第308話 極上の特別待遇で送り出す
秘密の花園。
うん…良い響きだ。
王都のど真ん中にありながら、聖女邸は更に厳重に管理され、男は絶対に入れなくなった。
…ただ一人の男。ゼリスを除いては。
彼は幼いながらにも、そのキュートな男の子の魅力でメイドに可愛がられている。さらにアグマリナの妹であるダリアがべたぼれで、一日中一緒に居る事が多いからほっといている。
だが彼はどうやら、俺に好意を抱いているらしい。厄介だ。いくら幼いとは言え男である。きっとそのうちに、ピンコ立ちしてくるに違いない。更に冒険のおかげか、彼には更に男らしさがチラホラと見え隠れしている。そこで俺は考えた。
聖女邸に緊急招集をかけて話し合いを儲ける事にした。食堂にはみんなが集まっており、そこにはもちろんゼリスもいる。俺は皆の前に立って話を始める。
「集まってもらってありがとう」
皆が俺に集中する。
「えーっと。話というのはゼリスの事です」
皆が頷いた。
「今や、孤児学校に通う生徒も増えてきています。だけど私は思ったのです。よその子供たちには学びを与えているというのに、我が聖女邸の子供には学びを与えていないと」
皆は、誰の事を言っているのか気が付いたようだ。
「せっかく学べるチャンスだというのに、その機会を私の身の回りのあれこれに消費してしまっては本末転倒。私が目指そうとしている世界とは、真逆の事をしていると思います」
するとマグノリアが手を挙げた。
「はい」
「あの。ゼリスの事ですよね? でも戦う為には必要だったのだから、仕方のない事だと思います」
「そのとおり。でも邪神ネメシスを倒した今、すでにゼリスの力を借りる事は無くなったよね。それよりも今はゼリスの学びと、将来の為の鍛錬が必要なんだ」
するとスティーリアが助け舟を出してくる。
「本末転倒というのは聖女様のおっしゃるとおりです。ゼリスの自由を奪ってはいけません」
「そのとおり!」
するとマグノリアが静かになる。ごめんね。
ミリィが聞いて来た。
「それでは学校に通わせるのですか?」
「そう。しかもこの屋敷は、それほど自由に出入りする事が出来なくなった。だからゼリスには寮に入ってもらう事にします」
ようやくゼリスが声をあげた。
「えっ?」
びっくりしてる。でもここは厳しくいかねば。
「ゼリス。みんなと離れるのは嫌だろうけど、あなたもそのうち男になる。ここは男子禁制の館だからね、今はまだ間違いがないけど、どうなるか分からないから」
皆が納得した。今はまだ幼いからいい、とは言っても、あと一~二年もすれば絶対に目覚める。実は俺が懸念するまでもなく、皆もその事は思っていたのだ。
「ゼリス」
「はい」
「あなたは学校で学びなさい。将来は王宮魔導士になるもよし、学者になるもよし、進路は私がどうとでもします。だから今は辛いけど、頑張って学んでほしい」
いいだろ? 就職先は有望。公務員にも学校にも入れるし、曲がり間違ってもヒモになんてならなくて済む。それに女だらけの花園で成長した男なんて碌な者にならない。まあ男の将来なんてどうでもいいが、お前が困らないだけの道は用意してやる。うん。
「せ、聖女様には会えなくなるのですか!」
「外で面会する事はあるでしょう」
「そう…ですか」
するとマグノリアが言う。
「ゼリス! こんなに良くしてもらえる事はないのよ? 田舎の村のみんなが聞いたら絶対にビックリするわ。それにずっと聖女様に甘えていてはだめなのよ。あなたは男だから、いずれ外に出なければならないのよ」
そのとおり。ゼリスは残念そうな顔をしているが、これ以上俺や他の女と風呂に入る事は許されんのだよ! ずっと、俺の体ちらちら見てただろ! そろっそろスケベな事に興味が出る年ごろなんだよ! 俺が前世でそうだったようにな。
そこでアデルナが聞いて来た。
「もしかして孤児と一緒の寮に入るのですか?」
「違うよ。通わせるのも孤児学校じゃないし」
「では、どちらへ?」
「ゼリスには貴族と共に、王立魔導学校に入ってもらう。貴族寮に入り、いろんなことを学んでもらおうと思ってるかな?」
「それは素晴らしい!」
するとマグノリアが聞く。
「アデルナさん。それは凄い所なんですか?」
「もちろん。学費はとても高いし、貴族寮もとても高級でお金がかかる。貴族や市民の憧れの的という学校さね」
「凄い!」
そして俺が言う。
「聖女推薦の特別枠で入れるし」
すると聖女邸のみんながざわつく。
「聖女権限でございますか?」
「そう」
スティーリアが言う。
「凄い…。それではご学友は王族関係者もいらっしゃる?」
「そう」
どうだ? ここまで周りを固めたら断れまい。つーか、そもそもめちゃくちゃ好待遇で行く事になるから、左うちわで居られると思うがな。このハーレムを出すんだから、そのぐらいの待遇はあげないと納得すまい。
「僕…大丈夫でしょうか? そんなところに行って」
「何かあったら、フラル・エルチ・バナギアが黙ってない。必ず私が話をつける。だから何でも手紙に書いてマグノリアに送るといいよ。ほんとに何を書いてもいい。なんなら貴族の悪口でもいい」
「そ、そんな…」
皆もあっけに取られている。
だがここで引く訳にはいかなかった。なんたって、男がいるところにソフィアを呼びたくないからね。申し訳ないけど、男はダメなんだよ。ここは。
そこで声をあげたのがマロエとアグマリナだ。
マロエが言う。
「羨ましいですわ。そんな特権をもって王立魔導学校へ通えるなんて、これ以上の誉れは無いでしょう」
アグマリナも言う。
「本当です。私達では手の届かない素晴らしい学びの場です。更に将来が約束されているなんて、この国で一番幸せなのはゼリス君でしょうね。本来はダリアも学びに行かせたいところだけど、世を忍んで生きねばならない身です。それを考えれば迷っている場合ではありませんよゼリス君」
その脇でダリアが下を向いている。大好きなゼリスが外に出されると聞いて、泣きそうになっているのだ。しかしそれもダメ。だってゼリスの人生はダリアの物じゃないから。ゼリスはゼリスで自立して立って行かなきゃならないからね。
マジで。
「どう? ゼリス? 行く?」
「…行きます。そして僕も役に立つ人間になります!」
よっしゃ! それでこそ男。頑張れ!
「ではアデルナ、ヴァイオレット直ぐに手続きを進めて」
「「はい」」
「以上で話は終わりです」
「「「「「「はい」」」」」」
無事に終わった。誰にも反対されずに、本人の了承も得た。
正直マジでゼリスにはめっちゃいい話なのだ。山奥の田舎の子供がいくら頑張ったところで、たどり着けない場所に百段抜きくらいで行く事になる。言わばこの世界のマサチューセッツ工科大学に無試験で入れて、好き勝手遊び学べる立場になる。
前世ヒモだった俺では絶対に手の届かない場所にゼリスは行くのだ。俺だってもしそういう援助があったら、ヒモになんかなってなかったかもしれない。ゼリスをヒモにしないようにしたいという、俺のちょっとしたアニキ心みたいなものなのだ。
では。ゼリス。いってらっしゃい。




