第287話 二か国会合の場で
その部屋にはバカでかいテーブルが置いてあり、椅子がいくつも並べられている。この部屋には王族と、その取り巻きやメイド達がいるだけで俺達は明らかに浮いている。とりあえず周辺にいる騎士達が俺達を隠しているので、目立たずに済んでいた。
ところが…。
「騎士は下がるが良い」
トリアングルム連合国の方に座っている爺さんが言った。
あのジジイが、トリアングルムの王か…。見た感じ頼りないというか、あまり力がなさそうな雰囲気の爺さんだ。息子たちの方が覇気があるように感じる。
俺がじっと見ていると、騎士達が部屋の外へと出て行った。おかげで俺達が若干目立つ形になってしまう。
「お気遣いありがとうございます」
メリディエス王国の王が礼を言う。どちらかというと、こちらの方は一癖も二癖もありそうな爺さんだ。肌の色艶も良いし、まだまだ現役と言った感じを受ける。
「そちらが騎士の護衛を入れずに来たのであれば、こちらも必要ありますまい」
「痛み入ります」
そしてトリアングルムの王が、自ら歩いて行ってメリディエス王の手を取る。
「ようこそおいでくださいました」
「いやはや、当国のわがままで場を設けていただいたのです。お招きいただき本当にありがとうございます」
そんな通り一辺倒の挨拶があり、メイド達が椅子をひいて王族たちが椅子に座った。ところが座った途端に、メリディエスの王が俺達の方を見て言う。
「女の執事ですかな?」
そう言われたトリアングルムの王が、こちらを見て不思議な表情を浮かべる。
「はて?」
なんで座った途端に、俺達の事を話すかな。もっと話すべき事がありそうなもんだが…。
その様子を見て、カイトがしゃしゃり出て来た。
「すみません。あの者達は私の従者にございます」
「ほう? 王子の?」
「ええ。これからは女性も力のあるものは起用すべきかと」
だが、メリディエス王はあからさまに目つきが悪くなった気がする。
「どうでしょうかな? 女に仕事が務まるものなのか疑問だな」
「この場には相応しくないと?」
「出来ましたら、席を外していただけると」
仕方がないので、俺達が深々と頭を下げて外に出ようとする。だがカイトがそれを制した。
「お前達。誰の許可があって部屋を出る?」
うっわ。おまえ、空気読めよ。
俺がカイトに深く頭を下げて言う。
「申し訳ございません。ではここに」
だがそれを見たジュリアン王子が言う。
「おい! カイト! メリディエス王がおっしゃっているんだぞ!」
しかしカイトは不敵な笑いを浮かべて言った。
「もし彼女らを下げなければどうするのです?」
たいしたもんだ。このなかで一番年下だと思うが、空気に飲まれずに堂々と質問している。
「そのような事! どうでもいい! 下げろ!」
そう言われてもカイトは引かなかった。
「そのような些事はどうでもよいではないですか。それよりもすぐに話を始めたいことがあるのではないですか? そうですよね? シャール陛下?」
カイトは相手の王様に言った。するとメリディエス王は、面白くもなさそうな表情で答える。
「まあ、こちらも女ごときに目くじらを立てるほどの事は無かった。別に居てもらってもかまわん」
カイトはジュリアンに向かって言う。
「だ、そうです」
「ふん! メリディエス王の前で、なんと言う恥さらしな。申し訳ございません!」
「いえいえ。たかが女の事、もうどうでもよろしいでしょう」
そうは言いつつも、俺達をぎろりと睨み返した。
そんなやり取りがあるのに、トリアングルムの王と二番目のメルキンは何も話さない。ただそのやり取りが収まるのを待ってるようだ。
どうやら…仲が悪いのは、メルキンとカイトじゃなく、ジュリアンとカイトらしい。やはりカイトは王の座を狙っているのかもしれない。
しかし俺達は気まずい。そんな中で他の従者に混ざってここにいなきゃいけないのは地獄だ。
「では!」
ジュリアンが空気を変えるように言った。
「まずはお話し合いの前に、軽いお食事を」
「おもてなし痛み入ります」
