第277話 深夜のエロ来訪者
とりあえずカイト王子ってやつが、非常にドライな奴だと分かった。警戒するべき相手なので、ぼろを出さないよう対応はシーファーレンか俺がする事にする。
そして俺達は密かな話しあいの後、さっそく仕事に取り掛かる事にする。この世界の屋敷は、前世の住宅よりも気密性が悪くあちこちに隙間があった。その為、小さなネズミが入り込んでおり、ゼリスがテイマーの力で呼び寄せる。いま、ゼリスの目の前には、ネズミが整列をし静かに待っていた。
「まずは、情報を集める必要がある。この好条件を無駄にすることは出来ないからね。王城だけじゃなく、周囲にある屋敷にもネズミを潜ませておいた方が良いね」
「はい」
「あとは身代わりに出来るような人を探そう。魔道具で入れ替わって自由に王城を徘徊できるような人が良いね」
「わかりました」
ゼリスの指示で、ネズミ達が一斉に部屋から出て行った。
すると今度はクラティナが声をあげた。
「あの」
「ん?」
「万が一の為に、いろんな薬を作っていた方が良いと思います」
「いろんな薬?」
「明日の朝から準備するので、見てもらいたいです!」
クラティナも何とか役に立ちたいと思っているらしい。いろんな薬というのが何を指すのか分からないが、とにかく自由にやらせてみる事にしよう。
「良いんじゃない?」
それを聞いたシーファーレンが言う。
「あの倉庫を見て、薬師魂に火がついた?」
「はい! シーファーレン様! あれほどの材料を手にする事など初めてです!」
「手伝うわ」
「ありがとうございます」
二人がとてもうれしそうにしている。
「随分嬉しそうだ」
「かりそめの住み込み薬師でございます。好き勝手やったところで、いずれ逃げ出す事を考えましたら、思う存分試したい事がございますわ」
シーファーレンはしたたかだ。この状況を最大限に利用して、薬の研究に勤しむつもりだ。
「良いと思う」
「面白い事が出来そうですわ」
そしてアンナが言う。
「念のため言っておくと、場内のあちこちに監視がいるぞ。恐らく我々を警戒しての事だと思うが、教会で向けられたような視線を感じる」
皆がアンナを振り向いた。
「あの教会で追跡された?」
「そうだ。気配は近いものがある。恐らくは王城周辺を警戒している奴らも、同じ類の奴らだ」
「なるほど。カイト王子は手放しで私達を受け入れてはいないと言う事か」
それを受けてシーファーレンが答える。
「それは承知の上。王城に入る身元の不確かな者に、全く監視がつかない事は考えられませんわ。むしろ身元不確かな者を入れたのは、カイト王子の独断だと思われます」
「彼の性格のおかげで潜り込めたという事か…」
「そうだと思います」
するとネル爺が言う。
「わしは何をいたしましょうや」
「監視が周りに居るとなると、いざという時クラティナやマグノリア達が危険に晒される。なるべく固まっていた方が良いと思うから、ネルさんとリンクシルは常に薬の調合に助手としているべきかな。私とシーファーレンが動く時は、アンナが単独で護衛するしかない」
「わかりもうした」
そんな話し合いをしている時だった。アンナが言う。
「誰か来る」
「えっ? こんな夜更けに?」
「やり過ごしましょう」
俺達が息を潜めて、廊下に意識を集中していると、なんとその足音が俺の部屋の前で止まる。
コンコン!
「「「「「「「!!」」」」」」」
なに?
「はい」
俺が返事をすると、廊下から声が聞こえて来る。
「あー。僕だけど」
カイト!
「どうされました?」
「もしよかったら扉を開けても良いかな?」
うそだろ! 嗅ぎつけられた?
俺がシーファーレンを見るが、結界はきちんと張っていたという意味で首を振る。だが声が漏れたのだろうか?
「しょ、少々おまちください! どうされました?」
「いやあ…君の話をもっと聞いてみたいと思ってね」
「私のお話でございますか?」
「とにかく顔を見せて欲しい」
俺は慌てて変装のペンダントをつける。皆に目配せをすると、アンナとリンクシルがベッドの下に潜りこみ、シーファーレンとクラティナがクローゼットに隠れる。ネル爺はサッとカーテンの後ろに隠れた。そして俺は、マグノリアとゼリスの手を握りここにいるように促す。
「いて」
二人がコクリと頷いた。俺は急いでドアにいって開ける。
「どうされました?」
「ああ…あれ。一人じゃないんだ?」
カイトは一人で来ていた。室内を見渡して、マグノリアとゼリスを見つけて言う。俺はそれを振り向いて言う。
「二人はまだ子供ですので、夜が怖いと申しております。私と一緒に寝たいと部屋に来たのです」
「…そうか…出来れば二人きりで話がしたかったけど」
「すみません。初めての場所で二人が怖がっております。それに夜に殿方が一人で女性の部屋に訪れるのは、この国の習わしか何かでしょうか?」
「いやそう言う訳じゃないんだ。まだ初日だからね、そりゃ慣れないよね。小さい子には怖いかあ」
「そうですね」
「分かった。ゴメンね、じゃあ夜も遅いし休んでくれ」
「そうさせていただきます」
「じゃあ、明日からもよろしくね!」
なにが? 薬作りだよな? 薬作りの事だよな!
「は、はい」
パタン。そうしてカイトが出て行った。俺が直ぐに鍵をかけると、みんながぞろぞろと出て来た。アンナなんかは、剣を抜いていたようだ。
「焦った」
するとシーファーレンが怒りをあらわに言う。
「まったく! 夜更けに女性の部屋に来るなど失礼ですわ! あの王子は評判通りのようです」
「確か…女にだらしないだっけ」
「はい」
「何かあれば斬るところだった」
「アンナ。それは最終手段にしておこうか?」
「ああ」
夜更けの来訪者に、俺達はまた違う危機感を覚えるのだった。




