第270話 手ごたえを感じられなかった夜に
聖女の話題になり、俺がちょっと静まり返ってしまうも男達はかまわず話を続ける。
「なんでも、ワイバーンを仕留めたらしいという話も聞くぜ」
いや。それは俺の魔法で麻痺らせて、騎士団がとどめを刺したんだ。俺が一人でやった訳じゃない。
「そう、なんだ…」
「なんだ? 知らねえのかい? 近隣諸国では有名な話だぞ」
知ってるけどさあ。
「多少は耳に入るけど…」
「それだけじゃないぞ! なんでも西側の国家に睨みをきかせて、侵攻してこないようにしてるらしい」
それは初耳だ。
「そうなの?」
「あんたら、あちこち行ってる割には、なんにも知らねえんだな?」
「詳しく聞かせて欲しい」
「なんでも、東スルデン神国が侵攻しようとしてたらしいんだ。だがそれをいち早く察知した聖女が、西側に駆けつけて睨みを聞かせたおかげで止まったらしい」
確かにヒストリアの西側には行ったけど、あれがそんなに効果あったって事? 騎士団に潜り込んでいた、ドペルって男も逃がしたし上手くいった感じはしないんだけど。
「そんな事があったんだ」
「なんでも、東スルデンの貴族に天罰が下りたらしい」
あっ…。ゼリスを助けに行った時に、そう言えば貴族をやった記憶があるな…。
「そうなんだね。神通力…か…」
「怖えだろ?」
「怖いかも」
なんかシーファーレンとアンナが今にも笑いそうだ。とりあえず俺は話を変えようと思う。
「それより。この国の王子なんだけど、結婚の予定とかないの」
「第一王子には許嫁が居たはずだが、次男と三男に関してはまだ話はないんじゃないか」
そいつは問題だ。
「なんか、色恋の噂とかそういうのは?」
「やっぱ女ってのは色恋沙汰が好きなんだな」
「まあ…そんなところかな」
「次男が堅物らしくて、三男はあちこちで噂を聞くかも」
三男が、ヤリ〇ンって事? 次男堅物? じゃあ警戒すべきは三男坊って事か。
「ふーん。王室はそう言うのは自由なのかな」
「そりゃそうだろ。第一王子が決まればそれでいいし、次男は堅い男だ。三男まではまわらんと思っているんじゃないか」
「なるほどね。王子様の結婚相手って、どういう人なんだろう?」
「もちろん国内の大貴族様か、小国の姫様なんてのも聞くなあ」
「他国の大貴族とかは?」
「それもあるんじゃねえか」
「なに!」
「ど、どうした?」
「い、いや。そう言う事もあるんだなて思ってね」
すると男達が笑って言う。
「おまえらが、どう頑張ったって選ばれねえから安心しろ」
そりゃそう。選ばれたくもねえし。
「そんなことはどうでもいい」
「とかなんとか、詳しく聞いて来るって事は妾にでもなりてえと思ってんじゃねえのか?」
すると、アンナとシーファーレンの表情が険しくなる。そしてシーファーレンが言った。
「王子とかに興味があるわけがないじゃない」
「そうか? 妾でも、選ばれれば一生安泰だぜ」
「妾など」
「まあ、どんな暮らしになるか想像つかねえけどな」
すると冒険者が口を挟む。
「なあなあ、王子なんてどうでもいいだろ。な、どうだい? 俺とどこか楽しい所にしけこむっつうのはよ? 王子なんかよりずっといい思いさせてやるぜえ」
めっちゃくちゃいやらしい顔をして、冒険者が俺の肩に手を回そうとした。
パシィィ・・・
冒険者の手が、天井を向いて挙手しているようになっている。
「あれ?」
するとギルドの男が言う。
「なにやってんだ?」
俺には分かる。アンナが目にも見えぬ早業で男の手をはじいたのである。その勢いとスピードで、男が気が付かないうちに挙手しているような状態になっただけだ。男はなんの事か分からず、また俺の肩に手を回そうとした。
コン。
男が白目をむいて倒れそうになったところを、アンナがグイっと掴んで言う。
「悪酔いしたか?」
するとギルド職員の男が言う。
「そのようだ。上機嫌で飲み過ぎたんだろ」
「受け取ってくれ」
「あ、ああ」
アンナが意識を刈り取った冒険者を、ギルド職員が受け取る。
