第257話 女冒険者パーティーの事情
俺達四人は寝静まった街の暗がりを縫うように歩いた。公爵家が隠れ家にするなら、ある程度の守りは固めているだろうと考え、高い塀で周りを囲んだそこそこ大きな屋敷を見つける。
「大きな屋敷はここしかないね」
「そのようですわ」
俺達は屋敷の裏手で、シーファーレンが用意した魔道具の指輪を身に着けた。魔石が嵌め込まれてあってそこに魔法陣が刻まれている。これをつけると物音を立てなくなるんだそうだ、原理は分からんが助かる。
アンナとリンクシルが先に壁を飛び越えて中に入り、俺はシーファーレンのフライで音もなく侵入した。屋敷に近づくが特に兵士が守っているわけでもなく、容易に壁際までたどり着く。
「ベランダから入ろう」
同じ要領で二階のベランダに昇り、さっと窓際に寄る。取っ手に手を降ろすと、なんと鍵はかかっておらずに難なく開いた。
「うーん。こりゃ望み薄かも、不用心すぎる」
「かもしれません」
公爵家が、こんなに無防備なわけは無かった。俺達が音もなく侵入すると、部屋の中心にベッドが置いてあり二人が寝ていた。そして俺が言う。
「家の人だろうか?」
「そのようです」
そして寝顔を覗き込んだ。
「じゃ、違う。マルレーン公爵じゃない」
「違いましたか…」
「影武者か何かだろうか?」
「どうでしょう? それでは娘さんがいるかお探ししましょう」
「わかった」
そして俺達はそっと部屋を出て、片っ端から部屋を開けて行く。するとある部屋のベッドに、女性らしき人が寝ているのを見つけた。部屋の雰囲気からしても貴族か領主の娘だろう。俺達がそっと近づくと、何かの気配を察したのか娘が起きてしまった。音を消す魔道具をつけているが、正面に来たら分かってしまうので部屋の暗がりにしゃがみ込んだ。
「あら? 扉が開いている」
明らかにソフィアじゃなかった。その子がドアを閉めている間に、俺達は窓を開けて外に飛び出す。茂みに隠れて窓を見あげると、不思議そうな顔で外を見ている女の子がいた。俺達は音もなく敷地を出て路地裏に隠れた。
「恐らくここの町長か何かだろうね。ソフィアじゃなかった」
「そのようですわ。他にめぼしい建物は無いようですが」
「もしかしたら町人に紛れて潜入している?」
「可能性がないとも言えませんが、この広い町内で探し当てるのは少々難しそうですわ」
「だよねえ。ギルドが都市まで絞ってくれたのはありがたいけど、何をもってここに逃げたかもしれないと思ったんだか」
「一度ひいて、やり方を変えましょう」
「そうしよう」
俺は肩に乗っている鳥に向かって言う。
「ゼリス、都市の外へ来て」
返事はないがきっとゼリスに届いているはずだ。俺達はそのまま暗がりを抜け、同じように柵を超えて外に出る。するとそこにヒッポの馬車が降りてきた。
俺達が馬車に乗り込んでマグノリアに言う。
「一旦離れよう」
「はい」
そうして俺達は都市を離れ、草原に降り立った。
「マグノリアとゼリスもこっちにおいで」
「「はい」」
マグノリア姉弟が馬車に乗り込んできた。すでにゼリスを通じて何が起きたか知っているようで、説明の手間が省ける。
「もしかしたら町人に混ざってるかもしれないんだ。だがどうやってそれを調べようかと考えていたところなんだよ」
するとマグノリアが言った。
「ゼリスが、マルレーン公爵様やソフィア様の顔を知っていれば良かったんですが」
「確かにね。そればっかりは知っている人しか確認しようがない」
「はい」
「夜明けと共に正面から入って調査しようか」
「それが有力かもしれません」
「女子供だけの冒険者パーティーって怪しまれないかな?」
シーファーレンがニッコリ笑って言う。
「変装のペンダントを使って、旅芸人として潜り込みましょう」
「そうしよう、なら朝まで馬車で休むとしようか」
それを聞いたアンナが言う。
「ではわたしと、リンクシルが交代で見張りに立つ」
「わかった」
ヒッポに繋がれた馬車は大きいので、体を丸めれば何とか六人は寝れる。俺は少しキツさを感じながらも横になった。するとシーファーレンの顔が俺の目の前に来て、たわわな胸が俺の体にあたっている。
ラッキースケベ! こりゃいいぞ!
