第333話 仕事を辞めて来ちゃった
次の日の朝。なんと二十人の入団希望者がやって来た。山吹狐の四人はもちろんだが、面接を受けた全員がやって来たのである。皆が言っていた通り、俺が提示した給金は破格だったらしい。
ただ…ちょっとした問題があった。
それをウェステートから相談されている。
「そうか…」
「はい…」
なんと、簡単に休みなどもらえないこの世界で、うちの試験を受けるためにほとんどが仕事を辞めて来たというのだ。それだけこの試験に対する意気込みが高く、なんとしてもその席を勝ち取りたいらしかった。それだけに入団希望者の皆が真剣で、冷やかしなどではないと分る。
「えー、とにかくあなた方は、騎士団として相応しい力をつけてもらうようになります。まずは朱の獅子から体術を教わり、ギルドに登録する前にある程度の仕事が出来るようにしてもらいます」
「「「「「はい!」」」」」
全員が大きな声で答えた。
そりゃそうか。仕事を辞めてまで試験を受けに来たんだからな。そりゃ命がけだわな。
だが…それではあまりにも意気込みがありすぎる。ぜんっぜんダメ。だってギルドの仕事を受けた時に、頑張りすぎるあまり危険な事になりそうだもの。薬草を取りに行って、奥地まで入り込みすぎて、魔獣になんか食われたなんていったら大変だ。
「ロサ…ちょっと」
「はい」
俺はロサを連れて、ちょっと離れた所に行く。候補生達は俺達を目で追い、何を話されるのか戦々恐々としているらしい。
「あのねロサ」
「はい」
「候補者に気合入りすぎ。ちょっと失敗した」
「気合が入っていいのでは?」
「いや。それだと、無理して怪我したり、下手したら死んじゃったりするかもしれないでしょ? 私としてはそれは望んでない訳よ。というか…ヴィレスタンの規模だったら、将来的に二十人以上になるかもしれないし、一応全員に合格が出せるようにしておくよ」
「そ、それでは試験の意味が!」
「しっ! もちろんそれは皆には内緒にしてもらって、どちらかというと全員が合格できるように育ててしまってくれないかな? 多少時間がかかってもいいから、なんとか騎士団の仕事が出来るように仕立て上げて!」
「そ、そんな」
「よろしく!」
ロサが引きつっている。だが仕事を辞めてまで来てくれた彼女らを放っておくわけにはいかない。それはシーノーブル騎士団の設立意義に反するのである。女が自立する為の騎士団なのだから、いっその事この子らを全員自立させてしまうしかない!
ロサが困った顔をしているので俺が言う。
「研修には私も入る。いや私だけじゃなく聖女邸のみんなと、ソフィアとウェステートも」
「……お嬢様方も?」
「いや。だって無理があるもの。ロサ達だけに押し付けるわけにはいかない」
「わ、わかりました」
「じゃあ、ちょっと皆に話をしてくるから、とりあえず皆に木剣でも振らせといて」
「はい」
そうして俺達は皆の前に戻る。
「じゃあ、まずは朱の獅子から体術を教わるので、皆さん木剣を受け取って外へ」
「「「「「はい!」」」」」
朱の獅子に続いて、皆がぞろぞろと出て行った。そこで俺はソフィアとウェステート、聖女邸の全員に号令をかけた。
「全員! 食堂へ!」
「「「「「はい」」」」」
アンナとリンクシルの聖女騎士二人、ミリィを筆頭にした聖女邸の九人、それとソフィアとウェステートの二人、を連れて食堂で緊急会議を行う事にした。
三
俺の前に十三人が集まり、何事かと言葉を待っている。
「あー、ちょっと緊急事態が起きました」
「はい」
「実は昨日の夕方までに面接を受けた、二十名全員が今日来たのです」
「そうなのですね」
「ところが、困ったことに…。そのほとんどが、今やっている仕事を辞めて来ちゃった」
「「「「「「ええ!!」」」」」
半分が驚いている。ソフィアとウェステートとヴァイオレットは立ち会っていたので知っているが、他の人達は初めて聞かされて目を丸くしている。アンナとリンクシルはそれで何か問題でもあるのか? という顔をしている。ジェーバとルイプイは元々孤児だったので、それほど驚いてはいない。
