第285話 来訪者の情報を掴む
俺達の計画を知ったメリーが、さっそく信用のおけるメイドに声をかけてくれた。もちろんいきなり計画の全容を話すわけにいかないが、メイド間の雑談レベルで王宮の情報が聞けた。それをゼリスの鼠が集めて来た情報とリンクさせ、城内の流れを大まかにつかむ。
そのおかげで来賓の情報を知る。それはマルレーン家では無かったが、景気のいいトリアングルム連合国に、南方の国の王様が来るそうだ。ようは物資を必要としているヒストリア王国への輸出に、いっちょかみしたいという事らしい。
メイド室は接待の準備に追われており、宮廷で料理をふるまう予定らしい。隣国の王室が来るという事で、第一王子のジュリアンだけではなく、第二王子のメルキンや第三王子のカイトも出席させられるという。
何の事はない、第一王子は外交を通じて自分が次の王だと誇示したいのだろう。周りの国から固めて、その地位を万全なものにしたいに違いない。
で、コイツは不機嫌になって、俺達の所に来て管を撒いているわけだ。
「全く! 景気が良くなれば顔色を変えて、突然すり寄る国なんかに良い顔しても仕方ないのに!」
カイトだった。
わざわざ俺達の所に来て、どっかりと椅子に腰かけてぶつくさ言っている。俺達はそれにかまわずに薬の調合をしていた。正確にはクラティナとシーファーレンとメリーがやっていて、俺達はやっているふりをしている。
もちろん作業中なので、俺達はそれにかまう事は無く、従者がなにやら困った顔をしていた。
「王子! なにもこのような場所で!」
「いいのいいの! 彼女らは、凄いものを作っているんだから! そうだ! そう言えばメルキン兄が凄い薬だと褒めていたよ!」
そう言われれば俺たちも無視するわけにいかない。みんながカイトの方を振り向いて、ぺこりと頭を下げる。
「すみません。なにぶん急だったものですから」
「まあ僕が外遊中だったからね、でも結果オーライさ。これでメルキン兄には恩を売る事が出来た。おかげさま様だよ」
「それでしたらよかったです。ですが在庫が無くなりました」
「仕方ないよ。まあメルキン兄に恩を売れたから問題なし」
「はい」
そうして俺達はまたそれを無視するように仕事をし始める。だがまた、カイトが俺達に言う。
「あー、明日嫌だな。なんで僕まで」
またその話。嫌ならバックレればいいじゃねえか。
「あの薬の事は重要機密だし、僕が売り込めるものは今の所なにもない」
ようやくわかって来た。カイトは自分の地位を良くするために、俺達のあの傷薬に目を付けたようだ。王宮内で使用された事については良しとしているが、他国にバレるのはまずいらしい。
すると唐突にシーファーレンが話し出す。
「それでは殿下、こちらのお香はいかがでしょうか?」
「お香?」
「とても良い香りのするお香で、会場のあちらこちらで焚けば、その香りに興味を示すやもしれません。ですが実はこのお香には効能がありまして、人の気持ちを高揚させる効果があるのです。宴が盛り上がる事、間違いなしかと」
「フーン…お香ねえ。そんなものもあるんだ」
「まあお役に立てられるか分かりませんが」
「まあ、一応やってみるか。様子を見てみよう」
「あともう一つ」
「何かあるのか?」
「これは大々的には申し上げられませんが、こちらの錠剤をご覧ください」
そう言って薬の粒を目の前に出した。
「何の粒だ?」
「こちらは精力剤に御座います。私的な場で、こっそりお相手にお渡しになれば、相手方との交友関係を深める事が出来るかもしれません。もちろん王様にお渡しすると言う訳には参りませんが、その取り巻きに気に入ってもらうというのも、後々役に立つかもしれません」
「それは面白いな! やってみよう!」
少し機嫌を取り直したらしい。その粒の入った袋を握りしめて言う。
「お香は準備しといてくれ。後でメイドに取りに来させる」
「はい」
そう言い放って、意気揚々と部屋を出て行った。
そこで俺がシーファーレンに言う。
「上手くいったね」
「やはり愚痴を言いに来ただけは無かったですわね」
「どうやら、私達を虎の子だと思っているのかも」
「手の内のひとつとして考えていますわね。きっと」
「だけど半分嘘だし」
「精力剤は本物です。お香は良い香りがしますが、実際の効果は違いますから」
「聖結界のような効果をもたらすんでしょ?」
「そうです」
「ネメシスを入れこまない事と、その眷属がいたらあぶり出すという事だよね」
「かなり嫌がるかと」
流石賢者だ。あの傷薬を作っていると見せて、そんなものをせっせと作り込んでいたのだ。あのカイトのエロさを見抜いて、精力剤にめっちゃ反応するだろうと見込んでいたのだが、まんまと王子はそれに乗った。おかげで、聖結界のお香を城内のあちこちに置く事が出来る。
「だけどこれで、どさくさに紛れて入り込まれる事は無さそうだし、万が一南国の王家が連れた中に、ネメシスの関係者がいたら直ぐにわかるね」
「そう願います。ですが本当の権力者が嫌がればそれも難しいかと」
「大丈夫だよ。王様がそれだったとしても、力関係はトリアングルム連合国の方が上、物流の通過点として依頼するうえで物申す事なんで出来ないはず」
「はい。まあ念のため、ネメシスがその場をめちゃくちゃにしようという魂胆な場合は、全てをひっくり返すと思いますが」
「そうなったらそうなったで、どさくさに紛れてやれることはある」
「はい。なにせ聖女と聖女の剣が…」
「しっ、壁に耳あり」
「失礼いたしました」
「だけど、その通り。仕留められる機会があったらやってしまおう」
そう言ってアンナを見ると、コクリと頷いた。
「だけど、そろそろマルレーン家も到着する可能性もあるし、各方面に気を巡らさないとね」
「最善を尽くしましょう」
皆が頷く。俺達は陰で万全を尽くし、南国の使者を迎える準備をするのだった。




