第264話 新たな冒険者パーティーの増員
ネル爺の屋敷に行く前までは、俺に対していい思いを持っていなかったクラティナの様子が変わる。攻撃的な視線は無くなり、俺に対して何処かおどおどしているような雰囲気になった。
そしてびくびくしながらも、自分の屋敷へと寄ってくれという。
シーファーレンがクラティナに言う。
「私達は急ぐのよ? クラティナ」
「と、とにかくお願いします!」
シーファーレンが俺を見るので、俺は頷いて言う。
「いいんじゃないかな? いろいろと働いてくれたし」
「では行きましょう」
するとクラティナは、挙動不審な感じに俺に言う。
「あ、ありがとうございます」
なるほど…。俺が聖女だと知ってビビってるのだ。シーファーレンがそこはかとなく伝えていたが、自分が思っていたよりも想像を上回っていたのだろう。別に俺としては、そんなに恐縮しなくても問題ないのだが、彼女にとってはかなりの無礼を働いてしまったと思っているようだ。
俺が声をかける。
「クラティナ」
「はっ! はい! すみません!」
「別に謝るような事はしていないから謝らないで」
「いえ、国宝級のようなお方だと知らなかったので!」
「大した者ではないし」
するとネル爺が横やりを入れて来る。
「いいえ、世界を守る守護神の神子であらせられます。クラティナのようになるのも無理はないかと思われますが」
「えっと…」
俺がちょっと困っていると、シーファーレンが言う。
「ネルさん。ちょっとよろしいかしら?」
「は、はい!」
「その…、これから旅をするうえで、上下関係があるのはあまりよろしくないのですよ。そのように接せられると、聖女様が高貴な身の上だとバレてしまいます。それだと敵に狙われやすくなるかもしれませんの、ですから私達は違う名で呼び合っているのです」
「も、申し訳ございません!」
「だからそういうのを止めていただいて、そうですねネルさんは…賢者という事にしましょう」
「は?」
「ですから、ネルさんは賢者としてふるまわれるとよろしい」
「い、いやいや。賢者様と言えば…それこそ、王に直接ものを言えるお方…」
するとクラティナが言う。
「ネル爺。この人が…」
そこでシーファーレンがクラティナの口を塞いだ。
「この人が?」
「この人…の…言うとおりにした方がいいよ」
「そうか…そうじゃな」
そこで俺が言う。
「まあ賢者と呼ぶのはあれだから、ケンというのはどうかな?」
「は! それではそれで」
「あとへりくだるのも無しにして」
「わかりま、わかったのじゃ!」
クラティナの家について、俺達がリビングで待たされ、クラティナが屋敷の奥へと進んでいった。しばらくすると、奥から大きな背負子を背負ったクラティナがでてくる。それを見てあっけにとられた俺達を代表して、シーファーレンがクラティナに聞いた。
「あの…なんですか? それは?」
「はい! 必ずお役に立ちます! これには旅に必要な薬ものがいっぱい詰まってます!」
「え?」
クラティナも行くつもり?
「では皆さんよろしくお願いします!」
するとシーファーレンがクラティナに言う。
「あなたは勘違いをしている。迎えに来たわけじゃないのよ」
「いえ! シーファーレン様のお側にこんなに人がいたら心配で…」
「えっ?」
「いえ! シーファーレン様のお役に立ちたいとずっと願って生きてきました! 連れて行ってください!」
「何を言っているの?」
「お願いします!」
うーむ。どうやらついて行く気マンマンらしい。
「危険なのよ?」
「承知してます!」
「邪神の手先がくるかもしれないのよ!」
「平気です!」
シーファーレンが困り出したが、俺がクラティナに聞いた。
「あのね。気持ちは分かるんだけど、いざという時は自分で命を守る必要だってあるんだよ」
「大丈夫です!」
「いや、あんな化物が来たら」
「大丈夫です!」
するとそこでネル爺が言った。
「聖女様。願わくばクラティナも連れて行ってはいただけませんか?」
「……」
「私奴はクラティナの気持ちが分かるのです!」
はあ…。
そして俺は折れてしまう。
「仕方ない。ではもう一度打ち合わせをしましょう」
「はい!」
「ありがとうございます!」
「では偽名から覚えてね」
俺がオリジン、アンナがエンド、シーファーレンがゼロ、リンクシルがファイ、マグノリアがシクス、ゼリスがナイン、ネル爺がケン。そして俺はクラティナに言う。
「クラティナはテン。いい?」
「はい!」
そうして俺達はクラティナという荷物持ちを仲間に入れたのだった。クラティナは屋敷の前に薬箱を置いて、それぞれに名前を書いた紙を張っていく。どうやらお客が薬を取りに来た時、勝手にそれを持って行けと言う意味らしい。
屋敷を出て俺達が庭に集まり、変装のペンダントをつけた。それを見てネル爺がまた驚いている。だがそんな事は無視して、そこに集まっていろいろ話しているとネル爺が口を挟む。
「関所に向かわないので?」
「ああ。関所は通らない」
「どういうことで?」
「すぐにわかる」
俺達の身分を隠して通り、関所でなんかバレたら大事だ。だから俺達は違うルートで隣国に入るつもりだった。そうこうしているうちに、空から馬車をつけたヒッポが降りて来る。
「うううわぁぁぁああ! ま、魔獣じゃあ!」
ネル爺が剣を抜くが、その喉元にアンナが剣を突き付けて言う。
「剣を降ろせ。あれは聖女様のものだ」
「は、は?」
「剣を仕舞え」
ネル爺は慌てて剣を腰にさして、呆然とヒッポを眺めている。
「では、みなさん。馬車に乗り込んでください。テンの背負子は、馬車に括り付けよう」
そうして巨大な背負子を馬車の屋根に括り付け、マグノリアがヒッポに命令をして、俺達は東に向かって飛んでいくのだった。関所は通らずに険しい森の上を飛んで、あっという間にトリアングルム連合国の領地へと侵入していく。ネル爺とクラティナが驚いている。
「と、飛んでいる…」
「そうです。これが私の足です」
「聖女様の足? という事は…あれは…魔獣では無く、神獣?」
いや、魔獣だけど。
「そうなのかもしれませんね」
森を抜けた先には、隣国の最初の村が見えて来た。そして俺はマグノリアに言う。
「離れた草原におろして」
「はい」
ヒッポは静かに草原に降り立ち、俺達は馬車を降りた。天井の背負子を外して、クラティナが背負い俺達は街道に向かって歩き出すのだった。