「だよね! びっくりしちゃってさあ!」
するとアンナが言った。
「当然だ。聖女の騎士団になろうというのだ、生半可な気持ちではだめだ」
アンナはそう言うと思った。
「まあねー。でもちょっと思うんだよ。そうは言っても、もし試験でダメだったら路頭に迷う事になるしさ」
だがジェーバが言う。
「職につけるだけ、ましだと思います」
「まあね。でもこっちの募集方法も良く無かったなって思うんだ」
だがルイプイが言う。
「甘い汁を吸おうというのだから、そのぐらいの犠牲はある程度覚悟の上なのでは?」
「それはそう」
そしてリンクシルが頭を傾けて言った。
「それのどこが問題なのですか? 命がけで勝ち取るものなのでは?」
だよなあ。リンクシルは命がけだったもんなあ。
「でもね。そればっかりじゃないと思う」
皆は良く分かっていないようだ。
だがここには貴族の娘が五人もいる。その子らに聞いてみよう。
「マロエはどう思う?」
「私は聖女様から一方的に助けられた身ですので、ただの幸運でした」
するとアグマリナも言う。
「私もそうです。こうして養子に迎えられるなど、幸運以外のなにものでもありません」
続いてヴァイオレットも言う。
「私とて同じでございます。王宮の文官達にいじめられていたのを救ってもらいました。ただ女だったというだけで、聖女様の元に送られたのです」
「ミリィはどうかな?」
「私は聖女様のお決めになるままに従ってまいりました。恐れ入りますが、運営に関しての意見などございません」
「でも聞きたい」
「では…恐れながら、私は幼き頃より王宮勤めするように育てられて参りました。数いるメイドから抜擢されて、聖女様の専属となった身分でございます。ですがこうして聖女様の為にお役に立つ事が出来て、恐らく私は国で一番幸せなメイドでございます。聖女様の恩為に誠心誠意尽くせる事は至上の喜び、もし彼女らにその恩恵が授けられるのであれば、それはとても素晴らしい事だと思います」
「そうか! そうだよね! アデルナはどう思う?」
「若い女性について、という事ですが」
「うんうん」
「仕込み次第で、いかようにもなると思います。教育を施せば、如何な孤児院の娘とて立派な聖女様の使いとして働けるようになります。ジェーバとルイプイのように」
「そのとおり! 今では読み書きも出来るし、立派にお使いも出来ている! そうだよね? ジェーバ、ルイプイ」
「「はい」」
「マグノリアはどうかな?」
「前は私のせいで聖女様の命が脅かされました。でもこうして一緒に置いてもらってます。私とゼリスは聖女様の広い心に救われました。だから…もし…出来る事なら、より多くの人に幸せになってもらいたいなって思います」
するとウェステートが言う。
「わがままを承知で言います。彼女らに自立の機会を御与え下さい」
そのつもり。
「ソフィア。どうしたらいいだろうか?」
するとソフィアが言う。
「導きましょう。私達の手で二十人全員を」
「うん、そうしよう。決定」
皆がポカンとしている。だがそこで俺は思いついた。
「貴族令嬢達にギルドの仕事はさせられないけど、候補者らに文字書きを教える事は出来るよね! 研修過程に、教育というのを入れる事にしよう。二十人に文字の読み書きを」
するとソフィアが言う。
「素晴らしいですわ。では令嬢達にも協力を仰ぎましょう」
「という訳で、聖女邸のみんなも参加してもらうよ。もちろんアンナとリンクシルもね」
するとアンナが言う。
「わたしとリンクシルが出来る事は無いんじゃないか?」
「あるんだなあ、それが」
「なんだ?」
「候補者のギルドの仕事を、聖女邸のみんなも手伝うからその護衛」
「わかった」
そうして、聖女邸も総出で研修を手伝う事になったのである。




