第357話 聞き取り捜査
ヴェールユと近衛騎士団らは、公爵から家族を切り離し囲んで尋問を始めた。公爵はかなり委縮してしまっており、話が出来る状態ではなかったが、次第に口を割り始める。
「最初に接触して来たのが、蜥蜴の入れ墨の男で間違いないのですね?」
「そうだ。アイツが話を持ち掛けて来た」
ヴェールユは俺達を見る。もちろん俺達が足無蜥蜴の話をしていたからで、詳細を知らないヴェールユが、俺達に意見を求めているのだった。そこでレルベンゲルが言う。
「アイツは突然騎士団で頭角を現し、一気に昇進して副団長まで昇り詰めていました。そして、その辺りから第四騎士団が狂い始めたのだと思います。恐らくはここでも暗躍し、人を腐らせていったのではないでしょうか」
「なるほどです」
俺達のヒストリア王国では、邪神ネメシスが貴族達を狂わせ内乱が始まったが、ここでは足無蜥蜴のボスと目される、ドペルが話の焦点になっている。
そこで俺が公爵に尋ねた。
「邪神ネメシス。この名を聞いた事はありませんか?」
「知らない。ただ俺はあの男から、本当ならお前が王だと言われていただけだ」
「本当なら?」
「誰かに人生を変えられて、公爵に留まっているのだといったのだ」
「誰に?」
「分からない」
アンナが言う。
「嘘ではなさそうだ」
「なるほど」
ヒストリア王国でのやり口と、アルカナ共和国でのやり口が酷似している。しかもこちらの方が進行度合いが深く、下手をすればヒストリア王国も、この国のようになっていたんじゃないかと思えた。
そして俺はルクセンに言った。
「無関係では無いような気がします」
「邪神とドペルか……」
「はい」
とはいえドペルを逃がしてしまっている以上、その真意を探る事は出来ない。今はそれよりも勃発しそうな戦争を止める方が先で、もたもたしていればルクスエリムが進軍させかねない。
「なぜ東スルデン神国も巻き込まれているのでしょう?」
「……」
どうやら公爵はこの事に一枚かんでいるようだ。
ヴェールユが言う。
「答えろ!」
怯えながら公爵が言う。
「蜥蜴の入れ墨の男が、隣国の王に話を持ち掛けろと言った。ヒストリア王国が東スルデン神国に攻め入って来る可能性があると、それに値する力を持った聖女という者が誕生したと」
「それを信じた?」
「最初は半信半疑、だが入れ墨の男は既にズーラント帝国にも手を回しているから、結託してこちらから攻め入るようにすると言っていた」
「いつ信じるようになったのです?」
「それからほどなくして、なんと聖女がズーラント帝国を追い払い、より有利な条件で和解させたとの情報が入った。その事を聞いた後で、入れ墨の男は私に言ったのだ。お前が信じずにボケっとしていれば、ヒストリアは次に東スルデン神国に進軍して来ると。そうなれば、その次の標的はこのアルカナ共和国に及ぶと」
「それで」
「私は王にその事を告げた。だが王は信じずに、そんな事は無いヒストリア共和国は同盟国なのだから、アルカナに進軍するこはあり得ないと言った」
「その通りだったと思いますが?」
「私はそうは思わなかった。この王の下ではアルカナ共和国は、ヒストリア王国に飲み込まれてしまうだろうと思った。現にあのズーラント帝国を追い払えるような、驚異の力を持った化物がいれば可能だと、入れ墨の男は私に言ったのだ」
「それでこうなったという事ですか?」
「そうだ。やはり私が王であるべきだったのだと、そこで初めて気が付いた」
俺はヴェールユを見る。ヴェールユもどう言って良いか分からないような表情をしていたが、少しして口を開いた。
「ですが謀反を起こし、王と妃を処刑したというのであれば、あなたの罪は重い」
「しょっ! 処刑は反対だったんだ! だが蜥蜴の入れ墨の男が、生かしておけば私に必ず仇を成すと言った。王を生かしておけば、いずれこの国は滅びると言ったんだ」
「それを信じたと……」
「……今となっては、なぜそのような戯言を信じたのか分からなくなってくる。だがその時は、紛れもなく本当の事だと思ったのだ。それに蜥蜴の入れ墨の男は、まるで未来を分かっているかのように次々に起きる出来事を、私に伝えて来たのだからな」
「例えば?」
「聖女が、トリアングルム連合国を巻き込んで、軍事力を増強して攻めて来るのだと言った」
そしてヴェールユが俺達を見る。再び俺が口を開いた。
「確かにトリアングルムはヒストリアを守ると約束をしました。ですがそれは東スルデン神国やアルカナ共和国を攻め入るためではないのです。万が一侵攻された場合は、力を貸すといった意味合いです」
「そうですか」
そこでルクセンが渋い顔で言う。
「どちらの国も、訳の分からない輩に翻弄されたという事ですな。ヒストリアも東スルデン神国も、ズーラント帝国やトリアングルム連合国まで。それに貴国も巻き込まれたという訳じゃ」
ヴェールユが頷いた。そして改めて聞いて来る。
「足無蜥蜴とはどんな組織なのでしょう? そして邪神ネメシスとはいったい……」
そこでミリィの姿をしているシーファーレンが言った。
「邪神ネメシスの本懐は、世界の人間を根絶やしにする事です。それには何をすればいいか? 徹底的に女の人権を無くし、迫害までして男だけの世界にする事。戦争を起こして女を徹底的に殺し、子供を作れる能力を持ったものを、長い年月をかけて根絶やしにする事です」
ここにいる男達がシーファーレンの衝撃的な言葉を、息を呑んで黙って聞いていた。実際のところ俺もその事は知らなかった。
そこで俺がシーファーレンに聞く。
「あの…書物が書き変わった?」
「追加して記されました。それはシーノーブルの遠征が始まった後です」
もしかしたら、俺がことごとくネメシスのやる事を封じ込めたがために、奴の動きが変わったのかもしれない。トリアングルムでのネメシス戦で、一気に女が憎くなってしまったのだろう。
そして俺はヴェールユに言う。
「もう私達が聞きたいことはありません。あとは貴国のやり方で処理なさってください」
「わかりました……」
俺達はその部屋を出て、用意された控室へと移動した。そこで皆が集まり、王子と姫を迎えに行くかを話し合う。出兵した王の兵士を戻した時には、ヴァイネン王子にはいてもらった方が良いだろう。
「今はどうなっているのですかな?」
「マグノリアとウェステート、そして朱の獅子の他のメンバーが守っている。ですがこちらから迎えに行った方が良いでしょうね。ドペルがまたワイバーンを使役して来たら、マグノリアが使役しているヒッポでは太刀打ちできないかもしれない」
「わかりもした」
そうして俺達はヴェールユにその旨を告げ、朱の獅子のロサに連れられて王都を抜け出すのだった。




