第356話 公爵の確保
あらかた都市内にいる騎士達を捕え、庭にゴロゴロと転がした。それからしばらくの間、ヴェールユ達の帰りを待っている。ようやく夕方になって戻ってきて、ヴェールユが俺達に報告して来た。
「恐らくは別荘に逃げ込んでいるようです。敷地内に兵隊がごろごろしていました」
「なるほど。そこにいるのは、ほぼ間違いないでしょう」
「では近衛を連れてまいります!」
「いえ。団長さんと私達だけで十分です」
「わかりました」
「他の皆さんは、捕らえた兵士達を地下牢へと放り込んでいてください」
「「「「「「「は!」」」」」」」
そして俺達はヴェールユに連れられ、市中を走りだす。既に騎士は捕らえたので、市中はスムーズに走る事が出来た。その場所までは結構な距離があり、ようやくヴェールユが大きな屋敷を指さす。
「あそこです!」
「分かりました」
屋敷の前にも騎士達がいたが、アンナが一瞬にして沈黙させる。俺が直ぐに、別荘の空に向けて魔法の雲を浮かべ始めた。見る見るうちに屋敷が黒い雲に覆われ、俺が魔法を放つ。
「ライトニングストーム」
眩しい光と共に、その屋敷が雷に包まれた。
「行こう」
ルクセンとレルベンゲルが門を開き、俺達は悠々と屋敷に入り込んだ。ヴェールユが先を歩き、俺達はその後をついて行く。すると屋敷のベランダに、中から弓を持った奴らが出て来る。
「サンダーボルト」
ピシャッ!
既にこの屋敷内は、俺の魔法のテリトリーになっている。何処にいても、電撃から逃れる事は出来ない。ネル爺とレルベンゲルが、玄関を両側にあけると中に構えている騎士がいた。
既に杖を構えている俺が魔法を放った。
「スプラッシュライトニング!」
ドサドサと倒れる騎士達を踏み越え、俺達が中に入っていく。すると階段の上から、ぞろぞろと騎士が下りて来た。だがアンナとリンクシル、ルクセン、レルベンゲル、ネル爺があっという間にねじ伏せる。今ので騎士は全部らしく、上の廊下には人がいなかった。俺達が一部屋一部屋扉を開けていくと、公爵の嫁と子供達がいた。
「これはどうも。突然のご訪問で失礼します」
「あ、あなた方は!」
「王子の命で、ご主人を探しに参りました」
「あ、ああ……」
「いますね?」
「い、いません!」
そう言って奥さんが立ちふさがるが、アンナがスッと抑える。どうやら奥にも部屋があるようで、俺がそこまで行って扉を開いた。その部屋にはガチガチと震える、中年の貴族が丸まっていた。
ヴェールユが言う。
「公爵様。お迎えにあがりました」
「き、貴様! ヴェールユ! 身分もわきまえずこのような! 次期の王であるぞ!」
「王位継承権は、ヴァイネン王子にあります」
「あのガキ……」
「恐れ入りますが、殿下に向かってその言葉は不敬ではありませんか?」
「くそ、早々に殺しておくべきだった。あれの処刑を早めておくべきだった……」
「残念ながら、殿下も王女も健在でございます。そしてあなたの私兵は全てこちらで捕縛しました。これから殿下が東に伝令を出し、国家騎士団を呼び戻す事になるでしょう」
公爵はガクリと項垂れてしまう。
そしてヴェールユが言った。
「奥方とお子様に、縛られた姿など見せるわけには参りません。速やかにご投降願えますか?」
「くっくっくっ。やはり…こんなことは不可能だったんだ」
「なにを?」
「私が王になるなど、無理な話だったんだ」
「話は王城で聞きましょう」
公爵はガクリと項垂れたまま立ち上がり、俺達に従って歩き出す。嫁と子供のいる部屋に行き、悲しそうな目で家族を見た。
「すまない。おまえ達」
「だ、旦那様!」
すると公爵はヴェールユを振り返って言う。
「この子らは…どうなるだろうか?」
「ヴァイネン殿下が沙汰を決めます。まずは王城へ」
「わかりました」
「お、お父様!」
公爵がしゃがみ込み、二人の子供達がしがみついて来る。嫁も力なくへたり込んで泣きじゃくっていた。子供を抱きしめる公爵を見ながら、嫁が静かに言った。
「全ては…あの男のせい。この人を変えたのは…あの男が現れてから」
「あの男?」
「蜥蜴の入れ墨の男…」
やっぱりドペルが暗躍していたらしい。
足無蜥蜴とやらの組織力なのか、他に何かあるのかは分からない。だが俺はまるで、ヒストリア王国の事件に似ているような気がして寒気がしてくる。
俺がヴェールユに言った。
「ヴェールユ団長。念のために、ご家族も連れて行った方が良いと思われます」
「なぜです?」
「下手をすると証拠隠滅されるかもしれません」
「なるほど。では奥方もお子達も一緒に参りましょう」
「……はい」
そして俺達は、公爵家族を連れて別荘を出る。
「馬車で来るべきだったかも」
「なぜです?」
「襲撃の可能性があります」
周辺を警戒しながら進んで行くと、道向こうから馬車がやって来た。
ヴェールユが言った。
「公爵様。私の後ろへ」
俺達もピリピリしながら見ていたが、馬車を引いている人を見て警戒を解いた。
「大丈夫。味方です」
馬車をひいて来たのは、マロエの姿をしたロサだったのだ。
「良く来てくれたね!」
「こちらに出たと聞きました。お乗りください」
馬車に公爵家をのせ、俺とアンナとシーファーレンが乗り込み、ヴェールユとルクセン達が護衛に付いた。そして馬車は王城に向かって走り出すのだった。




