第256話 賢者の力を知る
シーファーレンを聖女邸に連れて来た俺は、すぐに執務室に連れて行って地図を広げて説明をする。これから確認しに向かう場所は三カ所、南東と南に位置する都市と村だ。シーファーレンは呑み込みが良く、一度説明しただけですべてを把握してくれた。
そしてソフィアの元へ向かうメンバーは、俺、アンナ、シーファーレン、リンクシル、マグノリア、ゼリスの六人。ヒッポに馬車を取り付けて、それに乗って行く予定だ。しかし俺のパーティーメンバーもだいぶ立派になったものだ。
「ちなみにコードネームを言うね」
「はい」
「私はオリジン、アンナがエンド、リンクシルがファイ、マグノリアがシクス、ゼリスがナイン シーファーレンはゼロでいい?」
「わかりましたわ」
「では夜の出発まできっちり腹ごしらえをしよう」
俺達が食堂に行くと、既にミリィ達が食事を用意してくれていた。俺達は席についてすぐに飯を食う。結構がっつり系で、しっかりと腹に溜まる物にしてくれている。
「お酒はお預けでごめんね」
「仕事の前ですわ」
「帰ったら打ち上げしよう」
「はい!」
シーファーレンが頬を染めて喜んでくれた。思わずその胸元に顔をうずめたくなるような笑顔だが、グッと我慢をして食事を続ける。その後、食事が終わって出立の準備をすることになった時、俺はシーファーレンにある物を差し出す。
「これなんだけど着てくれる?」
それは黒いローブで、実は俺のアラクネのローブとおそろいだった。漆黒のローブは夜に身を隠す事ができ、強靭で魔法も弾くのでかなり役に立つ。
「まあ! こんな高価なものを」
「私とお揃いで申し訳ないけど」
「聖女様と同じだなんて光栄ですわ。そうだ! せっかくだから魔法を付与いたしましょう」
「えっ?」
「ナイフと筆とお水をください」
「ただいま」
ミリィがナイフと筆と水瓶を持ってくる。
「この水がめ、後で洗ってくださいね」
「はい」
するとシーファーレンは自分の手のひらをスッとナイフで切った。血がぽとぽとと水がめの中にしたたり落ちていく。
「大丈夫?」
「ええ。ちょっとまってくださいね」
シーファーレンが水がめの上から手をひいたので、俺が回復魔法で傷を塞いだ。
「あら。わたくしでもできましたのに、聖女様から治していただけるなんてとてもうれしいですわ」
「痛そうだったし」
次にシーファーレンは筆を水につけて、アラクネのマントの裏側に何かを書き始めた。血が混じったとはいえ水で書いているので、何を書いているかは見えないが、筆の流れを見ると魔法陣を書いている事が分かる。シーファーレンが筆をおいて、アラクネのマントに手をかざし何か唱えた。するとアラクネのマントの上に、何重にも幾何学的な魔法陣が浮かび上がってきた。
「凄い」
皆も、その神秘的な光景に見とれていた。何重にも重なった光の魔法陣が、一枚一枚降りて行ってマントに消えた。
「定着しました」
「魔法が付与された?」
「はい。ではもう一枚も」
同じような作業でもう一枚のアラクネのマントに魔法を付与した。するとシーファーレンがニッコリ笑って言う。
「これで世界に二つとないお揃いのマントになりましたわ」
「何の魔法を付与したの?」
「自然治癒と毒効果無効、火炎と氷結に耐性をつけ、物理攻撃にも若干防御力が上がりましたわ」
すっご…
「ありがとう! かなりの強化になった!」
「でも過信は禁物です。マントが破壊されない訳ではありません」
「大丈夫。結界を張るから」
「それは頼もしい」
にしてもあっという間に魔道具にしてしまうその才能が凄い。皆も尊敬の眼差しでシーファーレンを見つめていた。するとその視線に気が付いたシーファーレンが、だんだん真っ赤になって来る。
