第19話:甘いですわ……。
「という訳で、一度顔合わせしてみようと思うんだ」
「「「「………………」」」」
皆が一様に黙っている。
あれから、皆に今日あった事を伝える為に個室のあるレストランへ、皆でやって来ていた。
「なんて言うか……」
「早かったですわね……」
「流石としか言えないですわね……」
「相変わらず、凄いわねぇ……」
皆に呆れられる、流石にイブキ公爵も本気でお嫁さんとしてじゃないでしょ?
「甘いですわ……」
「甘いねぇ……」
「甘いと思います!」
「甘すぎるよ……」
そこまで言うのか……。
「少なくとも。イブキ公爵は隙あらば、お嫁さんにねじ込んでくると思いますわ」
「自分の所の娘が、失語症で社交界デビューの出来ないとなれば。今、大注目の〝英雄〟の元に嫁がせるのは大いにアリよ」
「でも、凄く条件は良いんですよね……イブキ公爵と言えば悪い噂は聞かない。第一王子様と並んで魔の森の最前線で国を防衛している〝英傑〟の一人ですから」
そういえば、この国。第一王子様・イブキ公爵・第一騎士団団長の三人が3英傑と呼ばれてるんだよね。
「でも、ツバサの評判は下がりそうね……」
「「「確かに……」」」
・ハーレムを形成している。
・内、性奴隷を3人所有。
・正妻は貴族だが、元スレヴァン家。
・叙爵式に連れて来たのは、デビュタント前の少女で第三王子の影武者との噂がある。
・市民には子宝の恩恵があると思われてる
「……俺って、相当に変態か変人と思われてない?」
「気付きましたわね」「気づいちゃったか~」「あ、あはは……」「今更よね」
全員がそう返してくる、何とも現実は残酷である……。
「と、兎に角……明日、イブキ公爵を交えて顔合わせをしようと思うから……もし、まずそうなら断るよ……」
そう言って今日の夕食会は終わりを告げた。
◇◆◇◆
翌日、とりあえず我が家は無理なので。エルヴィール邸で迎えようと準備をしていたら、イブキ公爵が『今宵の顔合わせと食事会は我が家で行いたい』との連絡が来たのでお言葉に甘える事に。
「皆、準備は大丈夫そう?」
「はい、何とか間に合いそうですわ……」
試着室より出て来たのは来い青色に染まったドレスの奏さん、胸元はそこまで空いて無いのだが、その代わりにスカートの部分に大きなスリットが入っている。アンクルには金の装身具が付いてる。
「うん、問題無いかな……でもこの宝石良いの?」
次に出てきたのは恵さん、白で纏めたドレスに大きなルビーが入ったネックレスを付けている。
「良いんじゃない? 私達の中だと比較的、胸元が寂しくなっちゃうし。それにそこまで値段はしないものね、ホウショウ?」
真っ赤なサテン地のドレスで出てきたのはカトレアである。胸元のスリットが深く、お腹まで見えそう、というかどうやって留まってるの?
