第246話 決戦の前の麗しきひととき
これからやろうとしている事に危険が伴う事は、皆が重々承知していた。だがもう既に、水面下で後戻りできないところまで進んでしまっている。ここで言い出しっぺの聖女が引いてしまったら、一気に軍部の信用も失い二度と協力してもらえないだろう。
そこで俺はシーファーレンに頼んで、決起会を開いてくれるように言った。聖女邸の面々がここまで危険を顧みず、お膳立てしてくれた事の感謝をしたいと思ったのだ。
「シーファーレン。ありがとう、本当にうれしい」
「何をおっしゃいますやら。わたくしは全てを捧げるつもりですのよ、そして皆の顔を見てあげてください。既に覚悟を決めた表情をしているでしょう?」
聖女邸の面々や、マロエやアグマリナ、妹のダリアに至るまで真剣なまなざしで俺を見ている。
「みんな、ありがとう。本当に危険な中をあちこち奔走してくれたおかげで、国を救う事が出来る。一人一人の頑張りが無かったら、ここまでは到底来れなかった」
するとミリィが言った。
「シーファーレン様の魔道具によるところが大きいかと」
「ホントそう。シーファーレンありがとう」
「いえいえ。ヴァイオレットさんが魔石を大量に持ってきてくださったので、可能となった事です」
「少しでも力になれた事を嬉しく思います」
そして俺はシーファーレンに目配せをした。
「実は今日はお客さんもいるんだ。シーファーレン入れてくれる?」
「はい」
ドアを開けて入って来たのは、BARマドンナのミラーナ以下五人の元娼婦だった。本来は修道士として働いているのだが、モデストスの計らいで貸し出してもらっている。彼女らは騎士達の懐に潜り込んで、精一杯働いてもらったので、シーファーレンの魔道具をつけて連れ出して来たのだ。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
五人が礼をした。
「知らない人もいるかもしれないけど、本来は修道士である彼女らがBARマドンナで騎士達に働きかけをしてくれたんだ」
パチパチパチ と拍手がなる。
「これで立役者はそろった。無礼講で美味しい料理とお酒を楽しんでね」
皆がグラスを持って酒を注ぐ。全員が俺の方を向いたので挨拶をする。
「私達の未来に!」
「「「「「「「私達の未来に!」」」」」」」
チンッ! とグラスを合わせて酒を飲み干す。目の前には沢山の料理が並べられ、俺達は席に座ってそれを食べ始めた。
「おいしい!」
「本当ですわ」
俺がミラーナ達に言う。
「聖女邸の面々と、シルビエンテさんの協力で作った料理だよ」
「すばらしいです。BARの料理の参考になります」
「あー。BARマドンナだけど、この件が終わったらどうする? 修道士に戻ってもいいし、そのまま営業を続けても良いと、モデストス神父とは話がついているけど」
「正直な所。こちらの世界が性にはあってますが、私達は聖女様のお役に立つように動きたいのです。ですから、有効に活用ください」
「そうか…。なら悪いようにはしないよ。どうするかは考えておくね? 教会にバレた時がマズいから多分継続は難しいかもしれない。続けるなら修道女は辞めないとね」
「「「「「はい」」」」」
俺の仲間がかなり増えた。シルビエンテとゼリス以外は女しかいない。なんと居心地のいい空間だろう! 皆が楽しく食事をしているのを見て、目じりが下がって来る。これから大変な事をするのだから、その前に皆の楽しい顔をこの目に焼き付けておこう。
アンナが言う。
「上機嫌だな」
「うれしいんだ。皆が一丸となって頑張ってくれた事。そしてみんながこうして仲良くやってくれている事に」
「そうだな。皆が聖女に救われた奴らだ。今度は皆が聖女を救う番だと思っているのさ」
「本当にうれしい」
俺は女が大好きで、女を苦しい事から解放してあげたくて奔走してきた。女が笑うのが一番だと思ってこれまで走ってきたんだ。女の涙なんて飯がマズくて仕方がない。だが今、皆が目の前で笑って酒を酌み交わしている。身分も何も関係なく、平等にお互いを尊重し合いながら話に花を咲かせている。
理想だ。今目の前に理想がある。だがここに足りないピースが一つ、それはソフィアだった。彼女は今どこで何をしているのだろう? 泣いているのだろうか? 笑っているのだろうか? 不安に思っているのだろうか?
早く救い出したい。もし今が満足ならそれでいい、だけど苦しいならすぐに解放してあげたい。思えばその為だけに突っ走ってきたと言っても過言ではない。
今目の前で楽しそうに飲んで話をしている皆を見ていると、より一層ソフィアへの想いが強くなるのだった。だが目の前のみんなも大好きだ。
ああ、愛おしい。
酔っぱらって来たし目の前の彼女らが愛おしくて、しょうがなくなってきた。
チューしたい。
かわええ…
ピーン!
良い事を思いついてしまった。こう言う事は酒の勢いでやってしまおう。
「皆さん! これから皆さんは大変な思いをするかもしれません。ですから皆さんの安全を祈って女神フォルトゥーナの加護を与えます。席についておまちください」
そして俺は席を立ち、最初にミリィの所に行く。
「女神フォルトゥーナのご加護を」
ミリィが目をつぶって軽く俯いたので、俺はミリィのおでこにかるくキスをした。だがミリィは当たり前のようにそれを受け入れ、あまつさえお礼まで言って来た。
「ありがたき幸せ。感謝いたします」
そして俺は隣のスティーリアにも同じことをする。するとスティーリアも丁寧にお礼を言って来た。
こりゃ調子いいぞ! なんかみんな普通だと思ってくれている。
俺は調子こいて全員のおでこにチューをしていくのだった。もちろんシルビエンテはスルーし、ゼリスはキスする真似だけをしたけど。
アンナが終わり最後のシーファーレンの前に立つ。するとシーファーレンは真っ赤になり、息遣いも多少粗い感じになっていた。俺がスッとシーファーレンのおでこに口づけをすると、更に顔が真っ赤になりお礼を言って来る。
「ありがとうございます! 全てが報われた気がしましたわ」
お礼がみんなとちょっと違うけど、喜んでくれたので良しとしよう。加護の口づけが終わると、皆が頬を染めて俺を見つめていた。
あれ? なんか言わなきゃいけない?
「あの。この食事が終わったら身を清めましょう。なんと賢者様のお屋敷には温泉が湧いているのです。ミラーナ達もどうぞ一緒に」
「えっ! せ、聖女様とご一緒に、湯あみを?」
「そう。皆が決死の覚悟でやってくれたんだし、直前は一緒に身を清めましょう」
「「「「「はい!」」」」」
ミラーナ達、BARマドンナの五人は恥ずかしそうに返事をした。聖女邸では当たり前の事だが、彼女らにとっては衝撃的だったらしい。
全ての食事を終えて、皆で後片付けをした後、俺達は着替えを持って温泉に集まった。こんなに大勢の女と一緒に風呂に入れる幸せを嚙み締める。
更に顔を赤くしたシーファーレンが近づいて来て言う。
「あの、よろしければ、わたくしが! 本日は私がお背中をお流しいたしますわ」
「ありがとう! よろしくお願いしようかな」
俺は思わず、シーファーレンのたわわな双丘を見つめてしまう。
これが背中に…
女に生まれ変わって本当に良かった。皆が無防備に俺に裸体を晒してくれる。この世界の男はこの事を知らないし、誰もが憧れる夢の時間なのだ。明日の決戦に備えて、ゆっくりと堪能する事にしよう。そんな事を考えながら、温泉の扉を開けるのだった。