そう思いながらも、シーファーレンに言う。
「きつくない?」
「聖女様とご一緒なら嬉しいばかりです」
えっと。どういう意味だろう?
しかし…さっぱり眠れない。目の前にシーファーレンがいるだけでドキドキしてしまい、目が冴えて眠れない。すると俺はなぜか突然尿意をもよおしてきた。
やっべ。パンパンだ。そう言えば夕飯食ってからトイレ行ってないぞ。
俺がもぞもぞしていると、アンナが俺に声をかけてきた。
「わたしが見張る。用をたせ」
流石アンナ、俺の事は何でもわかっているらしい。
「わ、わかった。ありがとう」
俺がそっと起きて、草原に降り立ち馬車から離れた所に行く。あたりは暗く、突然魔獣が出てきたらひとたまりもない。
「暗いね、大丈夫かな?」
「わたしが守る」
「わかった。じゃあそこにいてくれる?」
「ああ」
こう言う時、女は不便だった。男だったころならさっさとその辺で立ちションして終わりだったが、俺は急いでスカートをたくし上げてしゃがみ込む。
「ふぅ」
用を済ませて立ち上がると、馬車からもう一人が来た。
「すみません…私もよろしいですか?」
「アンナ、シーファーレンも見張ってあげて」
「わかった」
俺がすれ違いで馬車に戻る。よくよく考えると、女だけの野営って言うのはめっちゃ大変だ。アンナと二人っきりだった時は、気兼ねなく用をたしたものだが、六人にもなるとなかなかに面倒だと知る。俺が馬車に乗り込むと、マグノリアが半身を起こして目をこすっている。
「起こしちゃった?」
「大丈夫です。あの…私も」
連れション…。なぜかこういうものはつられてしまうものだ。ゼリスだけがやたらぐっすり寝ているが、恐らくはさっさと立ちションしていたのだろう。結局皆が帰ってきてからも、目が覚めてしまいそのまま朝日が昇ってきた。
「おはよ」
「おはようございます」
「こんな事なら、普通に日中に入って宿をとるんだった」
だがシーファーレンが笑って言う。
「聖女様。これが冒険者パーティーの常ですよ。だからわたしは一人で冒険していたのです」
「ごめんね。しんどいでしょう?」
「なにをおっしゃいます! 私はとてもうれしいのです! こうして聖女様と冒険が出来る事に感謝をしています!」
「そう言ってくれると嬉しい」
「しかも、ゼリスを除き全員が女性ですから、むしろとてもやりやすいですわ」
とってもいい人。俺が気を使わないように、気を使ってくれているのが分かる。
「もう少ししたら街に潜入するから、そうしたら宿を取って少し休もう」
「お気遣いなく」
俺達は馬車を降り徒歩で街に向かう。既に変身のペンダントを身に着けているので、皆が旅芸人に見えている。門に近寄ると、門番が出て来て声をかけてきた。
「随分早いな。夜通し歩いたか?」
するとシーファーレンが答えた。
「ええ、私達は旅芸人です。こう言う事は慣れっこですのよ」
「おお、旅芸人か! こんな僻地に良く来たな」
「ええ。通してくださる?」
「かまわん。入れ!」
俺達はすんなりと入る事が出来た。やはり変装しているとは言え、女子供を怪しむことはないらしい。だがいよいよこの地に公爵家がいる可能性は薄くなってきた。こんなに無防備なはずがない。
明るくなった街中を見ると、既に市民が右に左にせわしなく動いていた。どうやら旅人なども混ざっているようで、その服装はバラエティに富んでいる。
「隣国の人もいそうだね」
「そのようですわ」
国境沿いにある街だけあって、違う人種が混ざっているようだ。どうやらちらほらと獣人もいるようで、俺はチラリとリンクシルを見た。リンクシルも久々に獣人を見て、きょろきょろとしている。
雑多な人種の中では俺達はさほど目立たなかった。俺達はするりと街に溶け込むのだった。




