第301話 クラティナとの別れ
トリアングルム王国からの帰り道。行きと違って、めっちゃくちゃ豪華な大名行列になってしまった。ソフィアをちょっと救って帰ってくるつもりが、何故か隣国の王族と軍隊、そして大量の物資を乗せた馬車列を引き連れている。途中で立ち寄った町のホテルも最上級の物を用意され、兵士の警備の元でゆったりとくつろぐ事が出来ている。
ただ…。まだいる。護衛の騎士とメイドが常に身の回りにいる。こんなんじゃソフィアにチューすることも出来ないし、みんなでワイワイ風呂に入る事すらできない。まあいないからといって、ソフィアとチューが出来るとは限らないが…。
俺はヒッポから落ちた時の、ソフィアとの事を考えていた。あの時、シーファーレンが来なかったら、俺はソフィアと深いチューをしてたはずだ。まあ…チューしてたら死んでたけど。
ホテルで一夜を過ごした朝、メイドが俺の部屋にやって来た。
「メルキン様がいらっしゃいました」
「ああ、通して」
「失礼いたします!」
脳筋っぽい王子が入って来た。
「出発ですか?」
「はい。本日国境を越えます」
「わかりました」
「すでに詳細は、早馬でヒストリア王国に伝わっているはずです。越境の際は何卒お口添えを」
「はい。お任せください」
「では、間もなく出発です」
そしてメルキンが出て行き、俺とアンナだけになった。
「かなり時間がかかってしまったな聖女」
「そうだね。まさかこんな風になると思っていなかったから、ヒッポなら一日で帰れるのに」
「きっとヒストリアでは騒ぎになってるぞ」
「無断で国を出ちゃったもんね。いくら偽装したって、スティーリアとミリィとアデルナだけじゃ、もうバレちゃうだろうし」
「彼女らには、気苦労をかけているだろうな」
「ヒッポで先に帰りたかったけど、この軍隊が越境するとき私がいないと、トリアングルムが攻めて来たとか言われるだろうし…。仕方ないよね」
「そうなるだろうな」
「じゃ、行こっか」
俺とアンナが部屋を出ると、既にソフィアとその両親、仲間達が待っていた。そこにシーファーレンが近づいて来て言う。
「聖女様。次の村でクラティナとはお別れになります」
「そっか。彼女の村だもんね」
「はい」
そしてまた大名行列が始まった。物凄い列になり、馬車の数もハンパない。長々と続く車列に市民達も驚いている。だが俺はさっきシーファーレンから聞いた話が気になり、クラティナを一緒に馬車に乗せた。この馬車には俺とクラティナとアンナしかいない。
「クラティナ」
「はい」
「一緒に戦ってくれてありがとう」
「いえ。シーファーレン様がいらっしゃいましたので」
「そっか。そうだね」
「はい…」
シーファーレンと離れる事が寂しいのだろう。めっちゃ悲しそうな表情をしている。
「あのね、クラティナ」
「はい」
「あなたはこの国の生まれなんだっけ?」
「そうです」
「そっか。あなたはあそこの村に帰るの?」
「はい」
「そうなんだね。あそこが気に入ってるのかな?」
「えっと、私がいないと薬を求めている人達が困るから」
なるほどなるほど。クラティナは優しいんだね…。
「あのね。メリールーがこの国の医療大臣になったんだ。そして、私はトリアングルムの王族にも提言する事が出来る。貧困の人たちにも手を差し伸べる約束をしたんだよ。じきに各町の医療が充実し始めると思う。きっとクラティナがいなくても、医療が充実する日が来ると思うんだ。それも、そう遠くない未来に」
「えっ、そうなんですか?」
「私がそうさせるから。カイト王子とも王様とも約束したから」
「凄い…」
「だから。あなたが居なくても、村に薬が行き届くようになる日が必ず来る。そうしたらヒストリア王国の私を訪ねて来てほしい。シーファーレンと一緒に過ごせるようにしてあげる」
「えっ…シーファーレン様と…」
「そう。彼女と一緒に居たいでしょ?」
「それは。はい…。 でもシーファーレン様は迷惑じゃないでしょうか?」
「そんな事を考えてたの?」
「はい」
「絶対迷惑じゃないと思うよ」
「…本当ですか?」
「本当だよ」
「…」
「君に、これを託すから」
そう言って俺は、黒いアラクネのマントを渡した。
「これは?」
「ずっと私の命を守ってくれたアラクネのマント。これを私に返しに来てね」
するとクラティナはコートを抱いて言う。
「はい。必ず…必ずお届けします」
「まってるよ」
「はい」
そうして大名行列はクラティナの村を通りかかった。俺がメルキンに言って行列を止めてもらい、クラティナを降ろす。俺とシーファーレンも降りて、クラティナと挨拶をした。
シーファーレンが言う。
「クラティナ。ありがとう、本当に助かったわ」
「いえ…」
「これでお別れになるけど、またいつか会いましょう」
「はい。また…いつか…」
そう言ってクラティナが俺をチラリと見た。俺はにこりと笑ってピースサインをする。するとクラティナは安心したような表情で、シーファーレンに力強く答える。
「はい! いつか必ず!」
「ええ!」
命がけでネメシスと戦ってくれたクラティナと別れ、俺達の行列は再び出発する。姿が見えなくなるまで、クラティナはずっと手を振り続けていたのだった。俺の馬車に一緒に乗ったシーファーレンが、名残惜しそうにずっと見ている。
俺がシーファーレンに言った。
「彼女は凄く優しいね」
「そうなんです。村の人の為にあそこに残ってるんです」
「そうみたい。でもいずれこの国は変わる、その時は…」
「ありがとうございます。お心遣い感謝します」
「シーファーレン。クラティナとの思い出聞かせてもらえる?」
「よろこんで」
俺とシーファーレンとアンナが乗る馬車で、シーファーレンが語りべとなり、二人の思い出の物語を聞かせてもらうのだった。




