第29話:ロルティリアちゃんの訓練と歓迎祭
「し、師匠!?」
「はい、お姉様はまだ早いと言ってばかりなので。ホウショウ師匠に教えてもらいたいのです!」
「ティリア!? そ、それなら私が教えてあげても……」
「でもお姉様、私には早いんですよね?」
そういわれて何とも言えない顔をするエルスリリア。
「ですので私はホウショウ師匠に教えを請います!」
プイっとそっぽを向くロルティリアちゃん、エルスリリアは取り付く島が無い様で肩を落としている。
「うぅ……」
「つーんですの」
「ま、まぁ……二人共喧嘩しないで。ロルティリアちゃん……エルスリリアも人に教える事に慣れてないからだろうから。ロルティリアちゃんへ教えれないんだと思いますよ」
「そうですね、エルスリリア様は教えるのが超絶下手ですし……」
「そうですね、この間も兵士の方に技のやり方を教えていたのですが、」
「終始分からないといった表情をされてましたし……」
「ぬおぉぉぉ! それは、それだけは言わないでくれ!!」
どうやら、教えるのは超絶下手な様でその結果ロルティリアちゃんの指導が出来なかったらしい。
「わかりました、それでしたら期間限定の師匠となりましょう。そしてエルスリリア俺が教え方を教えるから、その後はロルティリアちゃんの師匠になってあげてくれ。ロルティリアちゃんもそれでいいでしょうか?」
頬を膨らましているロルティリアちゃんは、俺の提案を聞いて嬉しそうにする。
「わかりましたわ、そのご提案お受けいたしますわ」
嬉々としているロルティリアちゃんと、悔しそうに俺を見るエルスリリアだった。
◇◆◇◆
それから1時間程の間、枝の持ち方や振り方を教えた後ロルティリアちゃんの体力の限界が来た。
「よし、今日は終わり。よくがんばりました」
にこやかに笑いながら汗だくの頭を撫でる、本人も満足げな顔をしている。
「では、ロルティリア様こちらへ。お風呂の用意が出来ております」
「はい! 師匠、ありがとうございました!」
元気に挨拶してルルナさんと共に出て行った。満足げにしていたエルメガリオス様も終わる少し前に、何やら兵士が来て呼ばれて行ってしまった。
「満足したみたいで良かった良かった。さて、エルスリリア俺はもう少し動いてから部屋に戻るけど君はどうする?」
「そうだな、私も教えてもらいたい事があるのだが、良いだろうか?」
さっきの教え方の話じゃ無さそうだな。
「ところで、先程の枝で木を斬る技。私は終ぞ習得できなかったんだが、どうやってやるのだ?」
興味津々に聞いて来る、それにしても師匠に教わったなら自力で辿り着きそうだけど……。
「簡単だよ、こうやって枝に魔力を通して……」
予備の枝に魔力を通して木を斬る、断面も綺麗でくっつきそうだ。
「んんっ? こうか?」
難しそうに魔力を通すエルスリリア、自身の身体に纏わせるときは綺麗なんだけど、物質に魔力を通すのが苦手な様だ。
その証拠に、軽い風切り音と共に、振っていた枝が縦に割れる、枝のほうが駄目になったか……。
「今のは失敗だ、魔力を込めすぎると今みたいに割れちゃうんだ」
「ぐぬぬ……難しいな……」
「そうだね、魔力のコントロールもかなり必要だし、慣れないと枝が弾け飛んで危険だからね」
「そうなのか!? なんでそんな恐ろしい事先に言わない!!」
持っていた枝をおっかなびっくりと地面に置くエルスリリア。
「……確かに。師匠、スパルタだったもんなぁ……」
わざと折れそうな枝だったり、魔力の通り辛い生木の枝だったり、凄く意地悪だった。
(でも、お陰で緻密な魔力操作が出来るようになったからなぁ……)
その経験は今でも生きてるし、会う事があったらちゃんとお礼を言いたいしな。
「そうだ、師匠はどうしてここに?」
あの師匠の事だ、ただの剣術師範として呼ばれた訳じゃないよな。
