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★アリーヤサイド
「『社交界一の美丈夫』の私の名誉に関わることでな!」
「名誉?ですか?」
アリーヤはそのアメジストの瞳でオーランドを訝しげに見つめる。
「そうだ。ふと、お前の悪夢の事を考えてな。『社交界一の美丈夫』な私は麗しい淑女の味方だ。そんな私が、夢の中とは言えお前を傷つけていたらと気になってね」
アリーヤは思わずびくりと体が跳ねる。悪夢を見ているのは知られているが内容までは知られていない。オーランドはいつものように軽い口調で話す。きっと本当に自分が出てきたか少し気になった程度なのだろう。けれどアリーヤの心臓がドクドクと鳴り響く。
「な……ぜ、そんな…事を?」
「先程も言ったろう?淑女の味方の私があんな事やそんな事をしていたらと思うと『社交界一の美丈夫』の名折れだ……私はどう償えば良いのか分からず、夜しか眠れん!」
「……夜しか眠れないのは普通ですわ……」
(大体、あんな事、そんな事って……何を想像してるのかしら)
オーランドのいつも通りのナルシストな言動にほっとする。確かに夢の中ではオーランドの言動に傷ついたが、翌々考えれば自分が勝手に傷ついただけだ。
言いたくも認めたくも無いが、オーランドはただ自分の夢の中でリリアーナと仲睦まじくしていただけ。実兄の幸せを喜んでやれない自分がおかしいのだ。
「お……お兄様は確かに出てきましたが、お兄様は何も悪い事はなさっていませんでした」
オーランドは大仰に頷きアリーヤの頭を髪がわざとくしゃくしゃになるように撫で、
「……ふむ。そうかそうか!それは上々!私がお前を傷つけていなくて安心したぞ。『社交界一の美丈夫』が夢の中であろうと女性を傷つけるなどあってはならんしな。しかし夢の話は気分の良い話ではなかろう。お詫びに私がとっておきの茶を淹れよう。私の茶は好きだろう?」
オーランドはそう言って満足気に紅茶を淹れに行く。オーランドに何も気付かれていないようで安堵した。と言うより本当に下らない事を気にしていたのだなと思う。
だが、今思うとなぜ、オーランドがリリアーナと居た事に傷付いたのか分からない。リリアーナの隣にいるのが婚約者のレオナルドならなんとも思わないのに。なのに、オーランドの隣にいる女性がリリアーナ以外でも自分はきっと傷ついた。
けれど、考える事はしたくなかった。




