第281話 不穏な気配を察知する
脳筋のメルキンにビビりつつも、俺は兵士達が怪我をした理由が気になった。あんなことがしょっちゅうあるのか、それともたまたまだったのか、なぜかとても気になるのだ。胸騒ぎがすると言ったらいいのかもしれないが、何故か調べてみる必要があると思う。
そこで俺達は話し合い、ゼリスの使役するネズミにそちらの情報も調べさせるようにした。今のところ、ソフィアが来ているといった情報は無く集中して事故の事を調べた。
そして見えて来た事がある。
夜になって俺達は、シーファーレンの部屋に集まり結界を張って、その話し合いをしていた。
「事故が頻発しているなんてね」
「そのようです。ほとんどが間一髪のようですが、今回は多くの兵に被害が出たようですわ」
「どう思う?」
「故意の可能性があると思われますわ」
確かにシーファーレンの言うとおり。マルレーン家がこちらに向かっているこのタイミングで、王宮の兵士達に事故が頻発しているなんて、偶然と流しては良くない気がする。たまたま今回大きな事故で俺達が知る事になったが、何か不穏な空気が流れている事は、ゼリスの鼠の視覚からひしひしと伝わって来た。
「何もなかったなら、私も見逃したかもしれなかった。でも、マルレーン家の隠れ家に出た、あの邪神ネメシスの手先の事があるからね。こちら方面に、マルレーン家が逃げたのを知って追ってきているのは明らかだし。先回りして、何かをしようとしていると考えられる」
「その通りでございますわ。何か罠を仕掛けようとしているのか、先回りした手先が、何かをしでかしてる可能性はありますでしょう」
「もしくは本体ね」
「はい」
するとアンナが言った。
「ヒストリア王国の状況と照らし合わせて考えれば、似たような事をしている気がする」
「似たような事?」
「出来るだけ、軍部の力をそいで王都の護衛を減らす。王都中をかき回して兵力の分散を企んでいるかもしれん」
「そうだね」
そう。ネメシスはヒストリア王国で、用意周到に貴族や軍部に入り込み、その力を削いでいった。俺が気になったのも、間違いなくそれ。ヒストリアで起こった事を、この国でも起こそうとしている気がするのだ。俺がヒストリア王国の現場で直面したから、体感的に感じ取れたのかもしれない。
そしてシーファーレンが言った。
「邪神は…次に…この国を標的にしているのではないでしょうか?」
「この国を…か」
「先にアルカナ共和国に入り込んだネメシスは、東スルデン神国やズーラント帝国を籠絡して、ヒストリア王国に攻め入らせようとしていました。もしかすると現在友好関係を結んでいる、このトリアングルム連合国にも入り込もうとしているのかもしれません」
「…それだと、この国に逃げ込んだマルレーン家は、良い火種になる可能性があるか…」
「はい…」
ダメだ! ダメダメダメ! そんなことしたら、ソフィアがめっちゃ危ない! あー、イライラする! 邪神ネメシスはどこまで俺の嫌な事をすれば気がすむんだ! くっそ!
「このままじゃ、この国にもヒストリア王国にもまた多くの血が流れる」
「それがネメシスの狙いかと」
シーファーレンの言うとおりだろう。とにかくこのまま進めば、邪神ネメシスの思い通りになってしまう。そうなれば、マルレーン家がヒストリア王国を売った形になるかもしれないし、もしかしたらトリアングルム連合国が、マルレーン家を処刑しそれが戦争の火種になるかもしれない。俺達はとても危うい状況の、真っ只中にいる事を知るのだった。
そんな時だった。
コンコン!
隣の俺の部屋に誰かが来た。俺達は小さな明かりをフッと消して、じっと息を潜めて聞き耳を立てる。すると声が聞こえて来た。
「なんだ…もう寝てるのか…」
カイトだ。どうやら、今日もカイトは俺の部屋に訪問して来たらしい。たまたま部屋にいないので、明かりはついていなかったが、俺が寝ていると思ってくれたらしい。
足音が遠ざかり、俺達はこっそりいう。
「馬鹿王子が、地味な薬師にちょっかいをかけに来てる」
「自分達の国の足元で、良からぬ者が動いているかもしれぬと言うのに」
「ネメシスはそう言う所に忍び込むからね。とにかく明日からも、注意深く監視するしかない」
皆が頷く。そして俺はシーファーレンに言う。
「あいつ、また来るといけないから。一緒に眠っていいかな?」
「もちろんでございます! ベッドは一つしかございませんが、それでもよろしいですか?」
むしろ大歓迎。今の怖い話の後に、一人で寝るなんて出来ないもん。俺は青い顔をしつつも、ついシーファーレンの胸元に視線が行く。
「じゃあ、みんなは部屋に戻って」
だがマグノリアが言う。
「あの…怖いです…、床でもいいのでここで眠りたい」
「僕も…」
姉弟が震えている。怖いのは俺だけじゃなかったようだ。
だがアンナがみんなに言う。
「まだここは危険じゃないと思う。そんな気配はない。それぞれの部屋で問題は無いと思うが」
だが姉弟はフルフルと首を振った。そこで俺が言う。
「でも明日も仕事があるし、流石に床じゃ…」
ネル爺が言った。
「ならば今日は二つの部屋に分かれるがよろしい。わしとリンクシル殿でマグノリアとゼリスを交代で護衛しましょう。聖女様とシーファーレン様、クラティナはアンナ殿一人でよろしいかな?」
「かまわん」
そうして俺達は隣同士の部屋に分かれて寝る事にしたのだった。むしろ夜這い王子が来るかもしれないし、明日からも毎日この構成で良いと思う。
俺は服を脱ぎながら、そんな事を考えていたのだった。