「すまない、わからないんだ。師匠は週一回ふらっと森の中に入る事はあったのだが基本は剣術の教練と大型モンスターとの戦い方。それと防空設備の開発をしていたな……」
「防空設備?」
「あぁ、元々わが国には空飛ぶ魔物に対してのグリフォン騎士はあったのだが。街などには魔術師達を配備するくらいしか無かったのだ。それだと、四六時中見張る事になる、それに悩まされていたんだ。だが師匠が来て〝バリスタ〟や〝投網装置〟なんかの設備を開発してくれたんだ」
「そんな事やってたのか……確かにあの家、俺に馴染みのあるものが揃ってたな……」
ポットにコンロ、しまいにはトースターとかあったもんな。師匠は異世界から流れて来たものって言ってたけど、よくよく考えるとこっちの世界で使えるにしてたの凄いな。
(それに師匠はかなりの長寿って事になる。俺と会った時は30代の顔つきだったけど、エルフの里に来てたのが20年前って話だし)
「うーん、詳しい事はエルメガリオス様に聞くか……」
「うむ、そうすると良い」
「それで、エルスリリアは、もう練習を終わりにするの?」
先程枝を置いて以来ちょっと枝から距離取っているエルスリリアに問いかける。
「むっ、そう言われると、ムカつくな……もう少し、練習しよう」
「あぁ、俺が見てるし大丈夫だよ。危なくなったら止めるしな」
まぁ、今のエルスリリアだと、魔力を流すのが小川みたいなもんだし、破裂とかはなしなさそうだけどね。
「そ、そそうか……」
そして、エルスリリアの訓練に付き合い夜にが更けていくのだった。
◇◆◇◆
「さぁ! 今日は我が盟友ユノネル王家の娘が勇猛な夫と共に来てくれた! 皆の者、今日は宴である!!」
「「「「「わぁぁぁぁぁ!!」」」」」
エルメガリオス様の掛け声で一気に騒がしくなる会場……というか会場が街全体である。
「さて、ホウショウ殿、ネリーニア、ネモフィラ嬢、ミモザ嬢、アラテシア様、挨拶回りに行くぞ」
エルメガリオス様に言われ、俺達はエルフ国の貴族達や街を回る。言われていたよりかは俺達が人間だとしても嫌な顔はされていない。
「なんか、思ってたよりも嫌な顔をされずに済みそうね」
「そうだね。でも、皆が嫌な顔をしないのはネリーニアが居るからだよ。君のご両親……もといユノネル王家は凄くこの国の民に好かれているんだよ」
周囲に居る国民達も大きく頷いている。
「そうだったんですね、でもどうしてですか?」
ネリスフィニアがあった時に、俺はこちらの世界に居なかったので疑問が生まれる。
「それはね、ユグラシアの建国が起因しているんだ。今から2000年以上前に、ネリスフィニアから別れるまで、我が国はネリスフィニアと国境を同じとしていた国なんだ」
「そうだったんですか……」
「あぁ、当時からの言い伝えになるのだが、当時はエルフ狩りが世界各地で異常に行われていてね。長く生きたエルフの肉体を焼いて煎じれば不老不死になるとか、見目麗しい故に攫われ、性奴隷とされていたりと酷いものだったんだ」
顔を顰めさせながら言うエルメガリオス様、もしかしたらもっとひどい目に合っていたのかもしれない。
「それに心を痛めたネリスフィニアの王が世界各地のエルフを助け出し、民と共にこの森や山を切り開き山神に許しを得てここに国を築いたんだ。そして、ネリスフィニアはユグラシアの門と化したんだ。現に、森の入り口で使われていた魔法は当時のユノネル王家の姫が我が国の王子と結婚する際に施したものなんだ」
「でもそれは、かなり昔の事じゃ?」
「そうだね、おおよそ800年前に施された魔法だけど、その発動者は今でも生きているよ」
そう言ってエルメガリオス様がこの国の中心になっている大木を見上げる。
俺達も釣られて見上げようとした瞬間、空を影が覆った。




