気で!」
「プーリャも…ヴァイネン殿下も」
二人が頭を下げた。俺とアンナが馬車に乗りこむと、ヒッポが大きく羽ばたく。
「では、また近いうちにお会いしましょう」
「「はい」」
一気に上空に舞い上がり、ぐんぐんと王都が小さくなっていく。
「アルカナの内情が知れて良かった」
「ですなあ。聖女様…また国の危機を救われましたな」
そう言われてみればそうか。ウェステートを取り戻しに来ただけだったが、結果は内乱を納めて戦争の取り消しが出来そうだった。そして俺はウェステートの隣りに座って言う。
「良かったねえ。本当に何もされてない?
「はい。少し触られたくらいで、特に何もされませんでした」
「あらら。それは怖かったねえ。とにかく早くお家に帰って、お風呂に入った方が良い」
「はい」
俺はウェステートをグッと抱き寄せて、国に帰るまでずっと頭を撫で続けたのだった。