「……これ本当に着なきゃダメですか?」
試着室より顔を覗かせるのはセレフィーネ、おずおずと出て来たけど……なんかもう凄いとしか言いようがない。既製品で入るサイズが獣人用で、それしか無かったという事もあるがコルセットに上に胸が乗っかっていて肩紐が無いのだ、なんか固定装具の魔道具を使ってるみたいで外れない仕組みになってるのだとか……。一応ケープ(シースルー)をかける事が出来るのだが、それがより淫靡さを増している。
「仕方ないでしょ、前に仕立ててたドレスが入らなくなってるんだもの……屋敷のメイドさんも驚いてたわよ……」
カトレアが引っ張り出してくる、スカート部分も獣人用ので、全体の形として右に流して大きくスリットの入ったスカートである、説明されたのは歩きやすさを重視しているらしいのでこの形の様だ。
「あれでまだ、私達と一個違いなのよね……」
「凄いですわね……大きいと思っておりましたが、想像以上ですわ……」
別にセレフィーネは太ってるとかじゃないんだけどね……、でも本人も未だに成長を続けている身体に困惑している様だ。
「と、とりあえず、出発しようか……」
時間も無いので馬車に乗り込む。イブキ公爵の馬車には恵さんとカトレアとセレフィーネが。エルヴィール家の馬車には俺とジャンケンで勝った奏が乗り込む。
暫くすると、豪華な門構えの家々が並ぶ区画に入る、ここは公爵家や侯爵家の区画で奥の方にイブキ公爵家がある。
「ここまで来たのは初めてだな……」
「道も広いですわね……衛兵の数も多いですわ……」
奏さんが言う通り、武装した衛兵の数が多く、数多くの視線がこちらを捉えている。
「一応、名目上はまだ男爵家ですからね……」
「そういえば、そうだった……」
そりゃ視線も集中するわ……先導してくれてるのがイブキ公爵家じゃ無ければ止められてただろうし。
「そろそろ着きますぞ、ホウショウ殿頼みます」
爺やさんに声を掛けられ、最後の身だしなみチェックをし終えると緩やかに馬車が停まるのだった。
◇◆◇◆
「やぁ、ホウショウ殿。よくぞ参られた!」
馬車を降りると迎えてくれたイブキ公爵に握手を求められる、その間に皆がメイドさん達に連れられて馬車より降りてくる。
「素晴らしく美しい奥方達だな。存分に褒めたい所ではあるが、愛する妻に怒られるのは避けたいので割愛させてもらおう」
そう、苦笑いをしながら皆に声を掛ける。確かに俺の時より1歩分後ろに下がっている。
(まぁ、ティティアちゃんがあの歳で末子という事は相当ラブラブなんだな……)
イブキ公爵の案内で邸宅内へ通される、そこでは奥さんらしき人が待っていた……。
「どうも皆様、私シェルティア=イブキでございます」
どう見ても俺より年下な見た目の女性だ。というか、奏さん達と同じっぽいんだけど……。
「どうも、グリフィオル様と親しくさせております、ホウショウ=エルヴィールでございます」
それから、皆が挨拶を終えて移動する。道中、イブキ公爵が耳打ちしてきた。
「妻の見た目に驚いてであろう?」
「えぇ……」
「まぁ、思ってる通りで。俺より15も離れているからな」
イブキ公爵が見た目通りなら恐らく、20代前半になる。というか若いな……。
「という訳で、安心してくれ」
肩を叩かれる、何を安心すれば良いというのだろう……。
そんな、嫌な予想を抱えつつ、待ち人の居る部屋に着いたようだ。
「ティティア、入るぞ……」
イブキ公爵声に中からベルの音が帰って来る、どうやらそれが返答の様だ。
中に入ると、ティティアちゃんと、何故か第三王子様がそこに居た。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇???side◇
「ふっっっつざけるなぁ!!」
私は机の上に合った書類を思わず投げ捨てる。
そこに書いてあたのは、褒賞の儀における忌々しいホウショウが叙勲によって辺境伯へ叙勲されるとの事だ。
「あの、馬鹿伯爵の為に手回しをしたのに!! 何で! あの兄上《脳無し》は!!」
しかも、よりによって魔の森近くの領地である。
「これ以上功績を上げられると、消すに消せない……」
今大きく動くと確実に、私の手引きで色々な事をしていたのがバレる。
「頼みの綱はあの男しかない……」
余興という形であれば問題は無いだろう、それに強者同士の戦い……不慮の事故もあり得るからな……。
「だが、失敗する可能性も考えておかねばな……」
欲を出さずに……かつ安全な道にするまでは、動かないでおくしかない。
「癪だが、どこかに隙はある筈だ……それを見つけるまでは私の駒として役に立ってもらう他は無い……」
折角、怪しまれずに愚者共を扱える位置まで来たのだ、焦って全てを無にする程愚かではない。
「だが……。いつか死んでもらうぞ……ホウショウ……」




