第267話 教会で追跡者に遭遇
俺達が信仰している女神フォルトゥーナは、全ての神の母とも言われている。だから信仰する国も多く、また違う神様を崇拝していたとしても、それはフォルトゥーナの子だったりする。この国の教会に来てみて、ヒストリア王国の教会とは少し趣が違うのがわかった。フォルトゥーナだけが祀られているのではなく、数々の神の像があちこちにあったからだ。
「こういう感じなんだね」
「他国の教会は初めてですか?」
「そうだね」
「このトリアングルム連合国は、元々数か国に分かれていましたからね。それぞれの国で祀られていた神々がまとめて祀られているのです」
流石は賢者。いろいろと知っている…っていうか、このぐらいは知っておかねばならないような気がする。なんたって俺は聖女なのだから。
俺達三人は修道服に身を包み、教会の大聖堂へと足を運んでいた。流石に王都の教会本部だけあって、かなりの大きさで人がたくさん通っていた。どうやら出入りが自由らしく、勝手に祈りを捧げて良いみたいな感じだ。
俺達が礼拝堂に入っていっても、特に気にする人もおらず難なく奥まで進む事が出来た。するとこの大聖堂に勤める修道士を見かけたので声をかけてみる。
「失礼します」
「はい」
「私達は、隣国から来た修道女です。女神フォルトゥーナを信仰しておりますが、礼拝をしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん大歓迎です。遠いところよくいらっしゃいました」
なるほどだいぶオープンな感じだ。
「こちらの司教様はどちらにおいでですか? ご挨拶を申し出たいのですが」
「少々お待ちください」
いきなりではあるが、対応も丁寧で問題なさそうだった。俺達がそこで待っていると、先ほどの修道士がやってきてついて来ても良いという。俺達三人は黙って修道士について行った。
大きめの扉を開けて中に入ると、なかなかに血色のいい法衣を着た健康そうなおじさんがいた。俺達に歩み寄ってきて、深々と礼をしてくれる。
「急な訪問で申し訳ございません」
「いえいえ! 隣国からのお客様とあれば、お会いするのはやぶさかではありません」
「それはそれは」
「どうぞ」
俺達は進められるがままに、応接用のソファーに座る。
そして俺が司教に話をする。
「恐れ入りますが。こちらのお国では様々な信仰がなされているようです」
「元は違う国同士の集まりですからね。ですが大元は皆同じ、女神フォルトゥーナ様に繋がっております」
それは良かった。
「貴族様や王族も巡礼をしに来ますか?」
「はい。日にちが決まっております。今日は一般の信仰者に解放しております」
「日にちが決まっている? 熱心な信徒でいらっしゃるのですか?」
「そうですね。基本は皆さん熱心に信仰されております」
「すばらしいですね」
「はい」
そして俺はシーファーレンと目配せをしながら質問を続けた。
「例えば隣国の貴族様や王族がいらっしゃることはありますか?」
「それは特別な時だけですね。正式に来訪された時に立ち寄る事などはあります」
「お忍びで来ることは?」
「どうでしょう? もし一般人に紛れていれば、気が付く事はないでしょう」
なるほどね。そりゃそうだ。
「最近それらしい人が来た事などは?」
「聞き及んでおりません」
「そうですか。私達も学びの為に遣わされたのですが、いろいろと勉強になります」
「その言葉遣いから察するに、ヒストリア王国ですかな?」
バレた。でも仕方ないか…国の訛りというのは出てしまうものだ。
「そうです」
「本部から?」
「まあ、そんなところです」
「教皇様はご健在ですかな?」
ああ、元気でウザいくらいだ。
「はい。最近はいろいろとお忙しくしておられるようですが」
「そうですかそうですか。お元気ならば何よりでございます」
なるほど。コイツは何も知らんな。じゃあもう用は無い。
「とにかく平和が一番でございます。さて、長居も申し訳ないので、私達はこのくらいで失礼したいと思います。こちらの教会では初めて見る物もございますので、ゆっくりと見学をさせていただいてもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ」
「お忙しい所、お時間を割いていただきありがとうございました」
「いえ、こちらこそ貴重なお話をありがとうございました」
そして俺達は司教の部屋を出て、礼拝堂に戻って来た。
「多分マルレーン公爵家はまだ来ていないんじゃないかな?」
「そのようでございます」
「一般人として入り込んでも、護衛をつけるだろうしすぐばれるだろう」
「ですね」
「ただし、王族や貴族が定期的に巡礼しに来るらしいね」
「我が国のお偉方に聞かせてあげたいと思います」
「まったくだ。そのせいでつけ入れられたからね」
「はい」
だが王族がここに来る可能性はあるという事が分かった。流石に日にちまでは聞けなかったが、もし数日以内ならば接触する機会もあるかもしれない。
俺達が教会の中をあちこち見回っていると、アンナが俺にこっそりいう。
「オリジン。おかしな気配がする」
「…どんな?」
「見られている」
「見られてる?」
そして俺が不意に振り向こうとすると、アンナが止める。
「振り向くな」
「わかった」
するとシーファーレンが言った。
「オリジン。ここはこのまま出た方がよろしそうですわ」
「そうしよう」
そうして俺達は教会を出た。アンナが俺に言う。
「ついて来た」
「ついて来た?」
「巻くか?」
するとシーファーレンが言う。
「市場に紛れ込みましょう」
「わかった」
そして俺達が市場へ入った。アンナが言うにはまだついてきているらしい。
「オリジン。路地に」
「ああ」
俺達三人が路地にはいる。
「ペンダントを入れ替えましょう」
俺達は建物の陰に隠れて、変装用のペンダントを交換した。修道女から一気に三人の町娘になる。そしてシーファーレンが言った。
「テン達の屋台を探しましょう」
「ああ」
そして俺達はそのまま反対の通りに出て、クラティナ達をさがした。
するとアンナが言う。
「巻いた。ついてきてない」
「よし。そのままクラティナと合流しよう」
俺達がしばらく探すと、クラティナと変装しているリンクシルが屋台を広げていたのだった。そこに近づいて言って、シーファーレンがクラティナに声をかけた。
「私たちも手伝います」
「あ、シーッ! ゼロ!」
「流石はテンね。もう店を見つけたのね」
「はい」
そうして俺達はクラティナの店に入り、店を手伝い始める。ここで追手の事など話すと感づかれるかもしれないので、普通に町娘に成りすまして働くのだった。




