第31話:記憶
グリフォンと共に洞窟を進む、洞窟内部は入り口こそ暗かったが途中からは天井に裂け目がありそこから光が入って来ていた。
「この先に、何かあるのか?」
「ピュィ!」
慣れているのか器用に進んで行くグリフォン、しばらく進むと凄く大きな縦穴が現れた。
羽根を動かしている、どうやら降りるようで背中に乗れと言う事らしい。
「よっと……そこらへん掴ませてもらうぞ」
「ピューィ」
背中に乗り降りていく、おおよそ天井からの光が入らなくなるくらいまで下がると目の前に〝とんでもないもの〟が現れた。
「ほう、何やら懐かしい匂いがすると思ったら……客人か……」
現れたのはこの世界に来て初めて見る大型の竜だった。
「ピュィ!」
グリフォンに押され竜の前に立たされる、既に目が見えないのか匂いで俺を探る。
「成程、そういう事か……あ奴め、奇特な事をする……」
「えっと……訳が分からないのですが……」
「ふむ、お主と同じ匂いを知っているという事じゃ。そしてその者との盟約を果たす為に我がここに残ったという事でもある」
竜がもぞもぞと動く、するとその体の下から階段が現れた。
「さぁ、入るがいい」
「わかりました……」
灯りの魔道具を取り出して階段を進む、暫く下がっていくと突き当りが現れた。
「行き止まり? 壁にも何も無いし……っつ!?」
壁から出ていた蔓の棘に指が引っかかり血が流れる、すると周囲が光り先へ壁が動いて先へ進む道が開かれた。
「マジか……こういう仕掛けがあるって事はダンジョンかよ……」
推定ダンジョンへ足を踏み入れる、魔力探知と尖らせた神経で進んで行く。
「とは言っても、一本道なんだよな。左右に部屋はあるけど基本的に何も無い空間だし……」
その後も敵も仕掛けも無い空間を進んで行く、そしてまた突き当りが現れる。
「今度は何の仕掛けだ……?」
扉の周辺を撫でていると、草に覆われたプレートがあった。
「えっと……『過去を背負いし剣をここに突き立てよ』」
『過去を背負いし剣』そんなそんな剣持ってないぞ?
「うーん……剣という割に太さはレイピアかナイフくらいだよな?」
太さとしてはレイピアかナイフならば入るサイズである。
「レイピアは持ってないし。なんか、古いナイフ刺してみるか」
初めて師匠に連れられて入ったダンジョンの踏破記念で貰った、背にギザギザがある思い出のナイフを差し込む。
――ガゴン。
その音と共に壁が動き道が出来る、しかも次は階段だ。
「なんか、この仕掛けを作った人が誰だがわかって来たぞ……」
恐らく師匠だろう。あの人森に出かけたっていうけどダンジョン作ってたのか……。
そして降りていくと鉄の扉が現れる。
――ギギギギギギ……。
「マジか……」
扉を開けた後、部屋にあったのは色褪せない輝きの武器達と沢山の本や謎の〝物〟だった。
本の内容はあり過ぎてわからないのだがお伽噺から小説、果ては古い魔法式が書かれたかなり貴重な物ばかりだ。
「うむむ……読めない……俺達の使ってる言語じゃないみたいだなぁ……」
古代語だろう解析するにしても俺一人じゃ無理だろうし皆の知恵を借りるか……。
「それと、こっちの武器達はまさか竜剛鋼なのか?」
噂で聞いたのは『竜剛鋼の武器は魔石があれば朽ちずその輝きと鋭さを永遠に維持し続ける』ってことなのだが。
「これを見る限りそれは正しいっぽいな……。」
朽ちて砂状になった魔石達の上に置かれている竜剛鋼の武器達、しかも手に凄く馴染む。
「とりあえず、外に出たら奏さんと恵さんに渡すか……」
そして最後、目の前に鎮座しているのは漆黒の卵らしきものである。らしきものと言うのは形状がとげとげしているのだ。
「これは……持って帰った方がいいのかな?」
とりあえず持って行って、あの竜に聞いてみようかな?
