第336話 楽しい時間に水を差す
盗賊の事はすぐにルクセンの耳に入れる。するとそれを聞きつけた第二騎士団長レルベンゲルが、俺の所に喜び勇んで来やがった。
「なんと! 盗賊が出ましたか! ならば討伐は我々に!」
「えっと、被害はなく逃げてしまいましたけど」
「何かをされたわけでは無い?」
「する前に逃げました」
「そうか…ならば、周辺の警備を強化するくらいしかできませんね」
「まあそれでも、貴族令嬢に何かあってからでは遅いですから」
「は!」
「貴族令嬢の集団の事が市中で噂になっているようで、それが原因になっている可能性がありますね」
「分かりました。では王都周辺の警護は、この第二騎士団にお任せください」
「よろしくお願いします」
そしてレルベンゲルは出て行く。第二騎士団は第四騎士団と合流し、国内では一番大きな部隊となった。全ての騎士に仕事がないのかもしれず、仕事が出来た事を喜んでいるようにも見えた。
その後は貴族令嬢達の話を聞き、理事達の報告を聞いてから夕食となった。今日はルクセンが一緒に食事をしたいと言い出したので、俺達は辺境伯邸の食堂で食事をとっていた。
「研修も折り返しですかな?」
「はい。かなり勉強になったみたいです」
「そうですか! それは良かったのじゃ! のう、ウェステート!」
「はい。とても」
「王都の方もだいぶ落ち着いて来たようですのう。騎士のネルから話は聞いておりますじゃ」
「ネル爺とはお知り合いで?」
「もちろんじゃ。若かりし頃は、王都の騎士学校でしのぎを削った仲じゃからのう」
そうだったんだ。そう言われてみると、年齢的には同じような年齢だもんな。
「とにかく、娘さん達を無事に王都に返すようにと、陛下からもお達しが来ているからのう。みなさん研修中は怪我無くお過ごし下され」
「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」
みんな素直で可愛いなあ。
なんてほのぼのとしている時だった。スッとドアを開けて、ルクセンのところの従者が入って来た。ルクセンの耳に手を当てて、何かを囁いている。
一瞬ルクセンの表情がピクリと動いた。だが直ぐに表情を戻し従者を下がらせる。
「お嬢様がた、ヴィレスタンの町はどうですかな?」
「市民がイキイキしているようです」
「活況で物があふれているようでした」
「食べ物がおいしいです!」
「そうかそうか! それはよかった!」
それぞれに感想を述べている。それから少ししてルクセンが皆に言った。
「まずはごゆっくりして下され。年寄りはそろそろ休むとしようかのう」
ルクセンはそそくさと出て行った。それを見ていた俺が隣のアンナにこっそり言う。
「…なんか…あったな?」
「そのようだ」
「なんだろ?」
「あの傑物が一瞬眉をひそめた。このような席にしては珍しい」
「だよね」
令嬢達は楽しく歓談しているが、俺はこっそりソフィアに耳打ちをする。
「ソフィア。皆をお願いね、私は席を外すよ」
「はい」
そして俺はアンナを連れて、ルクセンが何処に行ったのかを従者に聞いた。
「あの。お館様には黙っているようにと」
「連れて行きなさい。これは命令です」
「は、はい!」
半ば強制的にルクセンの元に案内させた。やはり寝室などには行っておらず、ルクセンの執務室へと連れていかれる。
「失礼します。聖女様が起こしになりました」
「うむ。お通ししておくれ」
「はい」
使用人がスッとドアを開けて俺達が中に入ると、さっきの使用人とルクセンが話をしていた。俺の顔を見てルクセンが開口一番。
「やはり聖女様は誤魔化せませんか」
「何かございましたか?」
「うむ。まだ未確定情報なのですがな、東スルデン神国とアルカナ共和国に、不穏な動きがあると密偵が伝えて来たようなのじゃ」
「不穏な動き?」
「軍隊の移動が確認されたようなのじゃ」
「軍隊がか…」
「この期に及んで、まだ何か企んでおるのじゃろうか?」
ルクセンはそう言うが、俺とアンナには若干の心当たりがあった。それはネメシスを倒した時に、小さな何かがネメシスから飛び出して逃げたのである。期間から考えると、それが直接的な関係を持っているかは定かではないが、敵は邪神であり想像を超えてくる事は容易にある。
「まったく、こんな時に」
「どうじゃろう? 聖女様。研修を早めに切り上げて帰られてはいかがかのう? 王都の貴族令嬢が巻き込まれなぞしたら、申し訳が立たない」
確かにその通りだった。まあ第二騎士団と第四騎士団、それとヴィレスタン辺境伯の兵が睨みを利かせているから、いきなり攻めては来ないだろうが、万が一間者なんかが入り込んだらまずい。それでなくても、王都の貴族令嬢の集団がここに来ている事が噂になっている。
「まさに今日、盗賊に襲われたばかりですからね」
「ふむ。それが隣国に伝わったりなぞしたら、誘拐騒ぎなどにもなりかねんのじゃ」
「おっしゃるとおり」
「まあ、まだこちらに挙兵するような動きを取ってはいないので、はっきりとは言えないが、万が一の為に研修を切り上げてもらうのがよかろう」
「まずは明日、理事会と話をして決めます」
「そうして下され」
「また動きが出たら教えて下さい」
「そうさせてもらうのじゃ」
俺とアンナは執務室を出る。そこで俺は大きなため息をついた。
「はぁーーーーーーーー!」
「随分長い溜息だな」
「やっぱり完全に決着ついてなかったかなあ?」
「ネメシスとは限らんがな」
「せっかくの研修なのに、また中断?」
「まあ国家の情勢などすぐに変わる。まずは明日の朝一番で、理事会に話を通すしかないな」
「だね…」
めちゃくちゃブルーになる。とりあえずそのまま、食堂に戻って令嬢達の元に戻った。俺は笑顔を浮かべて歓談に混ざる。そのまま食事会は終わり、俺が部屋に戻ろうとした時だった。
ソフィアが心配そうに声をかけて来た。
「聖女様の顔色が優れませんが、どうなされました?」
極力顔に出さないようにしてたのに、ソフィアには見抜かれていたようだ。俺はどうしようかを考えたが、意を決してソフィアに言う。
「一人で私の部屋に来て」
「わかりました」
そして俺はソフィアを連れて、自分の部屋へと戻るのだった。




