第251話 王都中に神聖結界を施す
賢者邸の研究室で、俺とシーファーレンがにらめっこをしながらある物を量産していた。それはヴァイオレットが実家から持ち帰った魔石に、シーファーレンが刻印を刻み込み、それに俺が神聖魔法を注入するという作業だった。シーファーレンが言うにはあるだけやってほしいという事で、俺は魔力が続く限り注入作業を続けた。
するとシーファーレンが言う。
「聖女様、目の下にクマが」
「魔力がかなり消耗してきているみたい」
「では一度お休みしましょう」
「分かった」
そして俺は大きく伸びをした。一気に睡魔が襲って来て、俺はその研究室に用意された仮眠ベッドに横たわる。それこそものの十秒も経たずに眠ってしまい、ぐっすり眠った俺が起きると隣にシーファーレンが寄り添って寝ている。実はずっとこれを繰り返しているのだ。寝ているのをいいことに、俺は思わずシーファーレンの胸に手が伸びそうになる。無意識に手が胸元にさしかかろうという時、薄っすらと目を開けるシーファーレンと目が合ってしまう。
「あ、起きた?」
「御触りになってください。もしそれで落ち着くのであれば」
めっちゃ癒しボイスで、やさしーく言ってくれる。だが逆にその事で俺の理性が目覚めた。
「いやいや。触ろうとなんかしていない、ちょっと起こさないようにしよう思ってただけ」
俺の苦しい言い訳を聞いて、シーファーレンが残念そうに言う。
「そうですか…。私はてっきり…」
「残念がらないで! 嫌って訳じゃないんだよ!」
「であれば!」
「今はほら! やる事があるでしょ!」
「そ、そうですね」
シーファーレンは胸元をそっと隠し、俺と一緒に起きた。リンリンと鈴をならずとシルビエンテがやって来る
「お呼びで」
「私と聖女様は食事をとって、お風呂に入るわ」
「ではご準備いたします」
とにかく膨大な量の魔石に刻印をして魔力を注ぐ作業は、かなり精神が消耗するのだ。あまり強く注ぎ込むと割れてしまうので、ゆっくりじっくり時間をかけて注ぎ込む。実は一気に放出するより、その微調整がめっちゃ難しい事が分かった。
「魔力の制御ってこんなに難しかったんだ」
「大変な思いをさせてしまい申し訳ございません」
「いやいや。シーファーレンの教えで、上手くできるようになってきたし制御が楽になった。今まで我流でやってきたけど、賢者に教えてもらう事でいろんな事が出来るようになったよ」
「大したものです」
「水魔法を制御できると、こんなにも技の幅が広がるんだって知った」
「それは聖女様が他属性でいらっしゃるからですわ」
「シーファーレンこそ、不得手な属性は無いでしょう?」
「器用なだけです。聖女様の様に突出した魔力量があるわけでも、強い雷魔法や神聖魔法が使えるわけでもありませんから」
「でもすっごく助かった。使える魔法がいっぱいあると気が付いたから」
「それは良かったです」
マジでそう。俺は前世のヒモの記憶と、聖女の記憶のハイブリッドだ。だが聖女はお世辞にも魔法が得意というわけではなかったし、俺に至ってはただ聖女の記憶に従って魔法を行使しているだけ。それが魔法の達人にならう事で、こんなに多彩な事が出来るようになるとは目からウロコだ。
更にシーファーレンの教え方も上手い。訓練しているわけでもなく、今必要な事を淡々とやるだけでいつの間にか新しい技量が身についているのだ。俺が前世の記憶をもとに魔法を合成していたが、そんなものとは比べ物にならないほど精密になってきた。
するとシルビエンテとメイドが料理を運んできた。俺とシーファーレンを気遣って胃に優しい料理が並べられる。
「いただきます」
「いただきます」
俺達は淡々と食事を終わらせて、今度は一緒に風呂に入る。ここしばらくは毎日のようにシーファーレンと二人で風呂に入っており、毎日、目の保養をさせてもらっているのだった。風呂からあがると、シーファーレンが俺の髪の毛を拭いて結いあげてくれた。本来はミリィの仕事だが、最近は不規則なため彼女ともすれ違いだ。
「続けよう」
「はい」
そして俺達は再び魔石に刻印を刻み、神聖魔法を注ぐのだった。そして数日、かなりの量が溜まった時にシーファーレンが言う。
「さてと、このくらいあれば王都はどうにかなります」
「どうするの?」
「全員が変装して、各地にちりばめていくのです」
「それで邪神は入って来れなくなる?」
「はい。神聖結界が邪魔をして入っては来れません」
「すぐやろう」
俺は皆を呼びつけて変装するように言った。皆が魔道具で別人になったところで、俺は刻印の魔石を皆に見せて言う。
「これを王都の市壁周りと、碁盤目に都市内に埋め込みます。ヴァイオレット、地図を」
「はい」
そう言ってヴァイオレットは、俺達の目の前に大量の地図を置いた。
「これに埋める場所を記してあります。一班二班三班にわかれて、各地域にそれを埋めていきましょう」
「「「「「「「はい」」」」」」」
そして俺が言う。
「念のため、一班は私とアンナが護衛に付きます。二班はシーファーレンとリンクシルが護衛に、三班は朱の獅子が護衛に着きますのでよろしくお願いします」
「「「「「「「はい」」」」」」」
俺達は袋に刻印の施された魔石を詰めこみ、それぞれの班に分かれて王都に散って行った。やる事は簡単で、人が気が付かないところを探しそこにこれを埋める。シーファーレン曰く、沢山の数があるので、数個欠損したところで神聖結界は動作するとの事。
それから数日かけ、俺達は王都中に神聖結界を張る事に成功したのだった。
「これで邪神は入り込まない?」
「はい。入れば力を吸い取られて、普通の人間以下になるでしょう。消えるあの技も使えません」
「わかった。それなら王城に連絡を取る事にしようかな」
俺は既にヴァイオレットにしたためさせていた手紙を、BARマドンナに持って行く。俺が騎士に連絡をつける時は、BARマドンナと決まっていた。恐らくこれで、王都内におかしな奴が紛れ込むことは無くなる。長い間時間をかけてやってきたが、ようやく根源を断つ事が出来るのだ。
今までは悪い司祭や貴族が敵だと思っていたが、俺はようやく真の悪を追い詰める為の第一歩を踏み出したのだった。




