第322話 貴族の娘達にモテる方法を知りたい
ヴィレスタン領までの道中にある険しい山間の峠道、隊列の進行も遅くなり怪しい雲行きとなった。山の麓で一泊し山を越えて降りたところで、また一泊するような険しい峠。天候が崩れる前にとっとと峠を下りたいところだが、そんなところで初めて魔獣に遭遇する事になる。
道の先に立ちふさがっている、でっかい熊を見て貴族子女達が青ざめている。
護衛の騎士達も騒いでいるが、聖女邸の面々は落ち着いていた。
だって、Aランクの朱の獅子もいるし、なんたって特級冒険者もいる。だから特段慌てる事も無く、俺はソフィアに聞いた。
「ソフィア」
「は、はい!」
「これは一種の見世物になると思うんだけどさ。誰がやろうかって話になってるんだよ」
「どういうことですか?」
「私か、アンナか、朱の獅子、マグノリア? オーガグリズリーはスッゴイ怖い魔獣だけど、ワイバーンとかヒポグリフなんかの餌なんだよね」
「そうなのですね? どう違うのですか?」
「派手だけど一瞬なのは私。もっと一瞬なのはアンナ。朱の獅子だと見ごたえあるし、マグノリアのヒッポはグロ映像になると思う」
「で、ではマグノリアさんは却下で」
「私のお勧めは朱の獅子かも。私やアンナだと一瞬で何が起きたか分からない」
「では朱の獅子様に」
「わかった」
そして俺は皆に言った。
「じゃあ…ロサ達で倒してもらえる?」
「元より護衛は私達です。もちろんやらせてもらいます」
「素材はあげる」
「ありがとうございます」
そう言って朱の獅子の四人が、オーガーグリズリーにかかっていく。まずはシャフランがロサとパストに身体強化をかけ、その間にイドラゲアが弓の狙い付けている。
「いける」
ロサが言うと、イドラゲアが弓を放った。
ピューンという音をたてて、オーガグリズリーの頭上を矢が過ぎていく。オーガグリズリーがそれに気を取られているうちに、ロサとパストが一気に距離を詰めた。そしてシャフランが後方から、ファイアボールを放ってオーガグリズリーに命中をさせる。オーガグリズリーはたまらず、迫る冒険者に爪を振り下ろす。
ガキィ!
タンクのパストが鉄の盾でそれを受け止め、その隙にロサがスパン! とオーガグリズリーの足を斬る。
「ガアアアアアアアア!」
オーガグリズリーは足を切られてバランスを崩し、四つ足の体制になった。そこでイドラゲアが次の矢を放つ。その矢はオーガグリズリーの顔の前で破裂した。刺激物の粉が炸裂した事で、オーガグリズリーは頭を掻きむしるようにしている。
そこにパストが大盾を前に、ドン! とオーガグリズリーにぶちかましをかます。目が見えていないオーガグリズリーは、やみくもにパストに爪を振り下ろした。
タタタ! とロサがパストの背中を駆けあがり、オーガグリズリーの頭上に踊り出た。そして次の瞬間。
ズン!
脳天から真っすぐにロサの剣が突き刺さっていた。ぼたぼたと口の所から血を流し、ロサが剣を抜くとズズゥンとオーガグリズリーが倒れる。ビュン! とロサが剣の血を振り払って鞘に納めた。
すると貴族子女達が言う。
「か、カッコイイですわ」
「あれが…シーノーブルの騎士様…」
「ロサ様…」
「パスト様…」
えっ! なんかめっちゃ頬を染めて憧れてるんですけど! そうか…彼女らは実戦なんて見た事無いから、今のでもめっちゃカッコイイって思っちゃうんだ。こんな事なら…俺がやっておけばよかった…。
貴族子女達が目をキラキラさせているのを見て、ソフィアが満足そうに言う。
「シーノーブル騎士団の実力を魅せれましたね!」
「あ、ああ…そうだね。よかったよ。みんなねえ…」
そこにロサ達も戻って来る。そして俺が言う。
「荷馬車を一台空けるから、それに積むといいよ」
「ありがとうございます」
皆で荷物が積み込んである荷台から、それぞれの馬車に荷物を移し替えて一台を空けた。男もいるので皆でオーガグリズリーを荷馬車に乗せ、再び峠を下る道へと向かうのだった。
馬車に乗りアンナに言う。
「なんかさ、朱の獅子の戦いを女の子たちが気に入ったみたい」
「派手ではあるな」
「私とかアンナだと一瞬だよね?」
「そうなるだろうな」
「なんか私らでも目立つ倒し方とかあるかな?」
「目立つ倒し方?」
「なんか苦戦して勝つみたいな」
「それにどんな意味がある?」
「意味は特にないけど」
女子受けがいいという以外は。
「まあそうだな。聖女がやるなら、必要以上の力になるが特大の雷が良いだろう。だが…魔獣は消し炭になって何も残らんぞ」
「そうかあ…素材を考えるといただけないなあ」
「それか聖女が派手に見えるというなら、相手は盗賊がいいだろう。盗賊ならば電撃は派手だ」
「なるほど! 盗賊か! でもこんな隊を盗賊が襲うと思う?」
「思わん」
「だよねー!」
どうやら俺の見せ場は作れなそうだ。
だがアンナが言う。
「見せ場など必要ないさ。わたしもソフィアもシーファーレンも、聖女がネメシスを砕いた痺れる場面を見ているからな。あのような場面、一生に一度きりだろう。わたしはこの目に焼き付いている」
そうだった。大勢の子に、きゃーきゃー言われるより、大事な三人から思われてる方がいいよな。
だが馬車の後ろの方で、貴族子女達に声をかけられているロサとパストが羨ましかった。
そんな俺の考えている事を見抜いたのか、同乗しているアデルナがこっそり耳元で言う。
「聖女様。女は…最終的には物に弱いものです」
そうだ…そんなのは今世でも前世でも変わらぬ事実。ヒモだった俺ともあろう者が、目先のカッコよさに引っ張られてしまうとは情けない。
「アデルナ。ケーキの材料は積んできているね?」
「もちろんでございます」
「じゃあ、今日の夜…。わかるね?」
「御意」
なんだかアデルナおばちゃんが、だんだんと俺に毒されてきている気がする。でも彼女が俺を理解してくれているおかげで、聖女邸でのハッピーな暮らしが実現できているのも事実。やはり年の功なのだろう、俺が女性が好きという事をはっきり認識してサポートしてくれているのだ。
きっと…こう言う人を一人でも多く増やす事が、俺の願望を達成する近道なんだろうな。
その夜。アデルナはきっちりと任務を遂行し、女達にケーキを振舞ったのだった。魔獣討伐よりも、遥かに色めきだったのは言うまでもないだろう。