これ以上見ていたら顔から火が出そうなので俺が言う。
「じゃ、いこっか」
「はい」
俺達が庭に出ると、ヒッポが空から降りてきた。マグノリアがヒッポに聞く。
「ご飯食べた?」
「ぐるぅぅ!」
「聖女様、万全です」
「じゃあ馬車を繋いで」
みんなが協力をして馬車を繋ぎ、マグノリアとゼリスがヒッポの背中に座った。
「じゃあ行って来る。朱の獅子は屋敷のみんなをよろしくね」
ロサが代表して答えた。
「任せてください。責任をもって護衛いたします」
「では」
すると聖女邸の皆が言う。
「「「「ご無事で!」」」」
「はい」
俺達四人が馬車に乗り込むと、新しいパーティーを乗せたヒッポは空高く夜空に舞い上がるのだった。
「マグノリア! まずは南東へ!」
「はい」
ヒッポがぐんぐんとスピードを上げ王都を飛び出した。夜の月が大きく輝き、ある場所から見れば一瞬月に馬車の影が映っただろう。暗い草原の上を飛ぶ窓から、シーファーレンが外を見て喜んでいる。
「こんな高く飛べるなんて凄いですわ」
「面白いでしょ」
「月がこんなに近くに」
「綺麗だよね」
シーファーレンの横顔が。
「ええ。月がとってもきれいですわ」
ヒッポのお腹も満タンなので、しばらくは休みなしで飛び続けるだろう。
そして数時間後の深夜、シーファーレンが言う。
「そろそろ目当ての都市が見えてくるはずですわ」
俺は前に身を乗りだし、ヒッポの背中にいるマグノリアに叫ぶ。
「マグノリア! 低く飛んで」
「はい」
ヒッポが降りるとそこは森の上だった。
「街道を探して」
旋回しながら飛んでいると、下に道らしきものが見えてきた。
「道沿いに飛んで」
「はい」
そして地面から三十メートルほど上空を、街道に沿って飛んでいくと道の先に都市が見えてきたのだった。
「降りて」
「はい」
マグノリアがヒッポを着陸させ。俺達は荷物を背負って街道に降りた。
するとマグノリアが言う。
「私を呼ぶときはこの鳥に言ってください。ゼリスが使役しています」
そう言うとゼリスの手からパタパタと俺の肩に鳥がとまる。青とグレーの綺麗な鳥で、頭の上に毛が立っていた。
「二人は、なるべく安全な所にいてね」
「はい! 大丈夫です!」
俺達が手を振ると、マグノリアとゼリスを乗せたヒッポが舞い上がった。俺達の上を一回旋回して月に向かって飛んで行く。
「じゃ行こう」
三人がコクリと頷いた。リンクシルが先行し、危険を察知出来る位置に着く。俺とシーファーレンがその少し後ろを歩き、俺達の後ろにアンナがついて来る。
「この都市にいると良いんだけど」
「そうですね」
「アンナ。万が一はシーファーレンを守ってね」
「そのつもりだ」
俺達は月夜の草原を歩き、夜の都市までもう少しの所で立ち止まる。門には見張りがいるが、女の集団が深夜に現れたら怪しむだろう。するとシーファーレンが言う。
「回り込みましょう」
「分かった」
都市を左手に見ながら、俺達は迂回するように茂みを回り込む。街を囲む柵はそれほど高くはなく、よじ登ればは入れそうだった。
「ここを登ろう」
「そんなそんな、聖女様にそんなことはさせられません」
シーファーレンが杖を高く掲げて言う。
「フライ」
スッと俺の体が浮かび上がった。
「えっ?」
俺は簡単に柵を飛び越えて都市の内部に入るのだった。今まではアンナに引っ張ってもらっていたが、なんとスマートな進入方法なのだろう。シーファーレンの凄まじい力に感心してしまう。アンナとリンクシルは自分で飛び越え、シーファーレンが最後にフライで飛んで入ってくるのだった。




