第350話 下着姿で娼婦の館
俺の合図を見たミリィ(シーファーレン)は魔法の杖を突きだして、窓に向かって撃った。
だがスッと走った光は、ワイバーンに易々と避けられ空中で大きな音をたてて爆発した。
パン!
「ふはは! 何処を狙っている! 無駄な事を! 娘は連れてゆく!」
だが唐突にワイバーンのバランスが崩れた。
「うおっ!」
ドペルもバランスを崩して、そのままワイバーンの背の上からウェステートを抱いたまま落ちてしまった。俺も一緒に窓から飛び出し、体を真っすぐにして落ちていく。
するとドペルとウェステートの下に、マグノリアが乗ったヒッポが現れ、背中にぶつかってバウンドした。その拍子にドペルがウェステートを離し、俺が代わりにウェステートを抱きしめて落下する。
「フライ!」
間一髪でシーファーレンがやってきて、ウェステートと俺の落下をソフトにする。
トスッ。と地面に寝そべり、俺はウェステートを見上げて言った。
「ウェステート。迎えに来たよ」
「ソフィア様!」
ウェステートは俺をソフィアと勘違いして抱きしめて来る。もちろん見た目はソフィアなので、勘違いという訳でもないが。
俺は起き上がりながら、周りを見渡して叫ぶ。
「ドペルは!」
「逃げました」
「くっ」
そこに仲間達が下りて来た。
「ウェステートや!」
見た目がスティーリア(ルクセン)がウェステートに飛びついて、ぎゅっと抱きしめ頬を寄せた。
「えっ…髭?」
するとルクセンがするりと変身ペンダントを取る。
「お、おじいさま!」
ウェステートがルクセンに抱きついた。とにかく良かった。
するとそこに王女プーリャと弟のヴァイネン、騎士のヴェールユがやって来た。
「よかったです! 探し人ですか!」
「おかげで助かった!」
「素晴らしい腕前です」
そして俺が言う。
「では捕らえられている近衛兵を解放しに行きましょう」
「危険では?」
「むしろ今が絶好の機会」
「わかりました」
そこにドスンとワイバーンが落ちて来た。
「うお!」
皆が剣を持って構える。だがワイバーンは何をするでもなく、明後日の方向を見ていた。そちらの方にはヒッポが居て、ヒッポの背中にはマグノリアが乗っていた。
「大型の魔獣を二体使役するのは、限界があります!」
「ワイバーンの使役は解いて良い!」
「はい!」
するとワイバーンがゆっくりとこっちを向いた。
俺が杖を構えるが、ワイバーンは俺達に攻撃を仕掛ける事無く飛び立った。
「えっ」
バサバサと羽ばたいて、遠くへと行ってしまった。
「あの子の使役を解除しました。自然に帰ります!」
「わかった! 助かったよ!」
「いえ!」
「ウェステートを連れてロサのところに行って!」
「はい!」
ヒッポが下りてウェステートを背中に乗せ、そのまま飛び立って行った。
あっけに取られていたプーリャが言う。
「巨大な魔獣を使役しておられるのですか?」
「そうです。そして敵にもその力のある者がいるようです」
「さっきのワイバーン…」
「いまはその事よりも、近衛の救出を」
「はい!」
そしてヴェールユが立ち上がって言う。
「こちらです!」
俺達はヴェールユの後ろについて、王城の敷地を走っていく。だが敷地内には騎士達がうろついており、どうやら城内で起きた騒ぎに気が付いたらしい。
「迂回しましょう」
場内を知り尽くしているプーリャとヴァイネンが走り出し、植込みの裏に隠れながら迂回していく。するとようやく兵舎が見えて来た。
「あそこに閉じ込められているはずです」
俺はアンナと目配せをして言う。
「彼女が一気に走り抜けて、鍵を壊します。騎士様が行って近衛に接触してください」
「わかりました!」
アンナが猛スピードで兵舎に走り込み、ドアにかけてある閂をはずした。ヴェールユがそのドアを開けて、中に向かって叫ぶ。
「私だ! ヴェールユだ!」
「団長?」
「そうだ」
すると中から肌着を着た男が顔を出した。
「本当だ! みんな! 団長が来たぞ!」
すると中から、肌着を着た男らがぞろぞろと現れた。
「すみません。剣と鎧を全て取り上げられました」
「丸腰か……」
そこに俺達が現れ、ヴェールユに言う。
「一度体制を立て直した方がいい」
無骨な無精ひげの男が言う。
「この娘らは?」
「姫と王子を救ってくださった。隣国の貴族様だ」
「娘っ子だけで?」
「はやく!」
そして肌着のおっさんたちがぞろぞろと抜け出してくる。総勢三十名といったところだが、全員が肌着で汚い光景が広がっている。
おえっ!
大勢で進んで行けばもちろん目立つ。そこでとうとう敵に見つかってしまった。敵が叫ぶ。
「近衛が逃げたぞ!」
そこで俺が叫んだ。
「走れ!」
俺達は近衛を先にやり、王城の門へと走り出す。
「門を下ろせー!」
こりゃやばい。
「脚力強化!」
俺が肌着のおっさんらに身体強化を施した。すると脚力が数倍になり、物凄いスピードで走り出す。
「うお!」
ヴァイネンはルクセンが担いで、プーリャはレルベンゲルが担いでいる。門の前には騎士が十人ほど待ちかまえていた。
「スプラッシュライトニング!」
パリパリとはじけた稲妻が、そいつらの頭上で炸裂し皆が倒れ込んだ。倒れた騎士達の上を飛び越えて、肌着のおっさんらが門を抜けていく。そのまま全員が門を抜けた頃に、門が音をたてて閉まった。
ズッズゥゥゥン!
中から声が聞こえて来る。
「開けろ! 開けろー!」
再びゆっくりと開いて行く門。だが身体強化を施したおっさんらの足は速く、直ぐに城下町に潜り込んでいく。
「どうするか…」
そこで一人が言った。
「なじみの店がある! そこに逃げよう」
「わかった」
俺達は裏町の方に導かれていく。ある店に着いた時、店の前で男が言った。
「すまん! 匿ってくれ!」
すると店の男が言う。
「そんな、困るよ! 商売の邪魔になる!」
「奥の控えで良いんだ。たのむ!」
「そんな…」
そこで俺が前に行き、懐から金貨を出した。
「これで少しの間たのむ」
「へ、こんなに?」
そしてソフィアの顔で甘えたように言う。
「お願い」
「あ、う、うん。少しだぞ! 入れ」
そして俺達はぞろぞろと店に入っていく。するとその店の奥には、なんともセクシーな女達が飯を食っていた。
うほ! いい女!
もちろん俺の心の声である。
「きゃあ!」
女が騒ごうとしたが、店の男が言う。
「ちっと訳ありだとよ。商売の邪魔にならねえようにすっからよ」
「そんな肌着の男達を入れて何のつもりだい」
この店に来ようと言った男を見て、ひとりの女が声をあげる。
「あら。あんた…また来てくれたのかい」
「そうだ。今度また来るからよ。今は目をつぶってくれねえか」
「そうかい? いい男だねえ。みんなぁ、この人達はそのうち客になる。だから今は先行投資と考えようじゃないかい」
「「「「「はーい」」」」」
そして俺達はその店の奥の納屋に入る。
ヴェールユが男に聞く。
「娼館じゃないか!」
「あ。利用したことがあるんです」
「姫もいるのだぞ!」
「す、すいません。でも他に逃げ場が」
「…だな。まずは目をつぶろう」
俺達は占領された城を抜け出して、娼館に逃げ込んだのだった。