空間収納に入らないので何枚かの布に包んで背負う、滅茶苦茶デカいので背負うので精いっぱいだ。
「とりあえず必要そうなものは持ったし、また来ればいいか」
扉を閉めつつ来た道を引き返していく、出口に近づくと2匹が楽しそうに話している。
「ほうほう、楽しそうだな」
「ピュィ♪」
「いつかワシも、また空を飛びたいもんじゃ……」
「ピュィピュィピュィ、ピュュュュィ!」
「ははは、それは楽しそうじゃな! ならば数年待つとするか!」
「ピュィ♪」
「えっと、もどりました……」
「ピュィ♪」
「おお、帰ったか……あ奴が役立つものをが入ってると言っておったからな……どうじゃったか?」
「ありがとうございます、凄く役立ちそうな物ばかりでした」
「そうかそうか、ではワシは又休むとしよう……」
「ピュィ♪」
入り口を隠し休眠に入ろうとする竜……その前に聞きたい事があったんだ。
「す、すみません! これってなんだかわかりますか!?」
卵の様な物を鼻に近づける、しばらく匂いを嗅いだ竜が瞼をピクリと動かす。
「……んんっ? これまた懐かしいものを……」
「知ってるんですか?」
「あぁ……いや、これは言わないでおこう。お主の家においておけ、やがて守り神となってくれるだろうからな」
「えぇ……危険な物じゃないですよね?」
「大丈夫だ、当分は何も起きん」
この竜の当分っていつまでかわからないぞ……。
「わかりました、大切に保管します……」
そして、幾つかの落ちている鱗を貰い、グリフォンに跨る。
「ピュィ♪」
その鳴き声と共に宙に羽ばたく、そして行きと同じように洞窟を抜けると空に飛び立つ、とんでもないスピードで……。
「ピュュュュュュィ♪」
「ひゅっ――――――!?」
一瞬で最高速になったグリフォンにしがみ付きつつ俺達はユグラシアへ戻るのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇老竜<ガルフレド>side◇
今日は、懐かしい匂いのやつが来たのぅ……。
何年ぶりだろうか、あの匂いを嗅ぐとあの時の事を思い出す……。
◇◆◇◆
「おう、ガルフレド。久しぶりだな!」
「お主か……まったく性懲りもなくまた来よって……」
「まぁまぁそう言うなって」
「いつものダンジョンか?」
「あぁ、攻略は簡単だけど、かなりの階層があって困ってるんだよ、しかもお前の魔力で生まれたからモンスターは竜系ばっかりだしよ……」
「ほう? よくもまぁワシに勝っておいて、そんな泣き言を言うな?」
「いやいや、アホみたいに広いし。ラスボスみたいな敵ばかりで困ってるんだよ……それに、姫ちゃんの剣術も見てやらないといけないしな」
「ほう、お主が師とは化け物でも量産するつもりか?」
「いやいや、仕事だから……」
「お主がまともに仕事をするとはな……」
「どういうことだ! ガルフレド表に出ろ!!」
「悪い悪い、随分と耳が遠くなってな……それより、時間は大丈夫か?」
「やべぇ! まったく、この酷い竜め!!」
◇◆◇◆
「中々に改築が大変なんだよ、上手く水が出ないと水没しちまうし……」
「お主にも苦手なものがあったとはのう?」
「まぁな、これでも建築関係は、学んだんだけど難しい事ばかりだよ」
「ほう、では楽しみに待っておるぞ」
◇◆◇◆
「ガルフレド、そろそろ俺次の場所に行くよ」
「そうか、お主が来て何年だ?」
「んー最初に来たのは 年前だから……もう 年だわ、早いなぁ……」
「寂しくなるな……」
「大丈夫だよ、またその内俺の弟子が来るだろうから」
「そうか、ではその時が来るまでワシは寝て待つか」
「そうだな、お前の睡眠は年単位だもんな、だったら一瞬だな」
「まぁ俺も、やる事終えたらまた来るさ」
「そうか、楽しみにしてるぞ」
◇◆◇◆
そして……今日弟子が来たぞ……。
微睡の中に落ちていく最中、懐かしい記憶が巡るのだった。