ジュリアンが言うと、バッと扉が開かれて次々と料理が運び込まれて来た。カイトの件で多少タイミングが遅れたが、料理が冷めるほどの時間ではないだろう。料理と酒がふるまわれ、雑談などを交えながら親睦を深めるようだ。ほとんどジュリアンが話をしており、トリアングルムの王やメルキン、カイトはほとんど話をしていない。
そして話は隣国の、ヒストリア王国の話題になる。
メリディエス王が言う。
「して、隣国の様子はどうですかな?」
それにジュリアンが答えた。
「ええ。周辺国家とあまり良い状況ではないようで、貿易は主に我が国と行っておるようです」
「そうですかそうですか。という事は、かなり物資が流れていると?」
「そうですね」
「かの国に、いったい何があったのでございましょうな?」
「使者を送って話を聞く事もございますが、本当の所はあまり分かっておりません。最初はズーラント帝国とのひと悶着が発端だったように思えます」
するとメリディエス王が目の色を変えて言う。
「例のあの話かな?」
「ああ、その話は貴国にも及んでおりますか?」
「なんでもヒストリアに、神の使いである英雄が生まれたと。それが一人で帝国を退けたなどという、馬鹿げた話が伝わってきておる」
それを聞いてやっと、トリアングルムの王が話題に入って来た。
「やはり眉唾ものでしょうか?」
「それはそうでしょう。一人の人間が、帝国を退けるなど夢物語でしかありません」
「やはりそうでしょうな。そのような夢物語があるわけがない」
「そのとおりです」
だがそこで余計にも、カイトが口を開いた。
「そうでしょうか?」
ジュリアンがそれを制す。
「おい! カイト!」
カイトが黙るが、メリディエス王がそれを止めた。
「良いです良いです。お若いというのは良い事、カイト王子はとても博識であるとも噂をきいておりますからな。してどう言ったお話かな?」
するとカイトがジュリアンを見て、少し笑いながらメリディエス王に言った。
「まあ私もそれを鵜呑みにはしていません。ですが、凄い力を持った聖女が誕生したというのは、あながち嘘ではないかと思います」
「ほう。何故そう思うのかな」
「世界は広く、いろんな力を持った人がいます。例えば、物凄い効能を持つ薬を作る薬師とか」
ブッ!
いきなりぶっこんできた。国家機密だと思うのだが、カイトはとにかくここで印象付けようと必死なのかもしれない。だが俺達は正直冷や汗もんだ。
「凄い効能を持つ薬?」
するとメルキンが初めて口を開いた。
「例えばだろ? カイト!」
するとカイトは少しびくりとして言う。
「そうそう、例えばですよ」
どうやらカイトはジュリアンには強気だが、メルキンには弱いらしい。
「ふーん。そうですか、それでヒストリアに、そんな人がいてもおかしくないと?」
「まあ、そうです。すみません話を折ってしまって」
カイトはまずいと思ったのだろう。それ以上話を突っ込まれないように引いた。だがメリディエス王はチラリと俺達を見て皮肉っぽい笑いをして言う。
「まあ、お若いですし、お年頃なのですな。誰しもそのような時期はありますからな」
そう言ってトリアングルム王に目配せをする。
「すみませぬ。元来の性格もあり、のびのび育てた事でこのような物言いをするようになりまして」
「いやいや。血気盛んなのはよろしい事です。良いご子息に囲まれて幸せですな」
「そう言っていただけるとありがたいですな」
ひとまず今のひと悶着は収まったらしい。だがここで王子達の関係性がバッチリ分かったし、メリディエス王が完全な男尊女卑野郎だという事も分かった。まあこの世界では全く珍しくないタイプの爺さんだが、女の事になるといちいちカドが立つ。コイツは女に良い思い出を持っていないモテない奴だったのかもしれん。
そこに突然、部屋の隅から、タタタと男の従者がジュリアンに近づいて耳打ちをした。
「なに」
何かが起きたのか、少し表情に変化が出る。そしてまた表情を戻し、その場にいる皆に言った。
「すみませんが、少し席を外します」
そう言ってジュリアンは急いで部屋を出ていくのだった。若干ただ事じゃない雰囲気が伝わって来たが、ジュリアンが外れた席では王同士が他愛もない話を始めるのだった。




