第245話 異世界に来たからには本気出す
この世界の男…ちょろい。ちょろ助ちょろ男がいっぱいいる。男社会というのはもしかしたら、めっちゃダメダメなのかもしれない。
聖女の名前で、フォルティス第一騎士団長とバレンティア近衛騎士長とケルフェン中将に接触し続け、上層部に対しての啓蒙をしてきた。時折お忍びで面談をして直接談判まで行った。
まあ、めっちゃ嫌でゲロが出そうだったけど。
またBARマドンナを隠れ蓑とした、女を最大限利用した騎士の懐柔作戦。上と下から攻め軍部の掌握をコツコツと行った。さらに聖騎士団にも動いてもらう約束を取り付けている。
なぜこんな真似をしているのか?
俺は邪神ネメシスと同じような手を使い始めたのだ。正攻法でやっても、ネメシスはすぐに足元をすくってくるようなずるがしこい奴である。どうやらネメシスは金や地位や利権、そして欲望を餌に貴族や王子を釣っているのだ。
ならばこちらは何で釣ろう? という事になる。
まずこの世界の男は二種類に分類された。ひとつは積極的で気が強い女が好きな男達、いわゆる女神フォルトゥーナの武勇伝や御伽噺が好きな信者。もうひとつは従順な女が好きで、何でも自分の思い通りにしたい男尊女卑の権化のようなやつ。
もちろん俺は女神フォルトゥーナの軍勢であるからして、前者をフル活用しようという事になった。やってみて思った事は、聖女ブランドがこの上なく強力な事。帝国との戦いや西部の国との火種のもみ消し、ワイバーンの討伐等々俺が今までやってきた事は、女神フォルトゥーナの御伽噺が好きな連中にはたまらんのだ。
おかげで俺達の秘密裏の作戦は、思いの外とんとん拍子に進む。軍部を掌握しクーデターも不可能ではないほどに。軍部はもし今日、俺の号令があれば王宮を制圧しカリウスを捕縛できるだろう。だがカリウスとて、ただ操られている傀儡に過ぎず、俺達は真の黒幕を捕まえねばならないのである。
俺は再びルクセン辺境伯に接触する事を決めた。モデストスの教会の懺悔室。そこで俺はルクセンが来るのを待っていた。ルクセンは指定した時間にきちんとやって来る。
懺悔室の木戸を開け、俺は透かしの向こうのルクセンに語り掛けた。
「御足労ありがとうございます」
「うむ。国の大事であるから、呼び出しがあればすぐにでもくるのじゃ」
「はい。王宮のご様子は?」
「今のところは動きはない。じゃが、わしが自領に帰る日程が決まった。反旗を翻した貴族達への沙汰も決まり、既にわしが滞在する意味は無くなったのじゃ。じゃがわしは心配でならん。このまま自領へ帰っていいものか?」
「実はこちらからお願いするところでした。むしろ辺境伯には帰っていただいた方が都合がよいと、進言する予定でありました」
「何か考えがあるのじゃな?」
「はい」
「何卒手荒な真似だけは避けてほしいのじゃ。カレウスの裏切りは、自分の意思ではないという事を知ってほしい」
「分かっております。黒幕は他にいます」
「城でまた血が流れるのではないかな?」
「そうならないように、手筈を整えて来たのです。ですがルクセン卿がおられれば、カレウス様を守らねばならない立場になります。恐れ入りますが帰る日程をお知らせください」
「五日の後に出立する」
「わかりました。変更があれば教えてください」
「わかったのじゃ。他には?」
「ありません。常に護衛だけはお連れになるようにお願いします」
「そうじゃな。わしとて、まだまだ捨てたもんではないのじゃが」
「無理はなさらずに」
「気遣いありがとう」
「それと」
「なんじゃろ」
「ウェステートによろしくお伝えください。こちらが安全になった時には必ず呼びます」
「うむ。楽しみにしておった」
「はい」
「では、御武運を祈る」
「ルクセン卿もお気をつけて」
そしてルクセンは懺悔室を出て行った。ルクセンがいては事が上手く進まない為、領に帰るように促そうと思っていたが既に決まっていたらしい。こちらから説得する手間が省けた。
俺が懺悔室から出てアンナに言う。
「ルクセンが王都を出る日が近い」
「わかった」
俺達は変装しモデストスの教会を出てBARマドンナに向かう。まだ営業時間前なのだが、ミラーナ達は既に開店準備していた。
「こんにちは」
「どうぞお入りください」
「決行の日が近づいている。小隊長格の騎士を呼び込んで、通達を出したい」
「かしこまりました。では明後日の夜に」
「よろしく頼む」
「はい」
俺達はすぐにBARを出て、その足でギルドに向かう。ギルドに入って真っすぐにビスティーの元へと歩み寄った。
「ビスティー、ちょっとこちらへ」
「はい」
彼女をカウンターから出して、掲示板の前に立たせ質問するような仕草で話し出す。
「朱の獅子に伝言を」
「はい」
そして俺はしたためてきた書簡を渡した。
「ビスティが直に渡して」
「わかっております」
既にビスティは美味しいお菓子責めとギルド以外のお小遣いで、俺達の子飼いになっている。ギルドマスターのビアレスが敵ではない事は分かっているが、杓子定規でなかなかに柔軟性が無いのだ。規則と決めごとを順守する方が優先で、正規のルートを通すと時間がかかってしまうのである。もちろんギルドは、国とは全く別の組織だから関係ないと言えば関係ない。俺の事情を優先する義理立ては無いのである。
「ではよろしくね」
「はい」
今まで、これほどに周りを巻き込んで手回しをした事は無かった。だがそれもこれも、全てはシーファーレンの魔道具のおかげ。ヴァイオレットが実家から持ってきた、大量の魔石無くしては不可能だった。
「じゃ、行こうか」
「ああ」
「私はこれほどに、うち(聖女邸)の面々が心強いと思った事はないよ」
「みんな凄い」
「そうだねエンド。私は皆に報いなきゃいけない、そして今度こそはネメシスの尻尾を捕まえる」
「もちろんだ」
俺達は他人に化けたまま路地裏に入り、反対側の大通りに抜ける頃には、また違う人間になっていた。そこにシルビエンテを乗せた馬車がやって来る。
「時間通り」
俺達はシルビエンテの馬車に乗り込んだ。
「お疲れ様でございます。首尾は上々ですかな?」
「予定通り」
馬車は夕暮れの王都を行く。俺がこれからやろうと思っている事は、非常に危険な事だ。だがいろんなところに忖度して、手加減をしていては勝てない相手だと知った。これから決死の仕事が待っていると思うと、ぶるりと武者震いしてしまうのだった。




