第345話 潜入大作戦
俺達の作戦は功を奏し始め、だんだんと足無蜥蜴の情報が集まって来た。俺達に家族を握られている奴らは必死に駆けずり回り、あちこちを聞き回っては情報を持ってくる。こうなってくると家族のいない悪党は不憫で、人知れず消されてしまう事になる。
だがこれは戦争である。ウェステートを連れ去られ、敵は火種を作ろうとしているのだ。目には目を歯には歯を、俺達はもう手段を選んではいられない。次々に集まる情報は全て、ルクセンの密偵に流して捜査させていた。
そうしているうちに、今度は王の密偵が俺に接触して来る。俺とアンナ、シーファーレンとマグノリアが、敵国の都市で情報を待つ為に買収した市場の屋台。俺達は売り子のふりをして、屋台に潜み集まってくる情報待っていたのだ。
「お久しゅうございます」
「あ、私が誰だか分かるんだ」
「別人に変装していても、匂いや仕草、話口調で分かります」
流石はルクスエリムの密偵。ルクセンの使う間者とはレベルが違うようで、ソフィアの姿をしている俺を聖女だと見破っているらしい。
「しばらくです」
「はい。かなりシビアにやっておられるようです」
「だめでしょうか?」
「いえ。流石は歴戦の勇者、多くの修羅場をくぐっただけはあると思います」
「それで、情報は聞いています?」
「はい。それで、ここに来ました」
「なるほど。聞かせてもらえます?」
「聖女様の作戦は見事に動きました。どうやら敵が網にかかったようでございます」
よし! 来た!
「ウェステートの命が脅かされるまで、あと二十四時間程度でしょう」
「そのように見立てておられますか?」
「ええ」
「ならば僥倖でした」
「で?」
「敵の戦力的に我々密偵だけではどうしようも無いと判断し、恥を忍んでここに来たわけでございます」
「いいですよ。元より私が動こうと思っていましたから」
「だと思いました。それではここは偽の店員を置きます」
たぬきめ。
「わかりました」
「これを」
そうしてルクスエリムの密偵は、俺に巻物を渡してくる。どうやらここに調査内容が記されているようで、口頭では話をしないようだ。
「それではひとまずこれにて」
スッ。ルクスエリムの密偵は消えた。それを見てアンナが言う。
「ようやく掴んだな」
「みたいだ。宿に戻るよ」
そこに見知らぬ女二人がやって来てニッコリ笑う。
「代わりにやってきたよ! あんたたちも忙しいんだろ! さっさと戻りな!」
どうやらこの人らが偽の店員らしい。女達が言うので、俺らはぺこりと頭を下げて宿に戻る。
宿に戻り巻物を広げて、俺達は目を見張る。
「そりゃなかなか見つからないわ」
「そのようですわ…このような」
リンクシルの姿をしたアンナがにやりと笑った。
「なかなか凄いことになっているようだ」
マグノリアは青くなっている。そして俺が言った。
「こんなところに連れていかれたなら、まだ殺されたりはしてないね」
シーファーレンが言う。
「ですが、我々でも、どうやって入るかを考えないといけませんわね」
「これがあるさ」
そう言って身代わりのペンダントを指さす。
「これを使うのですね?」
その巻物に記されていたのは、なんと、アルカナ共和国の王城だったのだ。ウェステートは、この東スルデン神国の、更に隣の国まで連れていかれたらしい。
「マグノリア。郊外にヒッポを呼ぼうか」
「はい!」
そうして俺達はルクセン達が待つ本部へと戻る。直ぐルクセンにウェステート発見の旨を伝えると、煮えくり返った表情で言う。
「国がこのような真似をするのか!」
ビリビリと気配が伝わる。
おっかねぇ。
だがもたもたしている暇はない。俺はルクセンに考えた作戦を告げた。流石に俺達だけでは、王城などに攻め入る事は出来ないからだ。
直ぐに作戦本部にしている天幕に、潜入部隊が集められた。
俺、アンナ、シーファーレン、マグノリア、リンクシル。それにルクセン、ネル爺、レルベンゲル、そして朱の獅子の四人。合計十二人の潜入部隊である。
シーファーレンが集めた身代わりペンダントを、皆に配っていく。
そこで俺が説明した。
「屈強な男や冒険者が王都をうろつけば目立つ、だから我々が変装して侵入する。皆はそれぞれ身代わりのペンダントをつけてもらいます」
「わかったのじゃ!」
ルクセンは孫の為にやる気満々のようだ。
「じゃあ! 皆さん! 身代わりのペンダントをつけてください!」
皆がペンダントをつける。
屈強な男達と冒険者は、一気に小娘へと変わって行った。
潜入部隊は次のようになる。
ソフィア →俺
スティーリア →ルクセン
ミリィ →シーファーレン
アンナ そのまま
リンクシル そのまま
アデルナ →ネル爺
ヴァイオレット →レルベンゲル
マグノリア そのまま
マロエ →ロサ(朱の獅子)
アグマリナ →パスト(朱の獅子)
ジェーバ →イドラゲア(朱の獅子)
ルイプイ →シャフラン(朱の獅子)
見た目はか弱いおねえちゃんチームだ。馬車に即席の足場を作って、乗りきらない分は天井に乗ってもらった。ヒッポも重そうだったが、山岳地帯を迂回し俺達は国境を二つ越える。アルカナ共和国の王城から、少し距離のある草原に降り立った。
「ゴメンねヒッポ! 無理させて」
「ぐるぅぅぅぅぅぅ!」
「なんて?」
「お腹減ったって言ってます」
「じゃあ、食べて来て!」
馬車を外すと、ヒッポが大空に飛び立っていく。草原の背の高い草むらに馬車を隠して、俺達は歩きだした。しばらく行くと街道が見えて来て、少女軍団は街道をぞろぞろと歩いて行く。
すると後方から馬車列がやって来た。小太りのグレーの口ひげを生やしたおっさんが、馬車から顔を出して声をかけて来る。
「な、なんだい! こんなに女の子が!」
そこで俺が言った。
「盗賊に合い、馬と馬車を全て取られてしまいました」
「なんと! 荷台で良かったら乗りなさい!」
「ありがとうございます!」
流石は顔面偏差高い集団。おっさんらも見逃さなかったようだ。どうやら商人のようで、行商して帰ってきたところらしい。あまり荷物が乗ってないところを見ると、王都の商人で間違いないようだ。どこかに荷物を降ろして、帰ってきたところだろう。
すると一人がスティーリアに声をかけた。
「修道女がいるのかい?」
「わしは…」
「えっ…」
「わたしは…この人達と旅をしているところじゃった…でしたのじゃ、です」
「は、はは…そうですか? どこかの国の訛りですかな?」
「まあ、そんなところですじゃ、ですの」
「珍しい言葉だ」
そうして俺達が乗る馬車は、一路アルカナ共和国へと向かって進んで行くのだった。