「コイツはBランクの冒険者で、酒ももっと強いはずなんだがな。今日は悪酔いしちまったか」
「そのようだ」
そしてシーファーレンが言う。
「さて。わたしたちはそろそろ行こうかしら。お勘定をお願いしまーす」
「あいよ!」
店のおばさんが来て金額を言ったので、俺がそれをテーブルに置いてギルド職員たちに言う。
「いい情報をありがとう。まあ、そいつには、酒はほどほどにと伝えてね」
「わかった。仕事頑張りな」
「あいよ」
そして俺達は酒場を出た。夜の街はまだまだにぎわっており、情報を取るならもう一軒くらい回ってもよさそうだ。だがシーファーレンが言う。
「帰りましょう」
「えっ?」
するとアンナも言った。
「そうだな。へんな虫が多い」
「そうか…なら帰ろう」
酒場一カ所だけで、結局帰る事になってしまう。どうやら二人は気にいらない事があったらしいが、確かに男に馴れ馴れしくされるのは俺も不慣れだ。シーファーレンがようやくそこに気が付いたらしい。万が一男達がノリノリで強硬手段に出てきたら、アンナが殺すかもしれないし、俺が電撃をお見舞いしてしまうかもしれない。
屋敷に帰ると、皆が部屋で待っていてくれた。
「お帰りなさいませ!」
ネル爺が声をかけて来る。
「ただいまー」
「何か情報はとれましたか?」
「三人の王子の話を聞けた。第一王子に許嫁が居て、第二王子が堅物、三男が遊び人という事くらい」
「なるほどでございます。他には?」
「それだけ」
「な、なるほどでございます! いや! 非常に重要な情報でございましたな!」
「今日は正直なところ、ネル爺が一番の功労賞じゃないかな。教会でも酒場でもろくな情報が取れなかったし、どちらもうわさで分かる程度の話だった」
「そ、そんな事はございませぬ! 市場にていろいろと仕掛けて来たのでございましょう?」
「それはそうだけど」
「あした! 明日分かるでしょう!」
「とにかくもう今日は休もう」
「は! かしこまりました!」
そう言ってネル爺は一階に降りて行き、マグノリアとゼリス、リンクシルとクラティナが隣の部屋へ行った。
そしてシーファーレンが言う。
「すみませんでした。日中はあまり良い情報が取れませんでしたので、なんとか酒場でと思ったのですが」
「いやいや。シーファーレンのせいじゃない、私の話題を出されて頭が真っ白になってしまった」
「致し方ありません。むしろ聖女様の武勇伝が周辺各国に周っていると知れただけでも、大きな収穫だと思われますよ」
「明日はきっと良い話が聞けるよね」
「今日タネをまいた事が明日芽吹くかもしれませんね」
「今日のところはもう寝よう」
「そういたしましょう」
「アンナも休むといい。特に危険性はないみたいだ」
「そうしよう」
「では体を綺麗に致しましょう。少々お待ちください」
そう言ってシーファーレンが部屋を出て行きすぐに戻って来た。すると宿の人間がタライと水とタオルを持って上って来る。
「ではおやすみなさい」
そう言って宿の人間が出ていく。タライに瓶からお湯を注ぎながらシーファーレンが言う。
「体をお拭きしましょう」
高級ホテルとは違い、ここには浴場が無いらしい。いつもならばミリィがやってくれるのだが、いきなりシーファーレンが申し出て来た。
「あの…」
「女同士です。お気になさらず」
「そうだよね…」
そして俺が服を脱ぎだす。下着まで脱いだが、どうしようかな?
「上を全部お脱ぎください」
「あ、そうだね」
俺が上半身全てをぬぐ。するとタライに注がれたぬるま湯にタオルを浸して、シーファーレンが俺の体を拭き始めるのだった。
なんだろう。なんとなく普通に風呂に入るのとは違う背徳感がある。
「きもちいい」
「それはよかったですわ。では失礼して前もお拭きいたしますね」
今日は比較的失敗した感じだったが、優しいシーファーレンの手つきに癒されていく。シーファーレンとアンナが見守る中で、俺だけ上半身裸というのは別の意味でドキドキしてしまうのだった。




